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工具の世界 「最終話:工具について」

文 山田卓弥

 そもそも工具ってそんなにいくつも必要なのか?という疑問があると思います。
 ──プロメカニックでもない限り自分の所有する車両に合わせた工具だけがあればいいわけですし、確かに持っていれば便利そうなものもあるけどなくてもなんとかなるし──
 そんな風に考えた事がある人は多いですよね。
プラスやマイナスネジを回すのにドライバー。
切ったり掴んだりするのにはプライヤー。
ボルトナットを回すのには数本のレンチ。
究極に言ってしまえばこんなもんでなんとかなるのが工具です。
 私が工具に──というよりは整備に出会ったのは18歳の頃でして兄貴にもらったメガネレンチ5本とドライバー3本で近所に捨ててあったホンダのN360を遊びでバラしたのが始まりでした。
そもそも整備とか工具の知識自体が皆無でしたからね「少ない工具でなんとかしよう」とかそんな気概があったわけでもなく、手持ちの工具でなんとかするしか手段がなかったわけです。それでも毎日毎日チマチマと分解していってエンジン以外は3ヶ月ほどでほぼバラバラにすることが出来ました。単純な興味から始めた分解でしたがいざバラしてみると綺麗に組み直してみたくなるのは何かの性なのでしょうかね。幸運なことに家の近くにホンダ直営のパーツセンターがありましてそこに行っては小遣いから少しずつパーツを買ったり整備書をコピーさせてもらったりもしていわゆるレストアのスタートです。そんなことをしていたら毎晩のように自宅の庭先で車をイジっている少年が気になるのか町内のプロメカのおじさんとかからも声が掛かるようになり、ブレーキのオーバーホール方法とかドライブシャフトやハブベアリングの整備方法とかを教えてもらいつつ、どうしても自分では出来ない箇所ではついに「そこだけは危ないから代わりにやってやるよ」とまで言われるようになりました。そしてそこで初めてプロ整備士の仕事を見たわけです。そこで見たのは正しい整備手法と便利な工具達でした。
あんなに苦労した作業だったのにスルスルと組み立てられていく様子を目の当たりにして本当に感激したのを今でも覚えております。
 後日私はホームセンターにいって人生で初の自分の工具を購入します。まずはラチェットを買いました。おじさんがカリカリカリと使っていたあの工具がどうしても欲しくてそれに決めていたのですが、お金が足りなくてソケットまで買うことができずに自宅に戻ってからはずっとラチェットをカリカリさせてニヤついていたのを覚えています。その後は徐々に工具を増やしていき作業効率だけでなく、ボルトナットを破損させることも少なくなり、そして結果として安全に作業ができるようなりました。
私の工具に対する根本的な姿勢はこの時の「工具があると便利で安全」という原体験からきているのだと思います。

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