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1-ON-1 「地上最強のライダー」ビリー・ボルトのスーパーエンデューロ

ハードエンデューロのシーズンを終えた瞬間から狂気のスタジアムエンデューロのシーズンがスタートした。英国出身のエクストリームヒーローが語るFIMスーパーエンデューロの内幕。そして誰も真似することができないレース哲学。

Past winners of FIM SuperEnduro

Season Rider Motorcycle
2007/08 United Kingdom David Knight KTM
2008/09 Spain Ivan Cervantes KTM
2009/10 Poland Taddy Blazusiak KTM
2010/11 Poland Taddy Blazusiak KTM
2011/12 Poland Taddy Blazusiak KTM
2012/13 Poland Taddy Blazusiak KTM
2013/14 Poland Taddy Blazusiak KTM
2014/15 Poland Taddy Blazusiak KTM
2015/16 United States Colton Haaker Husqvarna
2016/17 United States Colton Haaker Husqvarna
2017/18 United States Cody Webb KTM
2018/19 United States Colton Haaker Husqvarna
2019/20 United Kingdom Billy Bolt Husqvarna


狂気の3ヒート

FIMインドアエンデューロ、その2022シリーズの開幕戦ポーランドGPを2週間後に控え、ビリー・ボルトはスペインのインドアトラックで負傷。腕を手術するほどの重傷で、インドア開幕戦の出場はちょっと難しいのではないかとまで言われていたが、ポーランドでのビリーは「凶悪」とすら形容されるインドアのトラックをまるで簡単なレイアウトであるかのように乗りこなして見せた。
 FIMイベントでは基本的にGO PROの使用が認められていないので、最近はなかなかオンボード映像を見ることもできなくなっているが、現在のインドアは本当に特別なレース、トラックで行われている。タディ・ブラズジアク曰く「インドア用のバイクは異常なコースに合わせるため特別なセッティングで、普通のライダーに乗りこなすことができるものではなくなっています。サスペンションはハード、バランスも特殊で、普通のトラックで乗るのは難しいほどです」。
 そこでは今どんなことが起こっているのか、ENDURO21は、インドアチャンピオンでもあるビリー・ボルトとマッシュパイを挟んでじっくりと話しを聞く機会を得た。いつもよりちょっと長いインタビューのはじまり。

負傷、ジローナの名医

-- 結果的にインドア開幕戦のポーランドでは勝利をつかむことができたわけですが、直前まで危機的な状況だったことをみんなが知っています。どんな経緯だったのか、改めて教えていただけませんか。

BB : スペインで練習中にちょっとしたクラッシュで腕を強打してしまったんです。肘に水が溜まってパンパンになってしまい、医師は切開と縫合が必要と判断し、その通りに手術が行われました。1週間後には、イギリスのタフワンというエクストリームエンデューロに出場していました。怪我は思っていたほど悪くなく、しかもタフワンはFIMインドアに比べると「マイルド」なレースなので特に問題ないと感じました。(実際、ビリーはこのレースで優勝)。
 タフワンの後はすぐにスペインに戻って、またインドアに向けてのトレーニングを開始しようとしたのですが、ちょっと乗って見て、あまり状態が良くないことがわかり、すぐに練習トラックを引き上げて病院に向かいましたよ。
 数人の医師に相談し、結果、腕にドレインパイプ(体液を抜く管)を装着することになりました。水曜日に手術を受けて、木曜にはポーランド行の飛行機に乗る予定だったんですが、さすがに間に合わず、スタジアムには遅れて到着することになったんです。

-- インドア開幕戦を欠場するという選択肢はなかったんですか?

BB : ジローナ(スペイン)で、多くのライダーを診ている外科医は本当に優秀な人で、私の状態について「乗ってもいいが、強い痛みは覚悟しなければならない」と話しました。2つの血腫と感染症があり、それが腕の内部で強い圧迫となり、強い痛みになる。今はひどく痛むはずだが、確実に改善に向かっていると彼は明言、それが私にポーランドに行く勇気を与えることになりました。手術は全身麻酔で行われました。
 問題は、レース前にバイクに乗る時間がなかったことです。通常は、火曜日には現地でバイクに乗り、レースに備えてテストとセッティングを行うのですが、全身麻酔の手術の後、金曜日にポーランドに飛び、本番の土曜日にやっとバイクに跨ることができたんです。

電撃戦線ポーランド


-- ポーランドについた時、レースはうまくいくと思いましたか?

BB : いいえ、まったく自信ありませんでしたよ。ハードエンデューロのシーズンが終わってからは、FIMスーパーエンデューロに向けたトレーニングに切り替えていましたが、怪我をしたために2週間、インドアのトラックから離れ、インドア用バイクにも乗っていなかったんです。インドアでは4ストローク350ですが、タフワンは2スト300でしょう?
 もちろん肘の調子が戻っているわけはなく、ちょっと錆びついたような…。反応も少し鈍く、インドアの障害物に対して正確に反応するには不安がありました。
 痛みのせいもあって、とても本来のライディングができている感じはありませんでした。だから、ようやくいつものスピードが出せるようになったのは、ファイナルがスタートする頃でした。周囲のライダーたちと一緒に走れていることがわかった時には、本当にほっとしましたよ。

-- スペインでは、ジョニー・ウォーカー、リッテンビヒラー、タディといった強者たちとトレーニングをしてましたが、ポーランドで久しぶりにアメリカ人たちと対戦して何か感じるものはありましたか?

BB : 2021年はCOVID-19の影響で彼らが渡欧できなかったので、丸々1シーズン対戦の機会がなかったですね。彼らがポーランドにスムーズに入国できるかどうか、というのがまず心配でした。
 コディ・ウェッブやコルトン・ハーカーは、実際にFIMスーパーエンデューロでチャンピオンを獲得していますし、AMAエンデューロクロスはラウンド数も多く、人気もあるのでそのレベルが高いことは知っています。
 一方で、ヨーロッパのライダーもかなり技術が向上し、現在は同じように高いレベルにあると思います。私たちはいつもお互いのタイムを測定し、ラインや攻略法を研究して、いつも新しい走り方を探っています。下見ではいつも会話して、お互いにアイディアを出し合っています。
 マニュエル・リッテンビヒラーとは特に仲良しで、ハードエンデューロでもお互いをプッシュする関係です。

-- 競争相手であっても一緒にトレーニングする機会を持つことは、他のスポーツでも有効とされる考え方ですね。

BB : それは正しくもあり、時には間違ってもいます。しかしお互いを意識し、お互いに学ぶことはとても重要です。時には謙虚であり、時には競争心をむき出しにする必要があります。いつも謙虚でいればいいというものではなく、気楽に構えていたらいきなり殴られることもあります。
 私とリッテンビヒラーの関係も同じです。お互いを研究し、学びますが、競争心も同時に高め合うんです。
 レーサーとしての私たちの本質は、相手より少しだけでもアドバンテージを持つことです。それが勝者と敗者を決定づける。私たちはみんな仲間ですが、トラックの上ではお互い、打ち負かすべき相手として意識している。それがレーサーにとっての健康的な職場環境なんです。

-- コディ・ウェッブとコルトン・ハーカーの走りはどうでしたか。競争力のある相手と感じましたか?

BB : アメリカのインドアシリーズであるAMAエンデューロクロスをフルシーズンで走ってからポーランドに乗り込んできたわけですから、もう少し強さを見せると思っていましたが、案外苦労しているように見えました。でもこれは彼らの実力というよりも、AMAとFIMのトラックの作り方の違いに原因があるとみています。

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