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Parc Ferme 「エンデューロのメカニックとは?」 No.248より

Image : ISDE France2022 - Future7Media
Text : Hisashi Haruki

 エンデューロという競技の起源は、モーターサイクルとそれに関連するイクイップメントの性能向上、そしてモーターサイクル操縦技術の鍛錬に資する「トライアル=試験」にある。その目的を現在まで継承していることから、他のモータースポーツとは違った特徴を持っている。その大きなもののひとつが、モーターサイクル固有の信頼性を問うものであること、同時に、それを操る選手本人に、そのモーターサイクルの性能を維持、管理(メインテイン)する能力を求めていることだ。そのため、モーターサイクルは競技期間中に交換できるパーツが制限されると同時に、パルクフェルメ(車両保管)方式によって、整備や修理に充てられる時間も制限される。具体的には、車検に合格したらそのまま車両保管され、翌朝のスタート15分前まで閉鎖管理。スタートの10分前になってやっと整備のために車両に触れることができるようになる。スタートしたら、各タイムチェックで余った時間に整備をすることができるほか、整備のための特別な時間が与えられることはない。毎日、ゴール直前に15分間だけ整備の時間が与えられ、その時間が過ぎるとすぐにまた車両保管され、誰も触れることができなくなる。
 消耗し、破損した車両をファクトリーチームのメカニックたちが一晩かけて修理し、翌朝には新車のようなマシンでスタートする。などというシーンを見ることは決してない。すべての選手が平等な条件でモーターサイクルを維持し、2日間、あるいは6日間を乗り切る。
 整備や修理ができるのは、基本的に選手本人に限られる。ただし、メカニックにできることも少なくはない。まず、空気圧の調整、油脂の補給、ブレーキのエア抜きの補助。車体から外したパーツの清掃などは行うことができる。パーツや工具を手渡しするのもOKだ。そしてもっとも重要なのは、整備や修理についての助言だ。

 重要なのである。もしもメカニックが有能ではなく、知識も経験もないというのであれば、助言などせず、ただ、選手が求めるに従って、13ミリのTレンチを手渡したり、順番にタイヤレバーを渡したり、放り投げたツールやパーツを邪魔にならないように片付けていたほうがいい。でも、熟練のエンデューロメカニックの仕事はそれでは終わらない。

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