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Looking Back HTDE 2013 「日高の2日間が終わって」 宮崎大吾



レースが終わり、選手は次々とパドックからいなくなっていく。スタッフは慌ただしく撤収作業に励んでいる。まだ夕日が残る日高を背に、帰路につく僕はとてもセンチメンタルな気持ちになっていました。もう終わってしまったんだ。寂しいなあっと(笑)。レースでそんな気持ちになったのは初めての経験です。そのくらい、初めての日高は素晴らしかった。

Text : 宮崎大吾
Photo : 治武靖明

 まず1日目の1周目を終えた僕は、ふと思いました。いま走ってきた1周って、どこもかしこも最高だったんじゃないかと。僕の経験したなかでは、●●が最高に楽しいけど、そこに至るまでの▲▲は我慢して頑張らなければいけない(正直にいえば避けて通れたら嬉しい)、ということが多かったんですが、日高は違いました。簡単だったという意味では決してありません。「日高らしい日高を」ということで、ここ数年来もっともタフなコースだったと聞きます。気を抜けばスタック、転倒、水没もあります。
 なんと表現すればよいのでしょうか。僕のようなオンタイムエンデューロを始めたばかりのペーペーが言うのも変なんですが、「こうだったら良かったなあ」というところが1つもないんです。「1台のバイクで、多彩な路面や風景を、心地良い緊張感のなかで味わえる」と、言葉で言ってしまうとシンプルなんですが、汗をかいて、泥にまみれて味合ったこの感覚は、一生忘れないでしょう。

 細かいところを書いてみます。まず日高高原荘を出た直後のトレールは、滑りやすい路面で、日高が一筋縄ではいかないことを早い段階で知らせてくれるという意味で凄く良かったです。最初に気を引き締めることで、その後の走りにも良い影響があったような気もします。特に2日目は早朝の1周目からタイム計測があるので、眠った体と意識を早い段階で覚醒させてくれました。走っていきなり滑りやすい鉄板橋があるのはナイス! ですね。

 忘れられないのがやっぱり開けた牧草地! あまりにも雄大で、牧場を走るとき、思わず「ウワ~ッ!」と声が出ました。2周目も思わず声が出ました。そして3周目もつい声が出ていました(笑)。出来れば停まって写真を撮りたいのだけど、万が一この後に何かが起こり、遅着するのも怖いので、結局走りながら満喫しました。僕も編集者だから一生懸命に伝わるように記事を作りますが、こればかりは、実際に走って体験してください。それに勝るものはない。
 2つのテストコースも実に素晴らしいものでした。ET1の丘陵地帯は、千歳から直行して下見をしました。バイクで攻めていると見られない風景や空気を、歩くことで満喫。下見では手塚ご夫妻にしか会わず、山の中で1人です。遠くのほうで鹿が一匹こちらを伺っている。のどかな所だなあ。最高だなあ。地面には熊のようなひづめ…。ハッ、ここ熊が出るんじゃない? と、慌ててスマホで音楽鳴らして歩きました。ここでは沼地をよく見ておきました。水が溜まる谷側よりも山側っと、長靴を突っ込みながら探っていたんですが、実際のテスト走行では意外と真ん中が良かったりもするんですね。やはり臨機応変さが大事なのだと改めて思う。

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