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BIGTANKマガジンは、年6回、偶数月に発行されるエンデューロとラリーの専門誌(印刷されたもの)です。このnoteでは、新号から主要な記事を再編集して順次掲載。バックナンバーの… もっと読む
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#彼方へ連載

彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.40 - 最終回

第六章 最終章 其の十六 どうして困難にばかり挑戦するのか 著 / 山田徹 不思議な自問自答が沸いてくる。いつかのカサブランカのホテルで考えた時に似ている。 そういえば、到着したホテルはカサブランカのそれを思い出させる姿で、予想をはるかに超えて立派だ。 歓迎の晩餐まで用意されていて、味わったこともないような豪華な宮廷料理を前に、思わず先行きに黒々とした不安を覚えた。 この国のパートナーの予定者らは、こうして饗応をするのが儀礼だと思っているようだ。しかしその先にあるものを思

彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.39

著 / 山田徹 第六章 最終章 其の十五 地図上の旅ラリーレイドモンゴルという名のラリーは、これで全ての幕を下ろした。悲劇的な終わり方だが、とにかく、終わった。開放感と喪失感が交互に訪れ、心を揺さぶる。何から開放されたのか。何を失ったのか。それをハッキリさせることも必要だった。 サラリーマンの生活を終えて二十年。いったいどれほどの距離と時間を、ラリーに捧げたのだろうか。虚しさだけを感じていては立ち直れない。ケジメをつけなければならない。 やめると決めたのは自分だが、そのこと

彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.38

著 / 山田徹 第六章 最終章 其の十四 3速すぐに検視官たちが到着した。陽は少し傾いた。日本大使館の参事官も到着。あたりはにわかに騒然としてきた。丘の上に腰を下ろし、作業風景を眺めるしかなかった。 「GPSは生きてそうだなあ、デイバックの口はしっかり閉ざされたままだ」 と眺めながら考えていた。GPSを見れば軌跡も時間も全てが記録されているはずだ。検視官は、デイバッグのファスナーを開けて所持品を並べ始めた。きちんとジップされたナイロン袋に封入されたパスポートなどは、まるで新

彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.37

著 / 山田徹 第六章 最終章 其の十三 発見吹雪に閉じ込められたものの、翌日は快晴だった。雪に覆われたモンゴルの大地の起伏が、それは美しく印象的だ。夏の記憶を何もかも覆い隠そうとしている。それにしても雪は美しい。いったん捜索チームはアルベイヘールに引き返すことにした。ラリーが終わって一ヶ月になろうとしていた。 アルベイヘールの警察署で署長らと会見した。そのあと市長の息子の警察官の家に招かれた。小学生の弟が自動車を運転して、母親を乗せて帰ってきた。

彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.36

著 / 山田徹 第六章 最終章 其の十二 捜索難航ス九月になった。期待されたモンゴル人たちの捜索も空振りに終わった。 「一度日本に帰って、ご家族に会ってくる。状況を説明する。資金調達も必要だ」 なによりラリーそのものの後始末の支払いも、待ってはくれない。捜索の継続を指示し日本に飛んだ。日本では、テレビや新聞に追われることとなったが、数日で所用を整理し素早く関空に向かった。

彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.35

著 / 山田徹 第六章 最終章 其の十一 ウランバートル対策本部 ゴールの日は、安堵感に包まれていたものの、いつにもない鉛のような疲労は、ホテルの部屋から一歩も出ることを許さないほどだ。まだ現場に残る者たちのことを思うと、バスタブに身を沈めることも、糊の効いたシーツにもぐりこむのも気が引けた。ましてレストランに出かけるなどもだ。現場のチームは、現地の警察の言う走行中の日本人ライダーを捕捉するまでは帰ることが出来ないのだ。そしてそのライダーが、万が一違っていたら、と考えると

彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.34

著 / 山田徹 第六章 最終章 其の十 捜索 捜索は夜を徹して続けられた。大会本部のゲルでは、集められた情報と各捜索チームとの衛星を通じた電話のやり取りや、無線交信で騒然としていた。広げられた広大な地図には、赤鉛筆で捜索範囲の消し込みがなされ、広大なエリアが少しずつ絞り込まれていった。 アルベイヘールの警察の捜索協力も得た。こうした活動にあたる軍の警備捜索チームの専門官も合流していた。バイクの目撃情報も寄せられ「まだ走っている」という観測がわれわれ捜索チームを支配していた

彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.33

著 / 山田徹 第六章 最終章 其の九 遭難夜が明けた。 未着は1台。ゼッケン30だ。一日目、井戸のところで言葉を交わした選手だ。昨日は涸れ川で見かけた。大会本部のテントには重たい沈黙が占めていた。これまででも、朝になってもライダーたちが帰ってこないことは間々あった。しかし、そんな時でも情報を把握していなかったことはない。走っているのか、止まっているのか。着けるのか、着けないのか。今どこのあたりを走っているのかだ。 ルートのちょうど中間にあるRCPは通過していた。しかし、R

彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.32

著 / 山田徹 第六章 最終章 其の八 未着ゾーモットは特別だ。暖かい南の島にいるような、そんな感じだ。 一日の短い恐竜の谷への行程のあと、いよいよラリーは終盤の山場、600Kmの長丁場を迎えた。空気が震えた。 最後のラリー。ゾーモットをあとにしたら、ここに再び訪れる日があるのか。ビバークの小さな丘の上に登れば、スタートに並ぶマシンたちが朝の光に包まれていた。朝のブリーフィングで、今日のステージが、一筋縄でいかないことを注意してあった。前半の砂漠地帯から抜け出し、超高速のピ

彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.31

著 / 山田徹 第六章 最終章 其の七 ゾーモットへ 重傷者を運んだヘリが、ウランバートルからビバークに帰還するまでに、ラリーは新しい行程のスタートを終えた。すでに日は高くなり、気温はじりじりと上がってきた。 衛星を介して届いた最新の情報によると、その緊急輸送されたライダーは無事だ。ウランバートルでは、フランスから帰ったばかりの女性のドクターが、見事な執刀をしたのだとも告げた。 ゴールしたら、さっそく病院に行ってみようかと思った。 ウランバートルの医療水準は、国際機関の援

彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.30

著 / 山田徹 第六章 最終章 其の六 緊急移送ラリーは灼熱のゴビを横切って、デューンの聳えるバロンバヤンウランの町に着いた。二年前の秋、TVの撮影チームを率いて、タレントの逸見太郎をナビに、徹夜でゴビを渡ってたどり着いた町だ。なぜかその時は無線機を忘れ、数台の車は深夜の激しい土ぼこりの中で離れ離れになり、遭難しかけた。夜が明けた頃にあたりの風景に息をのんだ。それはまるで南極、のようだ。 「太郎ちゃん、雪のゴビってのもすごいねえ」 「すごいっすねえ」

彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.27

著 / 山田徹 第六章 最終章 其の三 RRM二〇〇二 熱波のなかの試走ルートはウランバートルから、一気に南下する。ゴビへ一直線でむかうのである。そう今回は「ドリーミング・ゴビ」がテーマだ。ボクタチがこの十年間恋焦がれ、通い続けた「ゴビ砂漠」だ。それは時に、かつてのパリ・ダカールへの憧憬をしのぎ、強烈な好奇心はいても立ってもいられないほどの衝動を呼び起こした。 例のマンダルゴビ、そこが一日目のビバークの予定地点だ。まだここは草原だが、二日目はさらに南下する。マンダルゴビから

彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.28

著 / 山田徹 第六章 最終章 其の四 エタップ1スタートは一九九五年の第一回大会と同じ、ヌフトホテル。深い感慨が胸をよぎる。あの時から、いったいどれほどの時間をこの国の、しかも大草原や砂漠で過ごした事か。 それもこれも全てはこのラリーを成功させるためだ。 「成功させると言っても、何をもって成功と言うのだ。そうした基準がない情緒的な成功を求めているに過ぎないのだ、われわれはいつも」 「成功とは、全ての予定が予定通り行われたという事でいいのじゃないか」 「それを成功の基準と考

彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.26

著 / 山田徹 第六章 最終章 其の二 最後のラリーレイドモンゴル、はじまる墓参からウランバートルに帰った母娘と、お別れのディナーを囲んだあと、いよいよ最後のラリーに向けた試走の出発準備に取り掛かる。 この試走に日本から持ち込んだのは、この年のパリ・ダカールで完走した一九九七年製のトヨタランドクルーザー77V。 思えばこの十年間は、10台以上のこの車と過ごした。しかもこれは一九九八年のパリ・ダカでモロッコでクラッシュリタイアしたマシンなのだ。荷室を切り落としてピックアップに