人身事故


”あの子は電車に飛び込んで
  この世をそっと去ってしまった
  ひとりきりがきっとさみしくて
  無数の星の中に飛び込んだ”

 ー ラブソング/上野大樹



わたしの頭には、この歌がひたすら流れていた。
とっても、とっても、せつなくて、
どこかあたたかく包み込んでくれる歌。





いつもの帰り道、電車に乗っていた。
ファァァン
電車が音を鳴らした。
ガタン
何かを轢いた音がした。


ー”お客様と接触したため、現場検証を行います”
電車が止まった。
節電のためか、電気も空調設備も止まった。


窓を開けるのに、会話が生まれる。
”この窓開かないですよね”
”そうですよね笑”
美しい。
この一件がなければ生まれなかった会話。


”踏切での人身事故のため、ただいま現場検証を行っておりますー”
人身事故。
その人は無事なのだろうか。
何を考えていたのだろうか。
踏切って、おばあちゃんが渡りきれなかったとかかな。



警察が車内にきた。
”事故の現場を見た方はおられませんか”
首を振る人はいても、だれも答えなかった。
たしかに、夜だし外の近くで起こってることは見えない。
わたしが立っていた窓側だった。
でも、なにも感じも見えもしなかった。


”はよ動かさんかい”
おじさんが怒鳴る。


Twitterを開ける。
人身事故で電車が止まっているのは、日本でここくらいらしい。
”迷惑” ”だるい”
”回り道めんどくさい”
やっぱりか。
あたたかいことばの人もいたけれど、
おそらくつぶやく人はそういうことばの人が多いと思う。


怖かった。
そんなふうに考えられることが。
ひとつの命がなくなったかもしれないのに。



やっぱり、命は大切なものである。
人間のエゴかもしれないけれど、
人間の主観でしかないのかもしれないけれど、
大切だと思いたい。


2022.11.24

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?