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日本語教師日記108.今なら困らないけれど(1)「失礼です」と言いたい人

長くこの仕事をやっているので 、今ではあまり困りませんが、
昔は即答できなかったり、うまく説明できないことがよくありました。

30年ほども昔です。
よく一緒に行動していたオーストラリア人がいました。

彼があるとき、

You are rude って、なんて言うの?

と訊いてきました。

ゆーあー・失礼?

・・・なんだか穏やかでない感じです。
相手によっては、殴ってくるかもしれません。

なぜこんな事を訊いてきたかというと、
日本にいると、じろじろ見られたり、ガイジン!ガイジン! と言われたり、
子供などには集団でついてこられたりして、気分がよくないので、
そう言う失礼なことをされたら、その人に、

あなたは失礼です

と言いたいのだということでした。

日本語教師でなかった私は、頭を抱えました。


「あなたは失礼です」

ーーなんだと!? 表へ出ろ!

みたいになっては困ります。


悩んだ末に、

「しつれいだなぁ〜」

と言ったらどうかな、と教えました。

さて、非日本人にとり、語頭と語尾の音の「無母音化」「無声化」は大変難しいものです。

非日本人は、ローマ字でもひらがなであっても、たいてい

しぃつぅ・れぇい    

というふうに言うものです。(字を見たらそうなるのが自然です)

あえて自然に近い発音を、文字で見せようとすれば、

Sh-ts-ray

と書くしかありませんが、当時は日本語教師でないから、
そんなことはわかりません。

彼が一生懸命そのフレーズを言おうとしていても、
到底「失礼だなぁ」に聞こえていませんでしたが、
相手に通じない方が、むしろ彼の安全面ではベターだと思ったため、
あえて発音を直しませんでした。
というよりも、経験0の私には、直せませんでした。

で、あるとき彼がホームステイをしている家に行ったとき、
その家の人から、

このごろトニーが、つっつれーだなー、 つっつれーだなー
と言うのですが、何を言っていると思いますか?

と聞かれてしまいました。
冷や汗をかいたのを、昨日のことのように思い出します。

やはり、彼は失礼だと思うと、遠慮なく、「あなたは失礼だ」と言っていたのです。というか、通じると思って、連発していたのです。
日本語教師でない私には、「置き換え」もできませんし、
コンテクストを通じて、いつ・どんなふうに言うか、
を教えることもできなかったのでした。

さすがに今では私はそんなことはしません。

同じことを言われたら、こう言うでしょう。

「君は、失礼なことをしてきた人に対して、You are rudeと言いたいのですね?
では、ちょっと説明が長くなりますが、聞いてください。

You are rude に当たる日本語を教えることはできますが、
人に面と向かって言うために、これを使うことはしないように。

なぜかというと。私たちはまず、失礼だと思った瞬間に、相手に面と向かって、
あなたは失礼です
と言うことが、稀だからです。

あなたが感じる程度の「失礼さ」は、
日本人にとってはまだまだ、言挙げをするレベルではありません。

相手に「失礼ですよ」と言うのは、
ずっと言わないで我慢して、我慢しきれなくなったときです。
もちろん、面と向かっては、という意味でですよ?

子供に、「そんなことをするのは失礼だから」というふうに教えるとか、
マナーとして、「これこれをするのは失礼です」
ということなどは、もちろん、普通に言っています。

「失礼ですよ」は、取り扱い注意品目だと思います。
普通日本では、失礼な違相手に面と向かって「失礼です」は言いませんので、
言うときは、その場で険悪な雰囲気になる覚悟を決めてください。
争いになるか、関係が切れるのを分かった上で、それは言うものです。

なぜかをお話ししますね。

日本人は、外の人(うち・そとの感覚を普段から教えているはず)に対し、
「ことを構える」のを非常に嫌います。

ですので、日本人なら、相手の失礼な振る舞いにかなり頭に来ても、
黙ってやり過ごすか、その場を外すことがほとんどでしょう。
二度と会わないぐらいに気持ちを固めるかもしれませんが、
とりあえずその場では、顔には出さないかなと思います。

もちろん後刻、親しい間柄の人(ウチの人々)には、

すっごく失礼だった!
許せない!

などと、大いに爆発するでしょうが、「その場で」「面と向かっては」、
まず言わないでしょうね。

このように、あなたが言いたいことを、外国語に直したからといって、
その言語を使っている場所で、それをそこにいる人たちに、
「言っていいわけではない」ということがあります。
日本語に限りません。

日本人が英語であなたに話しているときに、
英語人だったら到底言わないようなことを言ってきて、
びっくり仰天することがありますよね?

つまりはそういうことです。

大丈夫です。
言わない方がいいことについては、私がちゃんとお伝えしますから、
疑問・質問、なんでも言ってきてください」


まあ、今なら、このぐらいは言うでしょう。

もちろん、プライベート・オンラインレッスンの、
長く感じる1時間のうちの、息抜きとしてです。

ずっと根を詰めていることはできないので、
脱線しますよと言ってからはお話しするわけです。

現実には、一人で演説しているわけではなく、
生徒からも、「ああ、そういえば・・」などのように、
困ったり笑ったりした経験談がどんどん出てきます。

プライベートレッスンの良さの一つは、シラバスや進度、スピードに縛られず、必要だと思えばじっくりお伝えすることができることかもしれません。

次に続きますね。


サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。