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日本語教師日記182.それでは辛いでしょう

「生徒は選べない」ということは、ある程度まであります。
もちろんですね。レッスンを始めてみて、一回でも会わなければ、どんな人かはわかりません。
ただ、日時や条件で選択はさせてもらいます。
最初から無理のあるスケジュールでは、レッスンが荒れます。

ただ、しっかり同意をしたうえで、あとから大変になってくる問題というのはあります。

例えば、「私は午後6時以降はレッスンをしていません」と言っておいても、
その会話がなかったかのように変更をリクエストされますね。

今では「その時間はやってません」で断れるのですが、オンラインレッスンを始めて日の浅い2011年ごろ、生徒数が少なかったときは、なかなか断ることができませんでした。

「午前7時半から1時間、週1回」のご希望が、「午前6時から週5日」
に変わった人がいました。
当時は週に3日ぐらいは午後11時過ぎまで仕事をしていましたので、一日疲れていたように思います。
レッスンの質にも関わるので、無理をしてはいけませんね。

不安定な人もいます。
病弱。
仕事のストレス。
精神的に追い詰められている人は、授業が愚痴のはけ口になることも多く、お金と時間がもったいないことがよくあります。

それとあと、当日キャンセルが多い人は消えていきますね。
私は見送るばかりですが、本人たちにとり、始めたものがなかなか続かないというのも、これはまた辛いことでしょう。

以前、午後5時開始というリクエストで始めた子供さん生徒がいました。
最初は週2回。お互いに馴染んできた頃、お母様の方から、
「学校の休みが終わったので、これからは今までより3時間遅くお願いします」
とのリクエスト。
こちらの夜の8時か9時です。
いやそれが困るので最初に時間を示すのですが、忘れてしまうのでしょうか。
・・断れるかというと、断れないです。

週2回のレッスンが辛そうに見えたので、お母様に提案して、週1回で続けているうち、この子が  憔悴と言っていいほどの疲れぶりを見せてきました。
それまで、カードやJamboard(もうすぐサービス終了のとてもすぐれた学習ツール)も嬉々としてついてきて、教えたことは忘れない子でした。
学校でも日本語レッスンをとり、成績もトップであったそうです。
それが全く伸びを見せなくなり、初心者の頃に覚えた漢字や簡単な動詞・形容詞も忘れてしまったようです。
授業中に下の方でスマホをいじっている、半分眠っている。
新しいレベルに全く進めません。
前からわかっていたのですが、ご両親の期待が大きかった。
英語圏の国ではなかったけれども、英語のみの私立学校に子供さんたちを通わせていました。
そしてこの生徒は、1週間土日を含めて毎日の習い事があって、とても忙しそうでした。語学系が私の知っているだけで週2回、スポーツも音楽も複数やっていました。

ある日のレッスンが、いつもにも増して、辛そうでした。

私 「新聞を読むのと、コーヒーを飲むのを 一緒にしているとします。
どう言ったらいいでしょう。
これは復習です。
ではね、メインはテレビを見ていることです。同時にコーヒーを飲んでいます。これを日本語で言ってみましょう」
生徒「何を言うんですか」
私「While having coffee, I watch TV.  を、日本語で言ってみてください」
生徒「覚えていません・・・・・・・わかりません」
私「だいじょうぶです、もう一回やりましょう。
「ますの形」から簡単にできますよ。
コーヒーをのみます、の、ます をとります。
そして、ながら、をつけます。
さあ、言ってみようか」
生徒「わたし・・を・・・は・・・・先生、what's newspaper?」
私「しんぶん、ですよ」
生徒「わたし・・・し・・しぶ・・よみますと・・コーヒーの・・コーヒーと・・先生、what's to drink?」
私「のみます」です。
じゃあ、一緒にやりましょうか。
私は、コーヒーを?    のみ・・・?  のみながら・・・?」
生徒「先生、what's のみ?」

これはもう、明らかに脳疲労の極み。
あんなにできていたのに。
実はもう、何ヶ月もこのような、泥の川を一緒に遡るような、重たいレッスンになってしまっていて、とても責任を感じていました。

「いつもがんばっていて、すごいなと思っています。
でもね、ちょっとあなた今、やることが多過ぎないですか?」
「・・はい・・・・」
「疲れちゃって、眠いとか、聞いていても頭に入ってこないとか」
「そうです。いつも」
「日本語も週に2回やっているんだよね?」
「はい・・・・」
「学校も週1で日本語あるの?」
「あります」
「アニメを見たり、コミックを読む時間あるかしら」
「ないです」
「疲れてる?」
「とても疲れています」
「そうですか。
先生の意見ですけどね、しばらく日本語のレッスンお休みしてみない?」
「・・・・・・・」
「先生がお母さんに言ってあげようか」
「(目を輝かせるような感じで)いいですか?」
「いいですよ、もちろん。
大人の人でも、仕事がすごく忙しいとか、
他の勉強をしなくちゃならないとか、
いろいろなことで長くお休みする人は多いです。
今のあなたみたいに疲れ過ぎていると、
せっかく習っても、頭に入っていきにくいですね」
「先生、本当にお母さんにそう言ってくれますか?」
「もちろんいいですよ」

というわけで、お母様の方には、

お子さんの基礎はすっかりできていること。
この先いつでも、時間のゆとりができたら戻ってくればいいこと。
今は日本語のレッスンの時間をお休みし、
ゆっくり休んだり、ご家族で遊んだりして、
リフレッシュしたらはどうかということ。

そんなこととお話しして、この子の日本語レッスンは休止することになりました。

とても良い子で、ご両親の期待に沿いたいと思っているのがよくわかりました。
今どうしているかな。
日本語がなくなったところへ、他のお稽古事が入ったのでは、あまり意味がないと思いましたが・・。


・・・・・・
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