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エッセイ224.おうちでロスト・イン・トランスレーション(12)とっさに出てこない問題

私が昨日、お風呂を掃除しようとして排水溝の蓋を取りますと、
なんとなく、動くものがありました。
顔を近づけてよく見てもよくわからなかったのですが、
少し溜まったゴミの近くを、結構高速でその、細長いものは動いています。
スマホの明かりで照らして見て、私は

ぎゃっ!

と、飛び退きました。

それは、10センチ以上はある、毒々しく、角を生やし、
艶もある「あれ」でした。
びっくりしすぎて、名前を忘れました。

私は「毛虫」と「ゲジゲジ」と「ムカデ」の区別が、最近わかったばかりです。みなさんはわかりますか?
毛虫は文字通り、毛やトゲトゲのある芋虫で、蝶や蛾の幼虫ですが、
ゲジゲジとムカデは、大きくなったからといって変体はしませんね。

ゲジゲジの本名は、「ゲジ」だそうです。
動き(走り?)が「修験者しゅげんしゃのように素早い」ため、
「しゅげんしゃ・またはしゅげんじゃ」がなまって、ゲジとなったそうです。
残念ながら、修験者の走りが速いかどうかは、
見たことがないのでわかりません。
なまじその辺を読んで、
(というのが、春なので庭の手入れをしていたら、
結構いろんな虫が出てきて、いちいち調べていた)、
そのあたりを知っていたためか、

ぎゃっ!

と言いながらも、

「この動きはあれ? それともあれのほう?」

と思ってしまったらしく、頭が真っ白になりました。

驚いて、たじたじと引き下がり、見ていますと、
奴は、排水溝の蓋をとられたのが嫌だったらしく、
すごい速さでくねっています。

いつ見ても、動きながらSの字に見えるので、
相当激しくくねっていたと思います。


そして、排水溝に入ってしまってから出られなかったのか、
出ようと思えば出られるのかはわからなかったのですが、
出る気でいるのなら、早く捕まえないと大変なことになりそうです。

こういうとき、なんでもやってくれるキウイハズバンドは、全く役に立ちません。

虫が大の苦手で、Gでもなんでも、出れば私を呼びに来る人だからです。

こんな感じね。




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それで、嫌々ながら、100均で買ったばかりの、ピンセット付きお風呂ブラシを手に、100均なだけにぴちっと先端の合わさらないダメピンセットで、苦労しながらくねっているそれを摘み、お風呂の桶に入れました。


で、一人だけで怖がったりしているのはなんだか癪だったので、居間のカウチでのんびりドラマを見ている夫のところに行きました。

ねぇねぇ。

と言うと、

ーーアハン?   

と、英語で答えます。
上の空なときのいつもの調子です。

ねぇねぇこれの名前知ってる?
ーーアハン?  

聞いてないし。

なんで、名前を夫に訊いたかというと、私はそもそも、
「ねぇねぇ夫、この【ゲジゲジ・ムカデ】(正しい方を選びなさい) を、ね、
   ちょっと見て欲しいんだけど」

と言いたかっただけ。
虫嫌いは知っているので、ジャイアンじゃあるまいし、いきなり目の前に洗面器をつきつけることはしません。
夫が「ゲジゲジ? 見たくありませんよ」と言ったなら、
そのまま外に直行して、ぽいっと捨てるつもりでした。

なのに夫は

アハン? アハン?


と言うばかり。
まいっかと思って洗面器を持ったまま突っ立っていたら、夫が急に私の存在に気づいて、私が何か、見せにきたことを認識したのでしょう、首を伸ばして洗面器の中を覗き込みました。

けれど、ムカデはいろんな方向にSの字にくねりながら、夫が見ようとした瞬間には、洗面器の壁の、夫から見えない方へ行ってしまいます。

まさに修験者です。(そうなのかな?)

私が、「あっ、いきなり見ない方がいいよ!」と言いかけたときと、
くねり狂っていた「それ」が、まさに夫の目の前に走ってきた時が、
不幸なことに、同時でした。

夫は、


うわぁぁぁぁ!


と言って飛び上がり、うちは三人掛けのソファで、夫はそのとき、右端に座っていたのですが、そこからクッションを一つ超えて、左端に飛んで行きました。
素晴らしい筋力ですね。
臀筋でんきん

「見せたかったら、いきなり見せないで、
この◯◯を見せたいですって言ってくださいよ!」

ビビりながら怒っています。

「え〜だから、その◯◯の名前が、日本語でも出てこなかったんだってば!
いきなり見せたらかわいそうだから、名前を英語でわかってから、
それを見たいかどうか訊くつもりだったんだってば!」

ーーべつに、《このくねくねした長い虫を見たいですか》、って
言えばいいじゃないですかっ!

「あっそうか!  でもね、私も、ぎゃっとなっているんだから、
そこまで頭がまわらないよ、
なにしろ、まさに今も洗面器から飛び出しそうだから・・」

うわわわっ!

虫嫌いの夫は、三つ目の左端のクッションの上で、さらに身を縮めます。

だから、名前を訊いたんじゃん!

「じゃん! 」とか書いていますが、虫パニック中の夫には日本語が通じなくなっているので、英語で私は話しています。
とても大変です。

こういうことが、日常的にいまだにすごくあります。

例えばこのあと、二人で映画を見始めて、途中で私が日本語で、

これ見たらもう寝るわ

と言ったのですが、夫からは何回も聞き返されました。

私は仕方なく、「これ、を。見たら。寝ます」
と はっきりとした日本語で言いなおします。

英語耳には、リエゾンして言葉がくっついてしまった日本語だと、簡単な内容でも聞き取れないことがあるのですが、逆もまた真です。

「母語(母国語ではなく)なら、全体の20%をキャッチしたら、想像やコンテクストで補って、だいたい理解できるが、外国語は隅から隅までちゃんと聞かないと理解できない」

と読んだことがあるのですが、まさにそれを実感する毎日です。

前にも書きましたけど、最高におかしかったのは、夫が

The weather does not look great today.
(今日のお天気はあんまりよくないね)

と言ったのを、私の耳は

The water does not look break today.
(今日は破水しなそうだね)

と聞き取って、

えっ! 誰の? 誰か出産予定日近いのっ?

と訊き返したことがありました。

英語で、子供の進学や親の介護や法律や政治やビザのことなど、頑張って話し話してはや28年。

それなのにこれですもん!

これから言語の違う方と一緒になる皆さん。
言葉にこだわりが強かったら、このへんもよく考えてください。
通じなくても全然OK牧場な愛も、永遠には続きません。
言葉の溝は、心の溝にもなり得ます。
経験者から言わせてもらうと、そこら辺がざっくりでも平気な方の方が、
ミックス婚には向いていると思います。

パートナーが非日本人の皆さん、毎日お疲れ様です!


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