ゾンビとスマイル
前作、"FROM ALTERNATIVE"を発売し、ツアーを初めて回った。ハイエース、高速道路からみた青い夏の景色は今も鮮明だ。
確かな充足感と心地よい疲労感。みんな日々働きながらのバンド活動だったが、初めてのことの連続で楽しかった。
そんな諸々がひと段落した後、次のバンドの音を探すべく曲を書き始めた。
…なんて言うとかっこいいが、今思うと、何も書けていなかった。
当時は、そんなわけねぇ!俺はできる!と思いながら、がむしゃらに曲を書き続けていたが、多分何も形になっていなかった。なんということだ。
そして今思えば、自分の歴史史上、類稀なるふさぎこんだ日々をこの時期は過ごしていた。
あまり落ち込むことに免疫のなかった俺は、憂鬱の影から逃げるように、気晴らしに近くの公園で深夜徘徊するようになった。
アコギを弾いてヒャォ!!と歌ったり、あ!思いついた!などとつぶやきながら鼻歌で曲を作ったり、わけもなく走ったり、ジャングルジムに登ったりした。
しかし、どれもこれも帰る頃には手応えはなくなっており、決まって最後はハトがパタパタ歩いているのを眺めながらタバコをふかし、とぼとぼ帰る日々だった。
そんな数週間、いや、下手したら数ヶ月が過ぎ、これはどうにかして元気を出さなきゃやばいぞと思い、いろんなことをやってみた。
職場のフットサル大会に参加したり(できない)、慣れない酒を飲んだり(飲めない)、サウナに足繁く通ったり(これは最高)など。
しかしどれも根本的な解決には至らず、しまいには人と話す時、あ、あ、と言いながら、頼まれてもない0円スマイルを繰り出す男になっていた。
ある日、ガン・アクション映画が好きなことを同僚に伝えると、サバゲーにいきませんか?と誘われた。
彼はEXILE風のイケメンだったが、その顔面とは裏腹にナイーブな一面を持っており、アメリカンスナイパーになりたいんです…と狂ったように愛銃をカスタムし続けていた。
彼の手引きもあり、御徒町のガン・ショップでハンドガンとマシンガンを買い、フィールドに向かった。
サバゲーとは、その日出会った全くの見ず知らずの他人も含め、2チームに分かれて電動ガンやガスガンで撃ち合うなかなかイカれたゲームである。装備も本格的で、手榴弾(無数のBB弾が弾け飛ぶ)もあるし、暗視ゴーグルなんかもある。自衛隊風の人からバイオハザード風、カウボーイ風などスタイルも様々。
初めてのサバゲー。壁に隠れ、仲間と協力し、敵陣に突っ込んだり、大声を出したり、這いつくばったり、誤って味方に発砲したりした。
何より撃たれまくった。BB弾じゃなかったら即死。撃たれるたび死に、試合が終わると生き返り、また戦場へ向かう。他のことを考える暇もない。
フィールドもクソ田舎のだだっ広いキャンプ地もどきだったり、今にもゾンビが襲いかかってきそうな薄汚れたビルだったりした。現実から俺たちを遠ざけることにかけては完全なる場所だった。
徐々にコツを掴み、終盤の試合で、女兵士との一騎打ちとなった。
いつか映画で見たシーンのように、転がりながら愛銃・デザートイーグルを撃ち続けた。その様はカメラ越しにベテランゲーマーに笑われていたので、さぞや無様だったと思うが、その銃弾で女兵士を仕留めた。
俺は誰よりもでかい声で咆哮した。俺はニキータになった。試合終了のベルが鳴る。
初めて自分がその試合でMVPになった時、味方からも敵からも拍手された。スポーツマンシップのようなものはサバゲーにもあるのだ。
運動音痴な自分はあまりこういった経験をしたことがなく、照れ臭かったが、久しぶりに嬉しいなと素直に思えた瞬間だった。
30曲作ろうキャンペーンの時期。
デモをまた作り始めた。
歌詞はうまくかけなかったが、音はイメージがいくつかあったので、力任せに作り続けた。
その内の何曲かに、かわむらが反応し、歌詞と歌をつけてくれた。
"apple me"と"グルメ"と名付けられた2曲。どちらも明るい曲だとは思わないが、希望も絶望もごちゃ混ぜにして飲み干そうとするエネルギーがあった。
ああ、バンドを始めた頃の俺は、こんな気持ちだったのかもしれないなんて勝手に思った。かわむらは俺のことを誰よりよく知っている。
骨抜きゾンビとなっていた自分がこのバンドをまだやれていることに感謝し、0円スマイルはその日からやめた。