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記録をしっかり残していくことはとても大切なこと、アメリカにおけるビッグバンドのデジタルアーカイブが想像以上に凄いことになっていたので紹介です。

はい、ビッグバンドファンです。今日はアメリカにおけるビッグバンドのデジタルアーカイブ、譜面や音源のデータです、こちらの紹介をしていこうと思います。

そもそものキッカケはマリア・シュナイダーさん

今回こちらを調べてみようと思ったキッカケはマリア・シュナイダーさんがデジタルデータの取り扱いについて非常に高い関心を寄せられていることが分かったからです。マリア・シュナイダーさん、昨日のグラミー賞でも見事二冠となりましたが、そのアルバムタイトルが「Data Lords」という「データの支配者」といった意味合いのものだったのです。

この「支配者」とはすなわちGAFAやSpotifyといった巨大IT企業を指しているわけですが、彼女が「支配者」という強い言葉で彼らを表すのは何故か?その辺りの一つの考察は以下のブログにも書きましたが「我々の社会の別の可能性の提示」というものでした。

一方、もう一つより直接的にインタビューなどで触れているものとして「データを搾取している企業である」という点です。彼女曰く「現代のアーティストにとって『データはファンとのつながりを表すもの』である。一方で巨大IT企業は巧妙にミュージシャンを誘惑し、そうした重要なデータを【搾取】することで利益をあげている」。彼女はこうした色んな意味での中間搾取を嫌い、2000年以降発表しているジャズ・オーケストラアルバムは全て上記ArtistShareから販売するというスタイルを取っています。このArtistShareは彼女曰くデータを自分達で管理できるプラットフォームだということで、これにより「自分のファンがどのアルバムをどのように購入し楽しんでいるかが分かる」と言っています。

以下の2つの動画で上記趣旨のことを話されています。自動翻訳でも概要は分かりますので、英語が苦手な方も是非見てみてください。

アメリカ議会図書館(Library of congress)

というわけで「デジタルデータとしての音楽」というものに興味がわきまして、マリア・シュナイダーさんとは観点は違いますが、ビッグバンドの過去の音源や譜面がどのように扱われているか調べてみました。その中で出てきたのが、「Library of congress」アメリカ議会図書館です。

実質アメリカの国立図書館でして、公文書管理含めた沢山の蔵書が保管されていることでも有名です。使い方は簡単、サイトにアクセスし、ページの上にある検索窓に例えば「Benny Goodman Carnegie」と入力するとこのように結果が表示されます。

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検索初期画面では「Available Online」に絞り込みがかかるので、単純に情報をリストアップしたい場合は絞り込みを外せば、一覧で出てきます。結果の右上にあるSort Byでリリース日の新しい/古い順に並び替えたりも出来ます。あとは左の絞り込みメニューです。

例えば「収蔵されている全てのビッグバンド作品を表示したい」といった場合、左のメニューの「Subject」の下の方にある「More Subjects」をクリックします。するとこのようにジャンルが収蔵数順に表示されます。ビッグバンド関連は4,000件程あることが分かります。

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これをクリックすると最初に表示した検索結果画面が表示されるので、あとは例えばSort Byでリリース日の新しい順に並び替えると以下の通り2019年の作品まで表示されます。

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また左の絞り込みメニューには「Contributor」というメニューもあります。見ると提供者、すなわちビッグバンドコンポーザーの名前が収蔵数順に出ています。これを見る限りDuke Ellingtonが465件と全体の1割強を占めているということも分かります。

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勿論先日以下のnoteにまとめた2016年以降に発表されたようなコンテンポラリーな作品もリストアップされています。

北テキサス州立大学(UNT)

ただし、あくまでこれもこの図書館へ寄贈されたものだけなので全てではないです。この手のものは複数の情報ソースを集めていくしかありません。そこで次に当たったのが、Labシリーズで毎年ビッグバンド作品をリリース、One O'clock Labバンドが有名なUNT、北テキサス州立大学のサイトです。ここもビッグバンドの作品、UNTが関わっていないものも含め情報がアーカイブされています。

https://discover.library.unt.edu/

ここでも先程と同じようにトップにある検索窓に「Benny Goodman Carnegie」と入れてみます。するとこんな感じで1300件以上、何かが引っかかったようです。

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UNTのサイトも左のメニューで絞り込みが出来ますが、アメリカ議会図書館よりもっと細かく絞り込みが出来ます。例えばPublication year/decadeやNewly Addedといった絞り込みもあります。勿論先程行ったように収蔵されているビッグバンド作品を一覧表示も出来ます。こんな感じですね。

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音源で絞り込むと3,853件となります。比較すると結構違うラインナップになっていたりして、相互に補うような感じになっているのが面白いです。アメリカ議会図書館にはKathrine Windfeld Big BandのBlack swanが入ってますが、UNTには無いです。逆にUNTにはAlan FerberのJIGSAWが入っていますがアメリカ議会図書館には無いです。勿論UNTのLabシリーズも同様です。

2つともアメリカのサイトなのでどうしてもアメリカの作品が多くなりますが、とはいえ「Kenny Wheeler」ぐらい著名な方であればヨーロッパの作品でもひっかかってきます。ただ、それでも日本のビッグバンドは出てきません。

Search results for Audio Recording, 宮間利之, Available Online _ Library of Congress - Google Chrome 2021_03_16 23_06_30 (2)

Search results for Audio Recording, 宮間利之, Available Online _ Library of Congress - Google Chrome 2021_03_16 23_06_14 (2)

日本でも同じことをやっていくべきでは?

私、これ調べているうちに「日本でもこのデジタルアーカイブの取り組みやらないとマズいんじゃね?」と思い始めてきました。何がマズいかと言うと、作曲者が著作物を抱えたまま他界してしまうと、アーカイブ漏れが出てくるからです。世にリリースされたものを制作した本人が他界した状態であまねく情報を集めるというのはかなり難しいことです。やはりこの手の話は本人が生きているうちに手を打つというのが一番なわけで、アメリカはその点で早いうちにデジタル技術を活用した仕組みを構築していたわけです。一方日本のデジタル技術の活用は官民ともに2周回ぐらい遅れているので、現状はとにかく有志が頑張って何とかしていく、それしかないのが実情です。

前田憲男さんにしても、昨日亡くなられた村上”ポンタ”秀一さんにしても、生きているうちに聞いておくべき話は沢山あったと思いますし、アーカイブしておくべき情報も沢山あったのではないかと思うのです。あるいは日本の学生バンド、早稲田や慶応といった大学のバンドは創立60年を超えており、その部室には世界中探してもここにしかないといった譜面等の情報が沢山眠っていると思うのです。こうした日本が日本の中で独自に温めてきたビッグバンド文化は十分に世界に誇れるレベルにあると私は思っていますが、一方でそうした情報を何もせずただ放置していたのではデッドストック、すなわち死んだも同然となります。これは生きている我々が何とかしなければいけない課題なのではないでしょうか?死んでしまってからでは何も出来ないわけなので。

これプロジェクト立ち上げようかな?ご協力頂ける方、ご連絡頂けたら幸いです。以上、ビッグバンドファンでした~、ばいばい~

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