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【クレジットクラッシュ】市場で何が起きているのか?

先日、米国でクレジットクラッシュが起こりつつあるという記事を書いた。
重要なことなので、今日は少し時間を使って次の疑問について考えたい。

✔︎ 何故、緊急利下げを行なってもクレジットクラッシュが止まらないのか?
✔︎ どれほどヤバいことなのか?

次のグラフは、先日の記事でも紹介した、米国企業のクレジットとフィナンシャルコンディションの最新データである。

これらの指標は「数値の上昇」が、クレジットの悪化(ワイドニング)と金融環境の引き締まりを意味している。

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上のグラフからも明らかなように、クレジットスプレッドとフィナンンシャルコンディションには明確な相関が見られていた。フィナンシャルコンデションを決定する要素は様々であるが、マーケットに供給される資金の量やレポ金利、ボラティリティなどがその構成要素となっている。

よく、FEDは株価を気にすると言われている。確かにそれは誤りではないが、本当に気にしているのは企業のクレジットが崩壊することなのである。

そのためにはフィナンシャルコンディションを緩和的にするのが手っ取り早く、FEDは今月に入って、緊急利下げやレポを通じた資金供給の強化など、様々な策を打ち出してきた。これによってフィナンシャルコンディションは「なんとか」抑え込まれているが、一番抑え込みたいクレジットスプレッドは、ワイドニングに歯止めが止まらなくなっている。

何故、FEDが利下げを行なってもクレジット市場は壊れたままなのか?
まず、基本的なところから説明したい。
企業が社債の発行等を通じてお金を借りるとき、借入金利は以下の式に基づいて決められている。

企業の借入金利(社債の利回り)=市場金利+クレジットリスク

市場金利はFEDの緊急利下げや資金供給によって極めて低い水準い抑えられている。しかし、クレジット市場が崩壊した今、クレジットリスクが増大し、企業の借入金利はむしろ上昇してしまっている。

一方、投資家にとってのクレジットリスクとは、デフォルトリスクと読み替えることもできる。社債に投資をする投資家は、社債から得られるリターンが十分な期待値に達するまで投資をすることはなく、その間はクレジットスプレッドがワイドニングを続けることになる。

つまり、FEDの利下げによるフィナンシャルコンディションの改善よりも、デフォルトリスクが高まっていることの方を投資家が気にしている。
これが一つの理由である。

投資家の判断基準
「社債の利回り × デフォルトリスク ≧ 無リスク資産のリターン」

複数の要素が加わってクレジット市場が崩壊した
しかし、今回、クレジットクラッシュが起きた原因は一つではない。

当然のことながらコロナウイルスの影響が、個人消費に打撃を与え、航空業界、旅行、エンターテイメント業界のデフォルトリスクは上昇している。

しかし、それだけではIG(投資適格)全体に影響を及ぼすほどのクラッシュにはならない。今回のクラッシュに拍車をかけたのは「サウジとロシアがシェール企業に攻撃を仕掛けていること」「今年、償還を迎える社債が山ほどあり、企業債務が過去最大に膨らんでいる」ということなのだ。

実は2015/16年にもクレジット市場は暴落している。
この時もサウジアラビアが、シェアを伸ばすシェール企業を懸念し、価格競争を仕掛けたことが発端であった。2014年から2015年にかけて原油価格は100ドル台から20ドル台へと大暴落している。

この暴落がきっかけで米国のシェール企業のクレジットが悪化し、設備投資などの借入負担が大きい他のエネルギー企業へと不安が伝搬し、IG全体へと波及したのだ。

そして、今の原油価格の下落は当時の状況と非常に似ている。
今回もシェール企業のシェア増大を懸念した、サウジアラビア(+ロシア)がシェールを淘汰しようとしている。
また、悪い意味で当時と異なるのは、ロシアが外貨準備を過去最大級に積み上げおり、財政均衡価格も1バレル100ドルから40ドルへと大幅に改善させているという点だ。要はシェール企業をぶっ叩くのに十分な体力を備えているということである。

なので、サウジとロシアのシェールへの攻撃は前回以上のものとなり、エネルギーセクターのクレジットは当時よりも悪化すると考える。

そして最も深刻なのが「今年、償還を迎える社債が山ほどあり、企業債務が過去最大に膨らんでいる」ということなのである。

米国では格付がBBB以下(投機的確だが債務履行の不確実性が比較的高い社債)の債券の内、実に$840bln(約90兆円)が今年満期を迎えることになっている。

これらの債券の殆どはロール(新しい債券に借り換え)される予定だが、今のような環境では、どれほどの企業がロールすることができるのであろうか。

コロナウイルスの影響がGDPに与える影響や、原油安がいつまで続くか、誰もわからない状況で誰が正確なデフォルトリスクを計算でき、誰が正確なクレジットスプレッドを計算できるのだろうか。

そういった不安がクレジット市場には蔓延している。

積み上がった企業債務、次の危機が到来するのか?
上昇相場の理由はその時々で変わってくる。
それが不動産の時もあれば、ITの時もあるし、リーマン以降に見られたグローバルな金融緩和(QE)が理由であったりする。

しかし、いつの時代も危機が起こる理由は共通して「バブル」が弾ける時である。

そして、リーマン以降の金融緩和がもたらした歪みの象徴として言われているのが、企業債務である。

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上のグラフは米企業(金融機関を除く)の債務残高であるが、なんと$10,000bln(1,080兆円以上)に積み上がている。

リーマンショック以降、金融機関には資本規制などを強化し、レバレッジが大きくなることを防いできた当局だが、逆にQEを通じて市場にばらまかれた金は、企業のレバレッジ増大につながってきた。

企業は借りた金で、ROIの低い投資を行ったり、自社株買いを行ってきた。
それでも返済時には新たな貸し手が常にいたので、常に借り換えを行い、債務は増大の一途を辿ってきた。

先程も申し上げたが、FEDや市場参加者がクレジット市場を気にするのはまさにこれが理由なのである。

リーマンショックの時に、「Too big to fail」という言葉が出てきたが、このクレジット市場は「大きすぎて潰せないバブル」なのである。

今回の相場は確かにコロナウイルスで始まった。

しかし、コロナウイルスで終わるかはわからない。

コロナウイルスという「針」が開けようとしているバブルは「クレジット市場」という危険な風船なのである。

今、FEDやトランプ政権、そしてG7の中央銀行と財務省は、あの手この手でこの危険な風船が割れないように、策を打っているのである。

今日もカナダやノルウェーが緊急利下げを行なっている。
また、米国では国家非常事態宣言を行い、財政の緊急出動を発表している。

しかし、いかに強力であっても金融緩和と財政出動で、長年積み上がったクレジット市場のバブル崩壊を防げるかは誰にもわからないのである。


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