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今度も壁をぶち破る。予定日3日前から、無痛分娩による第2子誕生を見届けるまで

日々つけていた誕生までの日記、誕生後の忙殺を止まっていたのできちんと出産記録を残そうと思う。無痛分娩で平和に産みたいということを言ってましたが、いやはや。

今回までのあらすじ:ようやくコロナが都市で活躍しだした3月上旬、出産の事前アナウンス的な前駆陣痛が水曜に始まった。そのまますぐ出産ではないけど用心だねとか言って妻と話してたら、バイブス満タンになった母が前のめりで新幹線に乗車。乗った名古屋駅でも降りた東京駅でも近隣に感染者が出たこのタイミングで70代に無理させるわけにもいかず、ノー準備の我が家に来てもらうことにした。大人3人がアワアワ言い、長男は泣いた。

号泣する長男を大慌てで風呂に入れたおれたち、所在なさそうな母。彼女には「産後から退院までの1週間、長男のケアや自宅警備おなしゃす!」とお願いしていたくせに、この直前、自宅内の秩序や後期つわりなどがある中で一つ屋根するキャパは物理的にも心理的にもなかった。

おれは「妻に穏やかな出産を」と願い「愛知から来てくれた母を丁重に」と思う気持ちが混ざり合ってッピョー!と叫びだしそうなくらいキャパオーバー。変な心拍数になったままリビングに母の布団を敷いて水曜を強制終了させ、翌日は母に近隣のホテルに泊まってもらおうと決めた。

明けて木曜、予定日まであと2日となったこの日は妻の診察送迎からスタート。車の中で、妻が夜な夜な準備していた分娩時サウンドトラックの先行試聴会を実施し「ほんとにDeep Impactを流すの?産院で?」などと意思を確かめたり、無駄に長い曲をプレイリストから外すか議論したりして前回の反省「何事も準備が大切」を活かした。その一方、前日のバタバタで消耗してもいて「ついに出産かー」などと思いながらセルフのガソリンスタンドで給油してたら、ガソリンをうっかりあふれさせ「漫画で見たボーッとしてる表現!」となったりもした。あと普段は観光客などでひしめく秋葉原には人が全然いないのも印象的だった。久々に街に来たけど、今こんな世界なんだな。

その後はリモートワークなど日常を過ごし、夕方には子を保育園から迎えに行ってからみんなで寿司屋へ。前回は持ち込んだ離乳食を食べるだけだった長男は、ポテトや玉子のにぎり、茶碗蒸しをバクバク食べている。その成長をおれたち夫婦のみならず、母も「ばぁば」となって眼差していることにも気づいて興味深い。しかし「メシ食ったら普通に車でホテルに親ブン投げに行くんだよなあ」なんてれいわ姥捨山の心地もあるので複雑だった。寒空の下で猫背ローカル着でホテルにチェックインする姿を見届け、核家族は自宅に帰った。

ようやく安心して寝られますね…なんて24時過ぎにベッドに横になったおれたい。しかし木曜が終わって早々にそのときがやってくるのだ。

就寝して数時間後、おれは妻の「来ちゃった…」という言葉で飛び起きた。26時の破水、深夜に訪れるなんてさすが予測不可能イベントだぜ出産。前日の検診で子宮をボリボリやられたようで、それが引き金になったぽい。全然ふっとばない眠気を軽い焦りで無理やりどうにかしながら、寝室の片隅に置かれたベビーベッドを眺め「そっかー、おれたちが病院行くには見守り役いるわー」と思い出す。そして送り出したばかりの母に鬼電して「ごめんけどタクシーで家に来てもらって、長男の見守りと登園をお願いできますか」。子はいつまでも親をしゃぶり尽くす生き物かもだ。

スウスウと息を立てる1歳児、その眠る頬をなでて「きみ、お兄さんになるぞ」とささやく。この人は1年と10ヶ月でこんなにも立派に育って、もはや僕の大切なもののひとつだ。もう「おれの物語の主人公はきみだ」と継承の感すらあった。それなのに、そんな大切が近日もうひとり増え、場合によっちゃこの大切Aは大切Bを見守る役目も負わされるわけだ。親はいつまで子の未来を操作してしまうのだろう。

猫と1歳児の眠りの深さを信頼し、母の到着を待たずして病院に向けて出発。維持費も駐車場代も馬鹿にならないマイカーが、ここにきて存在感を発揮できて心から嬉しいです。あと、妻は普段長男を見守るため後部座席にいるが、今回は助手席にいる。ちょっとしたデート感もあって最高じゃんね、彼女の股ぐらからは水が出続けているわけだけど。まあ破水はしたけどギリギリ感はなさそうだし、2回目でタスクの見通しが立っているのも大きいだろう。私は落ち着いてポジティブにやろうぜスタンスに努め(て声にも出し)、セーフティドライブを維持できた。

コロナの警戒もあってかスイスイの首都高をしばらく行くと、横目に見える東京タワーの赤い光。そういや僕は2年半前にタワーの横でプロポーズめいたことしたんよなあと思い出し、パートナーへの想いがここにきて増幅する。そして「このマタニティ期間はじめクソ大変で深刻なタイミング何度かあったけど、結局こうして大きな愛という感情が毎度呑み込んでいくのよなー」といい感じのまとめに入れた。バツイチには愛の答えとか全然わからず超wavyでごめんけど、まあ互いに五体満足ならこのままがいいよねと思う。

病院の夜間入口手前に車を路駐し、ハスハスする我らは落ち着いた守衛さんのおもてなしを受け、車椅子で産科へと導かれる。即分娩台に乗せられ、深夜の舞台が整っていく。28時という時間にもかかわらず医療現場は万全、おれたち感謝以外の何を思えばいいだろう。刺激の少ない照明に照らされたパステルカラーの産室で、1年10ヶ月ぶりにいよいよ壁がなくなるぞのほうをさせていただきます!妻が。

妊婦の体におなじみ各種センサーがまきつき、親子の心拍や陣痛度合いの参考値などがモニターに表示された。水中で何かを揉むような胎児の心拍音がスピーカーから聞こえてくると、「さあやってきました」の心地である。さっそく「再生しちゃいますか」と例の産前プレイリストを再生させてフロアの熱気を高めるおれたち。やーなんか順調じゃん?ということで、先生方のご準備を待つ間に車をパーキングに移動しにいく。眠いーとか言って準備しながら「いや無痛分娩さまさまや、気持ちがずいぶんと穏やかだよ―」つって再び産室に戻ると、陣痛が強まってきて妻がうめいていたので本当おれは…と反省した。

なるほど、無痛分娩といえど痛みはゼロ始まりゼロ打ち上げではない。多少の兆しが見えて初めて麻酔注入となるようだ。初産のときに散々聞かされていた「いつもの妻からは絶対に出てこないであろう動物的うめき&叫び」のエントリー版みたいな声が2020年3月のいま聞こえてくるもんだから、おれもようやく緊張する。立ち会っておきながらマジなんもできなかった前回のリベンジぶっかまそ、とりあえず前回大不評だった「全然なんでもないときに『ヨシ!』って言う」は封印だ!などなど思い出して深呼吸してたら、1時間ほどで麻酔も効いて穏やかになってきた。なんやの。

すごいや無痛分娩。自然分娩の前回は「じっとり脂汗を浮かべてひたすら激しい痛みに耐える妻からディスられ続ける」みたいな感じだったのに、今回は妻セレクトのトンチキBGMをふたりで聴きながら「改めてやっぱ宮本佳林の存在感はすごいよ」とか言い合ってる。痛みから解放されるだけで、世界こんなに変わるんかよ。

おれたちだけじゃなくて空間全体の雰囲気が普通分娩とはまるで違う。スタッフと我々の間に談笑なんか生まれちゃって、入院食の洋梨デザートを推してた夜番スタッフがシフト交代時に「じゃあ私は“用なし”ってことで」と地獄みたいなことまで言ってくれる、妻の子宮口は10cm全開だってのに。立ち会いなのに出産の切迫感が薄いので、定期的な診察で分娩室から追い出されるタイミング以外にも妻から「あんま寝てないでしょ?ソファで横になりなよ」と促され、そうだよねと外に出たりもした。

そういえば眠いな、と思っていっそ寝てしまおうかと思うくらいの安寧にいるけれど、ふとした瞬間に「生命が出てくる」という重大局面だと思い出し、その崇高さに圧倒されて耐えた。おうおう別の分娩室の外で、わかりやすくソワソワしてる丸井コーデの兄ちゃん、おれもわかるよ。時間のほうも気づいたら1時間2時間が余裕で過ぎていて、みんなが寝静まってる頃に始まったのにもう日の出か!と紅く光る東京ドームを見て驚いたりしていた。みんなにはいつもの金曜日だけど、ふとした瞬間に人口が増えますぞ…!二度目といえど出産はやはり神秘的なイベントだ。

産道をのしのしうごめく胎児、効きすぎる麻酔、ドラマティックな分娩BGM、それを「これ誰の曲ですか?」と尋ねておきながら看護師に「これはハロプロ所属のグループだよ」と言って我々から「こいつ絶対隠れヲタじゃん」と疑われた麻酔医などなどある程度トピックをこなしたのち、サラリーマンが起きそうな時間帯になって「じゃ、いきんでいきましょうか」という正式リリース作業に移行した。

悲鳴こそないが、やはり妻が尋常ではない力を発揮せねばならぬラストスパート。彼女はまるで親知らずが抜かれる歯茎のようで、M字開脚の先には歯をぶっこ抜いて受け止めようとするスタッフが5人。おれは彼女が渾身の力が入れてるところを肩付近でグググと支えながら「すごい!」「すごい!(マジで)」などと応援する。ありがとう妻、今後ともマジよろしくお願いします!!!と慈しみがあふれ、研修医ぽい人の手つきが微妙なのを目にして「前向き重要!引き続き!」と心の中で応援する。BGMは氷川きよしの奇抜ロックチューン「限界突破×サバイバー」。「もう頭が出てきてますよ!」という例のアナウンスがあり、凛として力強い氷川さんの声に励まされる形でヌ・ヌ・ヌと何度目かのいきみを経てブルッと妻の体が動き、血みどろの赤ん坊が世に出現した。

あれ…こんなにできあがってるもの!?39週間を経てようやっと生まれてくれた第2子は、なんだか完成度が高かった。もともと長男が2700gで生まれてきたのに今回は3500g超えというボリュームの違いは把握していたが、サイズだけでなく表皮も前回が辛子明太子なら今回はタラコかってくらい落ち着いていて、髪もベリーショート程度にしっかり生えている。脆弱な猿というよりは人です。やあ、かわいいじゃないの。

初めての出産時は初見の赤子に対して「生き物だあ!」以上の気持ちは生まれず、お子が笑顔を見せるまでぼんやりとしていた。しかし今回は完成度が高く、赤子を見慣れていることもあって最初から親心ドバドバである。強くてなんちゃら、もうすでにおれは父になってる。

ついさっきまで羊水でチルしてたのが慣れない外気に晒され、過酷であるはずの次男は、誕生後即座に泣き止む大物感を我々に見せつけた。目もほぼ見えていないくせに唇に触れた乳首をすんなりくわえようとするなど、新しい場所で超うまくやってる。すごいねきみ!これから自分の手の存在に気づいて、目で見ることを覚えて、気持ちと表情を一致させて、大きな笑い声を上げて、お気に入りのおもちゃ見つけていくわけでしょう?新しいこといっぱいやって、ガシガシに生きていくんだね。そしてそれが最終的に100年くらい続いていくんだ。途中でおれらいなくなるけど、めちゃくちゃ応援するから最後までいい感じでやろうな。

世界、日本、東京、区、うちらへん、うち、親子…そこに今ひとり増えて、これから大なり小なりでどんどん存在感を示していく。人間が増えるの、本当に大ごとだ。何度体験しても、この現象は不思議でしょうがない。

スマホでベビーモニターの映像を観ると、そこにはばあばに服を着替えさせられてるお兄ちゃんの姿が。彼はおれと妻の間ですくすく育ち、保育園をはじめ新しい社会や夫婦関係までも多面的にしてくれた。そこにもうひとり加わるなんて、実に情報が多い暮らしになりそうだな。これから4人家族。4人って多くてすごいなあ!

みたいな感じでひとしきり頭が壮大になりながら、一般病棟に移ってしばらく新生児を観察していると、体のバッテリーがいよいよ…という状態になってきたので、歩行のおぼつかない妻と院内のコンビニ観光をしてから明るいうちに病院を出た。コインパーキングの料金がトータル8000円超えという面白い状態で削られ、帰り道にランチ焼肉するなどして奮い立たせながら這々の体で無事故帰宅し、母に報告と「長男は任せた」という一言を伝えたらそのまま朝まで気絶するように寝た。なんだかいろいろ結果オーライにはなったけど、まあ例によって出産というやつは盛りだくさんでした。

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