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「フォーチュンボックスを通じてお客様にワクワクを届けたい」19歳で社長になった坂内綾花さんの起業ストーリー

突然ですが、あなたは日本で起業する人の平均年齢を知っていますか? ここ十数年ほど若手の起業家が活躍しているイメージがありますが、日本政策金融公庫によると開業時の平均年齢は43.7歳なのだとか。高校や大学を卒業した後に事業を立ち上げる選択をする人はいまだに少数派です。

今回ご紹介する坂内(ばんない)綾花さんは19歳で会社を立ち上げた注目の若手経営者です。2018年11月に18歳で中身のわからない宅配便「フォーチュンボックス」の販売を開始して、2019年2月に19歳でフォーチュンファクトリー株式会社を設立しました。

事業を起こすことはハードルが高いと感じる人は多いでしょう。しかし坂内さんは「準備さえすれば起業は難しくないですよ」とサラリと語ります。

坂内さんが若くして代表取締役になるまでにどのような道をたどってきたのでしょうか。その軌跡を伺いました。

フォーチュンファクトリー株式会社 代表取締役社長
坂内綾花(ばんない あやか)
新潟県出身、現在は東京在住。2018年に19歳でフォーチュンファクトリー株式会社を設立し、中身のわからない謎の箱「フォーチュンボックス」の販売を開始した。起業2年目で年商3,000万円を達成した新進気鋭の若手経営者。


箱が届くまで中身がわからない!リピーター続出の「フォーチュンボックス」とは?

坂内さんの起業ストーリーに迫る前に、まずは「フォーチュンボックス」とは何かについて知っておきましょう。一言でいえば「福袋のような通販」で、注文すると届く箱の中には、坂内さん自身が日本各地を巡って見つけたご当地の食料品や日用品が詰まっています。そのラインナップは、「気仙沼 港町のパスタソース さば×ポモドーロ風」や「十年熟成味噌」などさまざま。最大の特徴は「箱の中に何が入っているかは秘密であること」です。

さらに、作り手の思いや一押しポイントなどを紹介したA4の説明文も同封されており、購入者が「この商品にはそんなエピソードがあるのか!」と感じながら商品を手に取れる楽しさもプラスしています。

フォーチュンボックスを購入したお客さんからは「父の日にプレゼントしたら喜ばれました。次の企画を楽しみにしています」「箱を開ける瞬間のワクワク感がたまりません!次回も購入したいです」など喜びの声が寄せられています。

お客さんに新鮮な感動を届けるフォーチュンボックス。「中身が分からない」という一風変わったコンセプトはどのように生まれたのでしょうか? 坂内さんが事業を起こすまでの経緯について聞いてみました。

製菓学校を辞めて、起業の道へ

幼少期から自立心が強かったという坂内さん。10代の頃は母親との折り合いが悪く、「早く家を出たい」と常に考えていたそうです。そこで新潟の実家を離れるために東京の製菓学校へ進み、お菓子作りを学ぶ道を選びました。

ところが上京して間もなく、坂内さんは「何かが違う」と感じて製菓学校を中退する決断をします。

「お菓子作りは好きでしたが、中学生の頃から集団行動が苦手だったのでカリキュラム通りに勉強するのが苦痛でした。中途半端な気持ちでは学費がもったいないし、辞めるときに迷いはありませんでしたね」

その後は東京に残ってフリーターとなり、アルバイトをしながら起業の勉強に励む生活を送りました。

アルバイトをしていた当時の坂内さん

誰かと足並みをそろえて仕事をするイメージが持てなかったため、「会社員として働く選択肢は100%なかった」といいます。自力で事業を立ち上げるために、試行錯誤で歩みを進めていきました。

フォーチュンボックスの原点は愛情がこもった「仕送り」

フォーチュンボックスのアイデアを発見したのは、フリーター時代です。当時、ルームシェアをしていた友人宛に家族から届く仕送りを見てハッとしました。

「友人が楽しそうに箱を開ける様子を見て『これだ!』とひらめきました」と坂内さん。その仕送りの箱には、食料品や日用品のほか、家族からの手紙が同封されていました。坂内さんは母親と疎遠になっていたことから、実家からの仕送りが届く経験がなく、「誰かが自分のために、品物を選んでくれるのは嬉しいんだな」という感覚は新鮮な気づきだったのです。そして同時に、何が届くかわからない”ワクワク感”を商品にすればいいのではと起業のタネを見つけました。

ビジネス経験ゼロの状態から、手探りで事業を立ち上げる

「自分で商品を選ばない通販」のアイデアが固まった坂内さん。18歳という若さで、初めての起業の挑戦が始まりました。

社会経験がない状態からの起業は苦労の連続でした。名刺交換、商談でのやり取り、見積もりの作成や依頼など、すべてが未知の体験だったといいます。

真剣な面持ちで打ち合わせに臨む

その他に、ビジネスをするうえで必要な知識や用語が不足していたこともハードルとなりました。そこで知人に相談したところ、用語辞典『現代用語の基礎知識』の書き写しをすすめられ、坂内さんはさっそく実践してみたそうです。書写を続けることで言葉の言い回しを覚えられるだけでなく、ニュースの見方を学ぶのにも役立ちました。

「私はあまり学校に行っていなかったので世の中の常識を知らなかったし、日常会話で使う言葉の表現が限られていましたね。実際に書写すると想像以上に時間がかかったので、アルバイトの休憩時間中にコツコツ続けていたんですよ。必要なページをカッターで切り取って持ち歩いていたのは懐かしい思い出です」

最大の試練が訪れたのは、クラウドファンディングでフォーチュンボックスを販売する直前のときでした。突然「中身がわからないとお客様が不安になるので、一部公開する形で販売してほしい」とクラウドファンディングの会社から依頼されたのです。

もちろんフォーチュンボックスの趣旨は事前に説明していました。しかし、たとえ一部でも中身を公開したら「謎の通販」ではなくなってしまう……。そこで急きょ別のクラウドファンディングの会社を探し、なんとか販売に漕ぎつけることに成功。想定外の事態に焦った反面、よい社会勉強にもなったそうです。

自信を持っておすすめできるモノしか選ばない

フォーチュンボックスに詰める商品には並々ならぬこだわりがあります。なかでも大事にしているのが「品質実感が難しいものは売らない」ということです。坂内さん自身が日本全国を回り、実際に試食して品質に納得感のあった食品、実際に使ってみて「これはいい!」と感じた日用品を発掘し、本当におすすめできるものだけをセレクトしています。

牛舎を訪問して生産者の話を聞く坂内さん

フォーチュンボックスは「買い手が商品の開発秘話を学べる通販」でもあるため、背後に隠れているストーリー性も重視していると坂内さんは語ります。たとえば商品説明文には「人間には塩辛いものを食べるとすぐに飲み込みたくなる反射が備わっているので、少しずつゆっくり味わってください」などのように、商品への理解が深まる雑学が載っていたりもします。一般的な品物とどう違うのか、明確に説明できるポイントの有無が大事なのだとか。

「ありふれたものは売りたくないのですが、だからといって奇抜すぎる商品に飛びつかないようにしています。今まで存在していたけれどユニークさを実感できるものに注目していますね」

坂内さんいわく、フォーチュンボックスは「商品を送り付ける通販」。購入者の手元に届いたら中に入っているモノを試すしかありません。だからこそ「なるほど、こんなモノがあるんだ」と新たな選択肢を提示できる商品であるかどうかが重要です。新たな商品との出会いを求めて展示会へ何度も足を運んでいますが、シビアに品定めするので収穫なしのときも多々あるのだとか。それだけ厳選した商品だからこそ、購入者に喜ばれているのでしょう。

生産者とお客様を結びつけるパイプ役になりたい

フォーチュンボックスは、箱の中に入っている商品を販売する生産者やメーカーからも好評です。多くの中小企業は消費者との接点を作るのに苦労しており、販路拡大が最大の課題といっても過言ではありません。

「お客さまから『新たな販売ルートを開拓できた』『自社の商品をPRする機会になった』などの感想をもらうとやり甲斐を感じますね。」

食品加工会社にて担当者の説明に耳を傾ける1コマ

何が入っているかわからないからこそ生まれる新たなご縁もあり、生産者から「フォーチュンファクトリーで商品を販売してもらえてよかった」と感謝されることも多いそうです。

フォーチュンファクトリーは、いわば「生産者とお客様を結びつけるパイプ役」を果たしているといえるでしょう。

めざすはミステリー通販の市場拡大!「商品との偶然の出会い」がワクワクにつながる

ミステリー通販の市場は徐々に拡大してきたとはいえ、まだそれほど世間に浸透してはいません。坂内さんは「世の中にフォーチュンボックスを広めたい」と意欲を燃やします。

「今年は、芸能人・アイドル・地方自治体・旅行会社などとコラボレーションを実現したいと考えています。著名人が選んだ商品を詰め合わせたフォーチュンボックスなら、きっとファンが買いたくなるはず」

「新しい切り口のギフトを提案したい」と坂内さんは語っています。ラインナップを充実させ、これまでフォーチュンボックスを知らなかった人にも興味をもってもらうこと、それが坂内さんの目標です。

さらに、過去に販売したフォーチュンボックスの中身を公開して再販売する取り組みもスタートしました。どんな商品が届くのか知ったうえで購入したい人に喜ばれているそうです。

展示会に足を運んで新たな商品との出会いを探す

18歳から事業を起こし、走り続けてきた坂内さん。様々な壁にぶつかりながらも試行錯誤を重ねることで、6年間にわたりフォーチュンボックスの販売を続け、たくさんの人に笑顔を届けています。最後に、これから起業を目指す人へのアドバイスをお聞きしました。

「起業するなら、利害関係抜きで相談できる人が身近にいることが大切です。その人のアドバイスを参考にしたうえで、事前にやれることはすべて済ませておくと後が楽になります。私自身も信頼できる人に相談して起業の準備を進めました。『ここまでやれば起業できるだろう』と思えるまで、とことん準備に時間を費やせば不安がなくなるのではないでしょうか」

新たなスタイルの通販事業会社としてより多くの人に会社を知ってもらい、フォーチュンボックスを通じて「商品との偶然の出会い」を提供する坂内さん。新しい流通のスタイルを世に広めるため、これからも挑戦し続けます。

HP:https://fortunefactory.co.jp/
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坂内さんのnote:https://note.com/fortunefactory/
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ライター2年目を迎え、ようやく植物の芽が双葉になりました。 これからも読者におもしろいと思ってもらえる記事を目指して書き続けます。 サポートしていただいた分は書籍の購入費用に充てる予定。