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福部里志という生き方/2020年01月23日

・購読している有料のnoteがある

・自分はいろいろなコンテンツに節操なく触れるタイプだと思っているけど、当たり前のように可処分時間は限られているから手の届くものは限られている。ましてや、これだけ無料のエンターテインメントが溢れている中で金銭を払って消費するものとなれば自分の中では割合珍しい部類に入る。

・やはり面白いし好きだから読んでいる。

・それでも面白いという魅力以外に惹かれている部分があることに気付いた。その人の書く文章には、人を否定したり嘲笑ったりするようなネガティブな気分にさせる要素がほとんど無い。

・そういった要素を一切含めずに”面白い”と思わせられることのスゴさに最近気付いた。

・注意深く読んでみると、そういった要素に類することが全く無いというわけではない。日記のようなマガジンなのでもちろん愚痴も言うし、何らかの意見に対する反駁だってある。

・けれど、ネガティブな感情を吐き出すことだったり、他者の意見を否定する自分に賛同してもらうことに主眼を置いていなさそうで、ひたすらにそれを”言語化して述べる”ことが目的になっている(ように私は感じる)。

・感心すると同時に自分もそうありたいと思っているので、このnoteでもそうあろうと心がけているけど、気を抜くとネガティブな感情を吐き出したり、それに賛同してもらおうとしている自分に気付いて、日々そのスゴさに膝を打つ気持ちだ。




・”氷菓”というアニメを知っていますか。


※アニメのネタバレがあります


・放映当時は割と話題になっていたので見ていなくても名前は知っているという人も多いと思う。

・米澤穂信の”古典部シリーズ”と呼ばれる複数の小説が原作のアニメで、古典部という奇っ怪な部活に所属している高校生たちが主人公のミステリー小説だ。

・ミステリー小説といっても平凡な高校で殺人事件が起こるというわけではなく、日常に存在する”考えてみれば確かになんでだろう”という謎に焦点があたって、それを解決していくような作品だ。

・私は小説はあまり読んでいなくて、基本的にアニメを視聴した。

・その作品に主人公の友人である福部里志というキャラクターがいる。

・彼は物知りで、雑学はもちろんのこと、いろいろな部や委員会に所属しているため、知識以外にも人間関係や裏事情などとにかく色んなことに詳しい。

・しかし、作中で主人公が謎を解き明かしている最中にも、謎解きに参加するのではなく常に主人公のサポート役に回っている。

・それというのも意図的に当人がその立ち位置に立とうとしている節があって、作中でも当人はこれに言及している

「例えば僕はシャーロキアンに憧れてる。でも僕はそれにはなれないんだ。僕には深遠なる知識の迷宮にとことん分け入っていこうという気概が決定的に欠けている。もし摩耶花がホームズに興味を傾ければ、保証していい。三ヶ月で僕は抜かれるね。色んなジャンルの玄関先をちょっと覗いて、パンフレットにスタンプを押して回る。それが僕にできるせいぜいのことさ。第一人者にはなれないよ」

・ミステリーものにおける探偵役のような主人公足り得る素質が自分には無いと分かっているからこそ、主人公の脇役をあえて演じている。

・それを高校生の年齢で達観してしまったがゆえに、勝負を挑まれても常に土俵から降り続けるような生き方をしている福部里志を、臆病なやつだとなじることは簡単だ。

・だけど、ほとんどの人が似たような経験をしているんじゃないかと思う。

・自分には何のセンスも才能も無く、それがあるのは一握りの人物だけだと気付いた瞬間。

・作中で主人公の折木奉太郎は、まあ鮮やかに数々の謎を解き明かしていく。昔は福部里志もそんな折木奉太郎を見るにつけ、腕まくりして競っていたがそのあまりに見事な手腕にある日悟ってしまったのだ。自分の力無さを。

・それに気付いた瞬間の福部里志を想像すると、なんとも言えない気持ちになる。

・もしかしたら、今も自分の才能を信じてがむしゃらに努力し続ける人には理解できない感情かもしれない。

・生意気盛りの10代半ばの高校生が、土俵を降りて、主人公に歓声を上げる役になろうと決意したときの葛藤にも似たその感情は、言葉で表現するのはあまりにも難しい。

・そしてほとんどの人がそんな瞬間を通過してきたのではないか。

・大舞台で活躍する歌手、役者、スポーツ選手を見て憧れていたころの胸の高鳴りは奥底にしまい込んで、自分にはモブキャラが分相応だと嘲笑混じりに嘆息する。

・決して楽しい気分ではないのは確かだ。

・でも、息切れしながら走り続けてきたことをふと辞めたとき、同時に訪れるのは自由でもある。

・それ以外の何をしても良い。その自由さに戸惑う人もいるかもしれないけど、自分はむしろ晴れやかな気分だった。


・作中で福部里志にスポットライトが当たって細かに描写されるシーンは少ないが、場面の端々で登場する彼は実に楽しそうだ。

・古典部に手芸部に総務委員会と多様な活動に身を投じて、いろいろな活動に首を突っ込み、多数の人間と関係を築く。

・それが福部里志なりの"自由の謳歌の仕方"であって、前述したデータベースとしての立ち居振る舞いもそこに包含されると思う。。

・そりゃあ、時たま友人がものの見事な探偵役をこなしているところを見ると、昔の野心を思い出したりもするし、忘れきれない部分ももちろんある。

・それでも彼は楽しそうに過ごしているし、そこには他者からの評価を歯牙にもかけない超然さがある。

・そんな彼の生き方は、素直に見習いたいと思えた作品だった。


・かの福部里志しかり、主人公の折木奉太郎や古典部の千反田える、伊原摩耶花も分厚い人間像をしていて、味わいがいのある作品なので、見たことがないという人は是非視聴してみてください~~~~


・こんな終わり方で良いのか

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