自由の女神


こんばんは、ヒナタです。



フェンスの向こう側に鞄が降った。

いっぱいふわふわしたキーホルダー付いてるな。
なんて呑気に見ていたら、ガシャガシャガシャ
って音が聞こえてきた。

びっくりして横を見ると

ピンクのボブヘアーのお姉ちゃんがフェンスを登っていた。


わーー、って驚き以外の何も考えてなかった。

あ、
目が合った。

見んなって怒鳴られるかもとちょっと身構えた


お先〜

と軽々向こう側に行って手を振りながら走っていった。

今、思い出として振り返るあの時のお姉ちゃんの背中には羽根が生えている。
足取りの軽さが分かる後ろ姿。


私はしばらくぼーっとその後ろ姿を見ていた。


心臓がぞくぞくした。



次の日も、休み時間に同じ場所で待っていた。

お姉ちゃんの後ろ姿に会うために。

会うことはできなかった。

残念。

また次の日もその次の日もずーっと待った。


何日待ったか忘れた頃に、またカバンが飛んでいった。

横を見ると、お姉ちゃんの姿があった。

よっ!!アンタも一緒に来る?

ううん。行かない。

そ!じゃ、またね〜


またこの塀の中から飛び出していった。


また、待つ日が続いた。


雨の日だった。
雨の日は校庭で遊んではいけないから誰も外へは出なかったけど、私は傘を差していつもの場所で待った。

そしたら今日は向こう側からこちら側にカバンと自由と傘が降ってきた。

びっくりした。

そっち側から来ることもあるのか、と。

びっくりしてみていると、

ね〜、よくここいるね。名前なんて言うの?

知らない人に名前教えちゃダメなんだって。

そっか。えらいね。
そんなえらい子にはこのメロンパンをあげよう!

とカバンの中からメロンパンを出してくれた。

知らない人から食べ物もらっちゃダメなんだって。

そりゃそうだね。仕方ない。私が食べる。

とその場で袋を開けて食べ始めた。


ねぇ、いつもここにいるじゃん。友達と遊ばないの?

うん、友達おらんし。

そうなん?

うん。
お姉ちゃんは友達おる?

おるよ。

友達っておらなあかんの?

んー、難しいこと聞くなー、

おらんでもええなぁ。
でも、おってもええよ。
私と、友達なってみる?

うん。友達なってみる。

いぇーい!

目の前で開かれる両手

ハイタッチという文化を、初めて経験した。


その後も何度かその場所で話した。

どうしていつも学校の途中に抜け出したり、入って来たりするのか。

ピンクの髪の毛はどうやって色をつけたのか。

なんでピンクなのか。


全部答えは『自由』がほしいからだった。

自由は簡単に手に入れられるものから手に入らないものがあって、手に入るものを手に入れているだけ。

自由はいいぞ、自由になることを諦めるな

と先生に追いかけられながら背中で教えてくれた私の自由の女神。


卒業しちゃって会うことはなくなったけど、あの清々しい程に、中学生ならではの方法で、自由を手にしようとしていたお姉ちゃんのことがずーーーっと忘れられなくて。
だいすきだ。



私にとっての自由の女神はいつまでもピンクボブの姿をしている。



読んでくれてありがとう。


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