彼の電車が走っていく

職場にTさんという方がいます。2男1女の父です。子供作りすぎたと言って、日々ため息をついています。でもとても子煩悩な方です。特に娘の話になると太い眉毛をこれ以上ないほど下げてデレデレになります。

そのTさん、どうも最近Nゲージ(鉄道模型の規格、種類です)にドはまりしているらしい。元々凝り性なのは知っていたので、ああそっちに行ったのかって感じでした。

子供が欲しがったのでNゲージを買って与えていたら、いつのまにか自分がはまってしまったと、どうもそういう事らしい。俺は子供はいませんが(というか結婚もしていませんが)、そういうことはあるのでしょう。レゴとかトミカとかでも似たようなことを聞きますね。いつの間にか大人がハマってしまうパターン。

人を呪わば穴二つ掘れ……じゃないけど、誰かが何かにハマっているのを見ている時に、自分もそれにハマってしまうってまあ、あります。あれー、俺も気が付いたら首までどっぷりハマってるぜハハハって、案外笑いごとじゃなくなってたり。そうやってラブライブ沼に堕ちていった奴を知っています。沼の入り口はそこかしこにあるので、オタク気質のある俺は気をつけなくてはいけません。

でもまあ、俺は鉄道に対してそれほど思い入れがありません。旅行の移動手段として鉄道は好きだけど、鉄道模型は別に…という感じ。でも全然知らない分野の話なので、話を聞いていると色々面白い。中でもTさんと話していて、特に心に残ったことがあります。

それが『レンタルレイアウト』でした。


「鉄道模型ってものすごく種類あるし、買っててキリがなくて」
「そうなんでしょうね、それはなんだか分かります」
「それでね、この前レンタルレイアウト言ってきたんですけど」
「えっ?なんですかそれ?」
「そのお店に行くと、ジオラマ(自然や町の風景を再現した模型)があるんですよ。Nゲージの線路があって、鉄道が走る風景が再現してあるんです」
「なるほど」
「で、そこに自分の車両を持っていって、走らせるんです」
「……?」


しばしポカンとしました。なんだそりゃ。


「ん?走らせるんですか?自分の車両を?」
「そうです」
「走らせるって言っても、Nゲージってスイッチオンで前進後進するだけだから、操作とかあんまりしないんじゃ……」
「しないですね。見るだけです」
「それを見て……何をするんですか?」
「いえ、ただ、ぼおおおおおおっと、それを見ているんです」
「ぼおおおおおおっと、ですか」
「ぼおおおおおおっと、です」
「そうですか」
「そうなんです」


そうか、見ているのか……

その時は話がそれで終わりましたが、すごい世界だなと思うわけです。

落ち着いて考えてみれば、

1:好きなNゲージの車両を買ったので、動いているところを見たい(Nゲージは動く模型です)
2:でも自分の家に走らせる場所はないし、ジオラマ作る腕も金もない。ていうかそんなものを作ったら嫁に撲殺されてしまう
3:でもこの子が動いているところを見たい…見たいの!(心の叫び)
4:そうだ、レンタルレイアウトに行こう!

こういう話かなと思います。

そして考えます。自分だったら、これはどういう行為に当てはまるのだろうか、と。

……結果、ドッグランかなと思いました。

のびのびと走る我が愛犬。それを見る自分。ほほえましい午後のひと時です。犬はとても楽しそうだ。普段狭いところに繋いでおいてごめんね。今日は思いっきり走り回るがいいさ。

うん、ちょっと違うかな。

でも想像してみれば、それはなかなか楽しい趣味じゃないかなと思うんですよね。ずっと飾っているだけだった大好きな模型が、実際に動くんです。しかも、ミニチュアの山や街を抜けて、トンネルを抜けて、橋を渡って。

僕の新幹線N700系が、あんなに生き生きと走行している。夢にまでみた16両フル編成だ。次は山手線E231系かな、いやここはあずさのE353系にしようかな。なんて。

そういうのんびりとした平和な趣味ってわりと好きだし、そういう話を聞くのも好きです。今日もどこかでTさんが、出発進行!とか言いながらNゲージを走らせているのかと思うと、なんだかちょっと楽しい気分になります。

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