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オイルII|2024-04-16

今回は、うでパスタが書く。
いろいろあるが、私は冷静だ。みなさんも「大切なお知らせ」が届かないことを祈りつつ平穏に日々を過ごしていただきたい。

さて、この戦争はいつ始まったのだろうか?
昨年の一〇月七日にハマスがイスラエル領内を急襲して多数の人質を奪ったときか、二〇二二年の二月にロシア軍がキーウを目指して侵攻を開始したときか、二〇一四年に「休暇中のロシア兵」がウクライナ東部で作戦行動を始めたときか、あるいはそもそも戦争はずっと続いていて、終わったことなどなかったのだろうか?
ほとんど毎回書いているが、世界史を学んだことのある人間が現在を未来の歴史のなかに織り込んだ形で語ろうとしないのが不思議だ。私はいまさらながらその視座を得たくて歯がみしているのだが、どうにもならない。

昨年かなり有名になった本に「半導体戦争」がある。
かなり物騒なタイトルだが、原題こそ“CHIP WAR”なので誇張はあるまい。そしてそれが「半導体開発戦争(競争)」のことなのか、「半導体の開発をめぐって起こる戦争」のことなのかについては最後まで曖昧にされており、いずれにしても実際に戦争が起こる可能性については充分に余白が残されていると感じる。

しかしそうした扇動的な、ことさらに国家間の抗争を描き出す報告として「半導体戦争」を紹介するのはフェアでない。半導体の発明(発見)から、それがいまや立志伝中の存在となった伝説的なエンジニア(や経営者たち)の手によって飛躍的に進化し、やがて戦争の(つまり実際の戦争の)形を変えるに到ってソ連に敗北を知らしめ、冷戦の終結をすら導いた歴史をこれほどすっきり簡潔に、だが同時に偉業の数々を鮮やかに描き出す手法は圧巻で、その分野に特化した内容にもかかわらず現代の教養書として万人にお薦めできる名著といえる。

「半導体は現代の石油」だと日本で吠えているのは孫正義だが、これにはふたつ興味深い点があり、そのうちのひとつは石油にはもう「現代の石油」としての価値がないと孫が暗に前提しているところだ。これはいままさにイランがイスラエルとドンパチやっているのに米国が「まぁ反撃するんだったら事前に教えてくれよな……」ぐらいのことしか言っていないことを見てもあきらかで、要するに米国が世界最大の産油国になったことで「石油の世紀」は終わった。私たちの生きているこの世紀は、少なくとも石油の世紀ではないのだ。

もっとも、半導体が次の石油、つまりは最大の戦略物資だとするならば、そこには戦争がなければならない。戦争のために必要とされ、そのために戦争が行われなければ半導体は「石油」たりえないと考えるのが当然だ。

「半導体戦争」が私のようなベトナムに縁のある人間の興味をひくところがあるとすれば、それは米軍による「タンホア橋爆撃」とその成功がその後の戦争のかたちを完全に、不可逆的に変えてしまったというところだ。
タンホア橋とはベトナム戦争時、米軍機から実に千回以上の爆撃を受けてもこれに能く耐えたことが知られる伝説的なオーパーツなのだが、「半導体戦争」の明かす真実とは、米軍の前時代的な爆撃は実際、タンホア橋には命中しておらなかったということだ。つまりタンホア橋は圧倒的な物量を持って迫る米帝に対して頑強に耐えたベトナムの象徴というよりも、非精密な、非誘導弾による当時の攻撃の非効率さを象徴していたのである。

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