BiblioTALK de KINOKO vol.035のお知らせ|2023-07-22
この告知は、うでパスタが書く。
もう月末だ、月末なんだ。
2023年7月27日(木)20時ごろより、九段下ビブリオテーク・ド・キノコから月例のYouTubeLIVE配信・BiblioTALK de KINOKOをお送りする予定だ。配信は「九段下パルチザン」の定期購読者限定で、その配信URLはいまお読みのノートの末尾、有料部分に記載されている。
今回、私は二〇年以上の懸案であった最期の親不知を抜歯した直後ということになる。これはふつうの歯科ではできない、口腔外科の予約を取ってくれともうずっと前に言われたのを、怖くて放っておいたら今般の歯列矯正にかかり「そろそろ抜きましょうか」と引導を渡されて、東京医療センターという大病院のお世話になるものだ。
事前の診察では「当日、抜けないようなら切開する」とも言われているし、たぶん抗生剤が出るのでこの場合にはなんと配信の現場でも酒が飲めないことが予想されている。そうなれば、初めてのことだ。
最近、ネットで知り合ったひととライブに行ったり海へ行ったり、キャンプへ行ったりとなんだかんだでほぼ一週間あそびまわる機会があった。
このひとの場合、年の頃ならもう「人生の重要なイベントはすべてこの歳までに起こる」と言われているその歳にさしかかっているわけだけれども、しかし私なんかがこども連れで結構無理をしている一方、ふらっとこういう風に付き合えるひとというのはやはり「若いな」と感じた。
もちろんこの世には結婚したりこどもを持ったり、家を買ったり、あるいは就職すらせずに歳をとっていくという生き方もある。あるひとがこういう生き方を「社会的な責任を果たしていない」のだといって憤っていた。それはそのときそのひとの息子さんがまさにそうだったからだ。しかし「社会的な責任」とはいったい何だ、その責任を負う約束はどこでなされたのだということが私には分からず、どちらかといえば息子さんに同情した。
もっとも、私自身だって結局は上記すべての実績を解放し、いまようやく仕事だけはなんとかほっぽり出して生きているが、それでも「本当にこれでいいのか」とみずから問いかけない日はない。つまるところ我々は喜んで、あるいは少なくとも唯々諾々と「社会的な責任」なるものを引き受けて、それをむしろ限りある自分の生の輝きなのだとおそらくは勘違いをしながら死に向けて加速していく。
その点で、若いひとと遊びにいくのはいいなとあらためて思ったのは、あまりにも多くの責任を背負って鈍重になったおっさんらと一軒で二時間半の勘定まで酒を飲み、せいぜいラーメンでも食ったのを暴れ回ったかのような気になって終電でもなんでもないふつうの電車で帰路に着く、そういうのに比べ圧倒的に無責任な付き合い方ができる相手がまったくいなくなってしまったからだ。なにかキャンプへ行っても明日にはまた家族を連れて長いドライブをして家に帰らないといけないと限られた時間で必死に料理して酒を飲んで洗い物をして寝る、みたいなそういう過去・現在・未来がガッチリと接着されてしまっていてもうにっちもさっちもいかないというような、そんな人生を生きるようになってもうどれぐらいになるのだろうということを考えた。
今年私が徹底的に読んでいるミシェル・ウエルベックが生と性(ウエルベックの作品においてこれらは完全に同義である)からの解脱を描いた「ある島の可能性」には、壮年期に入った主人公が若いモデルと付き合うも、乱交パーティー会場と化した巨大なペントハウスで誰からも相手にされずプールサイドでマスターベーションをして白眼視されながら泣くというすごいシーンが出てくる。だいぶん筋も違うし飛躍もあるが、若いひとたちの世界には何かそれぐらいの近寄りがたさを感じるのであって、おそらく自分の息子に憤っていたあのひとの、その怒りの理由も本当はそんなところにあるのだろう。
若いひとたちというのは自由だ。だが自由は未来から遊離した、まったく不確定な、独立した現在にしか存在し得ない。もし未来に向けてライトを照らせば、そこに見えるのはいま私たち老人が見ているものと変わらないのだが、そのライトがいまはまだ落ちていることこそが若さの価値のほとんどだ。それにもかかわらず、平気な顔をしながらも怖くて必死にライトのスイッチを探してそれに手を伸ばそうとしていた頃のことも、私だって覚えている。
夏のキャンプ場には羽虫が多く、刺されるとつらいということから今回は初めて「オニヤンマくん」を使った。羽虫を捕食する大型の蜻蛉がぶらさがっているとこれを怖れて入ってこない、という効能が多くの経験談とともにまことしやかに謳われている。
もちろんバカではないからこのほかにも森林香を同時に三本焚き、みんな虫除けスプレーをして蚊帳のようなターブのなかで夜を過ごした。結果として、二泊して虫刺されの被害はゼロだ。だがそれだけやったなかでどれが効いたのかは分からず、結局次回も全部おなじことをやることになる。オニヤンマくんが本当に有効なのかどうかを単体で試す機会は永遠にやってこないだろう。それにもかかわらずオニヤンマくんはこれからいつも私たちのテントにぶら下がっていることになるだろうし、これこそはまさにまじないというか呪術の誕生であると感じる。
結論、なし。
次回、八月の配信は軽井沢にあるキノコさんのご実家の庭にタープを張って、その下からお届けする予定だ。
以下、有料部分に配信URLを記載する。
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