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現代2Pick技術論(前編)

はじめに

 近年の2Pickは「攻め重視」思考が必要になりつつある。これは、カードパワー全体が低かった時代の2Pickにおける「受け重視」思考とはだいぶ異なる考え方が必要となる。

 カードプールに存在するカードパワーが、全体的に低かった時代の環境(以下近代環境)は、盤面をとにかく取り続け、相手からの攻撃手段を読み切り、いなして勝つという、いわゆる「受け重視」と呼ばれるような勝ち方が出来たことが特徴だ。これは、近代環境において、単体除去や範囲除去を持ちながら強力な盤面を形成できるようなカードが非常に少なかったことに起因する。

 一方、近年の環境(以下現代環境)には、全体的のカードパワーが高まり、強力なフィニッシャー札、範囲除去や複数除去を行いながら強力な盤面を形成できるようなカードがカードプールに増加傾向にある。これらのカードの登場により、近代環境で成立した「受け重視」思考で勝ち切れる試合数が明らかに減少している。そのため、盤面の押し付け方や除去札の切り方、相手のフィニッシャー札のケアの方法や自分のフィニッシャー札の最大バリューを求める戦い方など、いわゆる「攻め重視」思考が重要になってくる。

 本記事では、現代環境で必要となってくる「攻め重視」思考を育めるような参考書となるよう、1)クラス提示段階2)Pick段階3)プレイ段階に区分し、私が重要だと考えている技術について記していく。


定義

 本記事で用いる用語の定義を以下に記す。なお、例は全てDOV環境時点のものである。

手数の多いクラス・・・
相手の動きに対して、コストの低いカードを組み合わせ、攻めや受けを柔軟に繰り出すことができる能力を持つクラスのこと。
例)ネメシス、エルフ

攻め性能が高いクラス・・・
強力なバーン性能や盤面制圧能力を持ち、押し切る力が強いクラスのこと。
例)ウィッチ、ヴァンパイア、ドラゴン、ロイヤル

受け性能が高いクラス・・・
他のクラスが出せる打点よりも多くの回復能力を持ち、リソースが切れることが少なく、長期戦を制するフィニッシャーが存在するクラスのこと。
例)ビショップ

切り札・・・
ゲームの流れを自分のものへと決定づける役割を担うカードのこと。
例)カオスルーラー・アイシィレンドリング、楽隠居の元国王・フォリア

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フィニッシャー・・・
ゲームの勝敗を決定づける役割を担うカードのこと。
例)アーティファクトシップ、魔導の申し子・フュンフ

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キーカード・・・
各クラスの軸となるカードのこと。切り札とフィニッシャーの総称。


第1章 クラス提示段階

 1-1 リーダー順位

 あなたが現在考えているリーダー順位は果たして正しいだろうか。上位リーダーや下位リーダーとして置いているクラスの順位の理由として、「皆がそう言っているから」「強い(弱い)カードが多いから」「自分には使いこなせないから」など、抽象的な理由になっていないだろうか。逆に、「他の人はこう言っているが、ぼくの意見の方が正しい」といった考えに陥っていないだろうか。

 一般的に言われているリーダー順位に関しては、2Pickをある程度行っている人であれば概ね同意できる内容だろう。しかし、それをきちんと説明するとなると、途端に難しくなる。なぜならば、「自分が負けたのは運量が足りていないからだ」と運を言い訳にし、「強いクラスが取れなかった」「相手の動きが強すぎた」と逃げるほうが楽だからだ。負けの責任を抽象的なものとして捉える人が多く、敗着となった要因を追究するという人はあまり多くないだろう。

 そこで私は、「上位リーダーがなぜ強いと言われているのか」について再度問う。上位リーダーのどういった部分が強いのかについて精査していただきたい。また、対応が難しい動きにどのようなものがあるか、強い動きに対するケアがどの程度容易かなど、弱い点についても目を向けていただきたい。

 逆に、「下位リーダーにチャンスはないのか」についても同様だ。下位リーダーというものは基本的に敬遠されがちで、探求されないことが多い。そのため、「いざ下位リーダーと対面したけど何してくるのか分からなくてそのまま負けてしまった」といったことが起こりやすい。どのような点が弱いと言われているのか、またどういった動きがあり、強みを活かせるためにはどのように立ち回るべきか、などについても再度考えていただきたい。

 1-2 環境の特徴

 各環境ごとに「手数の多いクラスが強い環境」「攻め性能の高いクラスが強い環境」「受け性能の高いクラスが強い環境」といった特徴が現れる。環境が変わるにつれ、強いと言われているクラスの特徴が変化する。そのため、「なぜ受け(攻め)性能の高いクラスが強いと言われているのか」「手数の多さを活かすためにはどの程度の動きまで想定すればいいのか」という点においても留意するべきだ。

 例をあげると、執筆現在(2021/05/)の環境において、一般的には以下のような順位を挙げる人が多い。上位クラスとして、手数の多いネメシス、エルフを上位リーダーとして置き、中堅クラスとして、一撃の破壊力を持つウィッチや、1枚のカードでゲームを決めることのできるヴァンパイア、その下に受け性能の高いビショップを置くといった順位だ。このように見てみると、この環境において「手数>攻め>受け」のような構図だということが分かる。

 ではなぜ上記の構図になっているのだろうか。この答えについては、「多くの手数によって相手の攻めや受けに対して柔軟に立ち回れる」クラスが、「一撃性の高いクラスの並以上の動きから下振れまで」に容易に対抗でき、また「相手の許容値よりも大きな盤面・打点を作り出すことができる」環境だから、と言える。

 1-3 手数の多いクラス

 相手の各ターンの強い動きや除去札の範囲など、相手がどのように動いてくるかを知る必要がある。また、相手の動きに対応したプレイを行うためには、Pickやマリガンの段階から精査していくことも重要となる。そして、ドローカード・受けのカード・攻めのカードの役割ごとに、どのカードが何枚程度あるのが理想なのかについても知る必要があり、つまるところ、環境への理解能力が必要不可欠となっている。デッキのバランス等については、第2章で解説する。

 1-4 攻め性能が高いクラス

 Pick段階に関して言うと、単体のパワーが高いカードを優先して取れば問題ないため、ここに特段不便はないだろう。一方で、マリガンに関しては、どこまでハードマリガンを行うか、どの程度までの下振れまで許容できるのかについて考慮する必要がある。また、プレイングに関しては、フィニッシャーをマックスバリューで使用するための下準備・そこまでの粘り方・キーカードを切るタイミングのそれぞれについて戦局を見据えながら考える必要がある。そのため、ただ攻めのみを考えるだけでなく、勝ち抜くためのマリガンやプレイングの見直しや粘ることの重要性を知っておくことが大切だ。

 1-5 受け性能が高いクラス

 近代環境では、最低限の回復札やリソース札を有効的に活用し、フィニッシャーを必要としないまま相手のリソース切れを狙って勝つという動きが自然だった。しかしながら、現代環境においてその動きはかえってライブラリーアウトを起こす危険性がある。そのため、ただ単に相手の動きに付き合うだけではむしろ相手の攻めを助長する可能性が高い。重要なことは顔で受けられる限界値許容できる盤面形成強力な除去札やフィニッシャーの切るタイミングを熟考することだ。

 1-6 「受け思考」の応用法

 今まで培ってきた「受け思考」の経験値を、各クラスの特徴を紐解いていくことで、それらのクラスに応用することができる。

 第一に、手数の多いクラスへの適用方法は、「受け思考」で培ったケア範囲をそのまま流用するのが最も分かりやすい。現実的にケア可能な相手の強い動きを想定し、あらかじめ布石を打っておく。そうすると、そこから自分がどのように動いていくべきかが見えるようになり、最善手を常に見据えてプレイできるようになる。

 次に、攻め性能の高いクラスへの適用方法については、フィニッシャーを引けなかった際の粘り方になるだろう。相手の強いカードに対するリアクションをしっかりと用意しておき、逆にこちらが強い動きを通し切るといった点で活用することができる。

 1-7 進化権の認識

 第3章で詳しく述べるが「攻め思考」と「受け思考」では進化権に対する認識が大きく変わる。そのため、クラスの性能を良く理解し進化権の使い方をプラン立てる段階も重要になる。進化権を打点に変換するべきか、自分のリーダーの体力を安全な水準で保つために用いるかなどを判断する大局観を形成するために役立てると良いだろう。


第2章 Pick段階

 パワーカードのみを優先して取るだけではマナカーブが歪み、序盤のテンポロスを引き起こしてしまう。それを解決するためには、どのようなデッキ構成にすることが望ましいか。初めに全てのクラスに共通している認識を記し、その後クラスの特徴ごとにそれぞれ詳しく見ていく。

 2-1 全てのクラスの共通意識

 まず、2Pickを勝ち抜く上でフィニッシャーとリソース札は最低限必須となる。フィニッシャーがないデッキの場合は試合を行ってもパワー負けすることが明白であり、逆に相手のフィニッシャーに押し切られる展開が容易に想像できる。また、リソース札がないデッキの場合は手札が枯渇して押し切られてしまうか、手札から選べる選択肢の幅が狭まり弱い動きになってしまう。

 これらを含めたデッキ構成のバランスは、各クラスの特徴によって変わる。以下の章で詳しく説明を行う。

 2-2 手数の多いクラス

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 第1章でも触れたように、環境への理解度が強さに比例するクラスである(例:DOV期エルフ)。環境によって攻め・受けのどちらに比重を置くべきかが変化するため、攻め札・受け札の理想とする比率がそれぞれ微妙に異なる。ただし、どちらか一方に比率が大きく偏っているという結論が出た場合は、クラス特有の柔軟性が失われていることになるため、クラス評価の段階から見直すべきだ。

この比率を明確にし、基準とする作業は、2-5で記すような方法で行うことを推奨する。

 2-3 攻め性能が高いクラス

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 一撃でゲームを決めるパワーに特化しているクラスとなっているため、このクラスの基本としてはキーカードを最優先でPickしていくことが挙げられる。このことは直感的に分かりやすいが、一方でフィニッシャーを支える役割を担うカードおよび低コストカードの判断については難しい。以下にそれぞれのカードについて記していく。

 2-3-1 フィニッシャーを支える役割を担うカード

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 フィニッシャーを支える方法は2通りあり、それぞれにおいて必要なカードが少し異なる。

 1つ目は、フィニッシャーを出したいターンに最も効果的に使えるような盤面形成をする方法だ。この方法を採る場合、継続的な盤面形成を行い、試合の主導権を握れる展開へと持ち込むことが目標となる。そのためには、各ターンの最も強い動きができるカードが重要となる。

 2つ目は、フィニッシャーが効果的に使えるようになるターンまで粘り、相手の隙を窺う方法だ。この方法では、相手の動きに対するリアクションが取れるカードやどのタイミングでプレイしても一定のパワーを出せるカードが必須となる。

 切り札は稀にゲームを決めることがあるが、基本的にはフィニッシャーを支える役割を担うカードだ。ただし、他の支える役割のカードとは異なり、2通りのプランの両方に対して有用な働きをするという大きな特徴を持つ。そのため、切り札はフィニッシャーの次に優先するべきカードだ。

 2-3-2 低コストカード

 せっかくのフィニッシャーを出そうにも、序盤で相手に主導権を握られてしまうと本末転倒であるため、低コストのカードの枚数について考えることも大切となってくる。

 フィニッシャーに大きく依存する場合、ハードマリガンが必要となるため、低コストカードを多く取り序盤の事故率を下げフィニッシャーの引ける確率を高くする方が良い。

 一方で、フィニッシャーへの依存度が小さい場合、低コストカードの枚数を少なくして中盤のカードを増やしマリガンで低コストカードを探しに行く方針を取るべきだ。

 2-4 受け性能が高いクラス

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 受けのカードが自然と取れるクラスであるため、フィニッシャーおよび強力な除去性能を持つカードを最優先で取っていくべきだ。また、他の特徴を持つクラスよりもリソース札に対する重要度を上げる必要のあるクラスだ。

 フィニッシャーの枚数が多く取れれば取れるほどフィニッシャーを投げるタイミングについて考える必要が少なくなる。これは、裏返すとフィニッシャーが少なければ少ないほどより状況を俯瞰し、プレイする最適なタイミングを導き出さなければならないことを意味する。とどのつまり、大局観が確立されていなければこのクラスで勝ち抜くことは難しい。

 また、相手の猛攻を凌ぐためには多くの動きの中から数ターン先まで見据えた最適な受けを行う必要がある。最適な受けを行うためには手札から取れる選択肢を増やすこと、デッキに入っている強力な除去性能を持つカードを早めに手札に確保することが不可欠だ。それらにはリソース札が重要な役割を果たすため優先的に取っていき、受けの継続手が続かないような事態が起こらないよう心掛けるべきだ。ただしドローのしすぎによる「ライブラリーアウト」の懸念があるため、リソース札の使いすぎにも注意を払う必要がある。

 2-5 デッキ構成の精密化

 カードの比率のバランスを整える作業は、2通りの方法で行うことができる。それは、大局観がしっかりしているプレイヤーの配信を見たりその人に質問をしたりする(いわゆる質を求める)方法と、多くの試合を行いトライ&エラーによって頭に叩き込む(いわゆる数を求める)方法だ。私は後者側の人間だが、時間を節約し効率よく強くなるためには前者のほうが手っ取り早くおすすめだ。

 さて、これらの方法で導き出した最適な構築バランスは、信頼できる他の人との擦り合わせによって簡潔な割合比から具体的な枚数比へと精密化を行う必要がある。この精密化によって現状のデッキから目指すべき構築を見据えた柔軟性に富む選択を行うことができるようになる。また、枚数比を明確にしておくことで、役割を担うカードが足りずに負けるといった事故による負けの割合を減らすことに繋がる。

 これら一連の流れで最適なデッキバランスを求める方法は、Pick段階があまり得意でないと感じている人に、是非とも身につけていただきたい技術だ。


 以上で前編は終了です。後編ではプレイングに関して書くため、そちらも見ていただけると幸いです。

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