2021.8.21. 苦しさに手を差し伸べる詩

福音


打ち捨てられたような心持もきっと気のせい
壊れた破片を拾いなおすことは
どれだけ難しいことだとしても
苦しさも辛さも
あなたを苦しめるあなたの心も
きっとあなたの気のせい
自責を生み出す言葉を拾わないで
どうせ夢見るのなら
そこにある空を眺めて
そこにある雲を望んで
そこにある星を夢見て
その言葉は傷をつけるものでもあり
その言葉は傷に触れるためのものでもある
ゆっくりとあきらめて気のせいなのを理由をつけて
ここから逃げ出したくて
どこかへ帰りたくて
苦しくて
言葉からそれを紐解こうと
解こうと
手繰り寄せては傷ついて
手を離せば谷底に落ちてしまいそうで
手を離すことは今までなかったから
ゆっくりと
指を緩めて
何日かけてもいいから
ゆっくりと
手を解いて
悲しい心の幻影をうれしい心の幻影で受け止めて
ただ、明日を
ただ、朝を
ただ、目覚めを
ただ、ただ、祝福して


新月


心痛める日の夜は新月のように黒くて不穏で
密やかに忍び寄る蛇の這いずりは喉の奥にとぐろを巻く
胃の中で暴れまわり黒い液をまき散らす
黒く不穏な月の針は心の内をのたうち回る
迸る刺激は僕の笑顔に罅を入れる
重たい黒は心の質量
何よりも軽く
それは朝の美徳
ただ新月の日はつらいよ
愛おしさの美しさは黒の美しさも持つ
薔薇の棘を呑み込んだ空しさは新月の夜の夢
ただ君のもとへ歩みたいだけなのに
僕は枷をつないで歩みを鈍にしておかなければ
この黒い新月を愛せるようになるまでは
君の心が私を見るまでは
新月の夜は毎度泣こう


ヴィーナス


たとえ形なくとも
微笑みは愛おしい
ただそれだけのうた

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