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再生医療ってなんだろう? (2) -治療用細胞の製造ってめちゃめちゃ大変!-

こんにちは、ビビです。
夏🌻はやっぱり、スパイスを求めがちですね。先日、美味しいカレーのお店を見つけました。カラフルな彩りや、スパイシーなトッピングが食欲をそそります。夏バテしないように、しっかり食べておかないと!ですね。

さて、今回はシリーズ2回目です。早速、再生医療の製造現場についてお話していきましょう!


🦠話題の再生医療等製品

日本で最初に再生医療等製品として承認されたのは、株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリングの開発した重症熱傷の患者向けの自家培養表皮です(2007年)。この会社は、大企業の株式会社ニデックが母体となり、数社が共同出資して設立されましたが、最近では、大学発のスタートアップが再生医療の分野で活躍しています。
例えば、シート状のiPS由来心筋細胞は、大阪大学発のクオリプス株式会社によって開発され、2020年から医師主導治験(製薬会社でなく、医師がPMDAに申請して治験を実施)が始まっています。他にも、網膜色素変性症に対してiPS細胞由来網膜シートを移植する臨床研究が、理化学研究所の研究成果を基盤としているのは、ニュースでも取り上げられたのでご存じの方も多いでしょう。
いずれの場合も、細胞を培養して製品化するため、それに適した製造設備が必要となります。

🦠密かに大変な製造工程のレギュレーション

全ての医薬品等は、製造工程での高い安全性が求められます。低分子医薬品が主流であった時代には、その安全性は「薬事法」によって規制されていましたが、細胞製品を主とする再生医療製品等を管理するには十分ではなかったため、2014年に、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」の2つの法律で、規制することになりました。前者は,薬事法の流れを汲む法律ですが、厚生労働省が承認した再生医療等製品、例えば、企業等が製品として生産する場合なども含まれます。後者は,承認前の再生医療等の臨床研究や自由診療を規制しています。

これらの法律では治療に用いる細胞等の製造施設についても規定しています。この施設を、Cell Processing Center(CPC、細胞培養加工施設)といいます。CPC内では異物の混入を防ぐために、高い清浄度が求められます。例えば、施設内で検出される微生物は<1CFU /㎡(CFU=Colony forming unit、1CFU≒生きている菌が1つ)が許容基準です。
この厳しい基準をどんなふうに対応しているのでしょうか。気になりますね。

🦠製造現場の異物混入対策は大変!?

まず、医療製品への異物の混入は、安全の観点からあってはならないことです。
この観点から人を見る場合、毛髪、皮膚片、皮膚表面に付着した菌など、混入を回避するべき要因はたくさんあります。もちろん、普段私たちが着用している衣服も繊維のほつれや目に見えにくいサイズの埃の付着まで考えると、異物だらけでCPCには持ち込めません。このため、入室の際には厳重な管理が必要となります。

CPCでは異物を持ち込まない厳重な入室管理とミスを防ぐためのダブルチェック体制が必須

最初に、一次更衣室で専用の作業着に着替えます。そして、さらに作業室手前に設置されている二次更衣室で、繊維片が落ちない無塵衣を上から着用します。もちろん、毛髪が落ちないようにフードは必須ですし、飛沫を防ぐためのマスクも欠かせません。
その他、作業ミスは許されませんので、二人一組になって、ひとつひとつのステップを、工程の手順を記載したシートを確認しながら進めます。想像しただけでも、かなり大変そうです……..。

各工程が特殊な作業ということもあり、製造のオートメーション化はあまり進んでいません。しかしながら、研究室での実験で活躍しているロボット「まほろ」を、製造工程用に進化させるプロジェクトも動いているようです。かなり高価なのが難点ではありますが、汎用化されれば安定な製造ができると期待されます。

主な課題だけでも、たくさんありますね。解決に向けて、尽力している皆さんに期待しています!
次は、細胞医療特有の品質管理問題をちらっとだけ見てみたいと思います。

🦠再生医療特有の品質管理問題

常に同じクオリティの製品を提供する場合、その指標となる複数のファクターを決めて、毎回安全な品質基準内であることを確認していく必要があります。低分子医薬品の品質管理は主成分が化合物であること、また長年のナレッジの蓄積もあり、比較的管理しやすくなっています。
ところが、再生医療の場合、新しい製品分野であるだけでなく、管理する細胞は生きており、その成長や性質は環境に左右されやすく、常に変化していると言っても過言ではありません。製造工程が多いほど、各工程における誤差が最終製品に与える影響は大きくなり、細胞培養期間が長いほど、製造バッチごとの環境変化が細胞に与える影響が大きくなります。この誤差をどの範囲に収めれば、安定した薬効を示す最終製品に仕上げられるかが、頭を悩ますところです。

また、個々の細胞には様々な機能を持ったタンパク質などが発現しており、其々のタンパク質などがヒトに影響を及ぼす作用機序や影響度合いについても、全てが明確になっているわけではありません。このため、どの因子の発現を基準にするかなど、管理項目をどこに定めるかも、大きな課題です。

ひとつひとつの細胞は、ひとりひとりの人間のように少しずつ違う

他にも、細胞の「純度」も重要なファクターです。
例えば、iPS細胞から治療に使う細胞に分化させる工程を考えてみましょう。iPS
細胞は、様々な段階(細胞)を経て目的の細胞に分化することが多いです。ひとつひとつの細胞には個体差(タンパク質の発現量の差、分化タイミングなどの多様性)があり、かつ、徐々に変化します。周囲の細胞が、一斉に次の段階の細胞に、せいの!って変化するわけではないのです。それに、途中で、その中のいくつかの細胞が、他の細胞へ分化してしまう可能性すらあるのです。もちろん、製造工程には目的の細胞を他の細胞から分離するステップも含まれますが、細胞の「個体差」もあり、どこまでを同じ細胞として扱うかなど、技術的に難しいのが正直なところのようです。
実際、製造バッチごとに不純物の割合が異なり、患者さんに投与する際に濃度などを適切に調整する工程が、臨床現場で必要になることもあります。

投与のタイミングを変更するのが難しいことも課題の一つです。細胞は生き物ですので、例えば、手術の日程が変わったからと言って、途中でとめて保管しておくことができません。そのまま置いておくと細胞がその時間分だけ成長=変化してしまうのです。変化した細胞は目的の細胞とは性質が異なってしまう可能性もあり、移植に適さない可能性も出てきてしまいます。

他にも課題は山積みのようですが、その辺りはポッドキャスト(♯133♯134)を聴いてみてください。

🦠次回は・・・

最後に、再生医療分野の研究をのぞいてみたいと思います。楽しみにしていていただけると嬉しいです。

このお話はポッドキャストでもお届けしています。
お時間のある時にぜひお聴きくださいね!

サイエンマニア
133. 生きた細胞を食料や医薬品に?今ホットな再生医療分野について語る!
134. 再生医療の実験現場とは?着替えと技術とやりがいがスゴすぎる

関連資料他
11. ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC )
12. クオリプス株式会社
13. 神戸市立神戸アイセンター病院
14. 細胞プロセシングセンター
15. 細胞医療製品を双腕ロボットで量産
16. 細胞製造性を鑑みたヒト細胞加工の特徴と工程による品質変動


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