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【映画】ルックバックの感想
原作既読済みだったので主な展開は知っていたけれど、結構曖昧な感じで観に行って、すぐに原作を読みなおした。そんな感じの感想です。
兎にも角にも作画が良い。良いというかやばい。良い意味で。原作の雰囲気を損なうことなく、しかして、映像作品として昇華されていると感じた。
映画冒頭、漫画を描く藤野の後ろ姿が流れるのだけれど、電気スタンドの傍らに置いた鏡に藤野の顔が映って、表情も見せる構図になっているのが面白いと思った。藤野の表情がコミカルに動く訳ではないのだけれど、自身の手元を見つめる顔が見えるだけで、後ろ姿から感じる藤野の真剣さがより増したように思えた。あと、鏡に映る人物の動きと、正面に見えている人物の動きをシンクロさせる技術すごくないです……?
声がついたことで、登場人物の感じ方とか、ストーリーではっきりと語られていない背景とかに想像の余地が及んだのもすごいと思った。
まず、京本の訛り。藤野たちの地元は山形なんだけれど、京本以外のみんなが話しているのは標準語。厳密には標準語じゃないかもしれないけれど、訛っていると感じるものではない。多分、実際に他県の人が聞いたら、藤野たちも訛っているのだと思う。でも、藤野たちはそう感じていなくて、京本だけがその中で訛っている。これは、藤野が認識している世界として描かれているからなのではないかと。そして、京本は他県(青森?)から引っ越して来た子なのではなかろうか。京本が引きこもりになってしまった経緯は詳しく語られないが、もしかしたら、その話し言葉の違いをからかわれたことがきっかけだったのかもしれないと想像した。(完全な邪推かもしれないが)
自分も東北出身なので、多少なりとも身に覚えがあるというか。自分自身訛っているのに、山間部出身の子は自分より訛っていると感じたことがある。そして、大人になって、社会に出て、会社の人に自身の訛りを指摘されたこともあるので。
それから、京本の絵と藤野の絵を比べて感想を述べた男の子の台詞。実際は、悪意の無い素直な感想なのだけれど、藤野の回想では悪意のある言い方になっている。これは、原作でも台詞のちょっとした書き方の違いで表されていて、声がつくことで、藤野のショックがより鮮明になっていた。
個人的にいいなあと思ったシーンは、漫画家デビューした藤野がアシスタントについて担当さんに相談しているところ。本音を小出しにしつつ、ちょっとオブラートに包みながら折衝しているところが社会人的に「わかる……」となった。
原作では、あのシーンは特に台詞が無いのだけれど、京本と道を分かち、プロ漫画家として働く藤野の苦労というか、藤野は藤野で頑張っている様子が出ていて好きだなあと思った。
あと、藤野と京本の家族。いい家族だよなあと思う。ストーリー内でフォーカスされる訳ではないし、京本の家族に至っては出て来ないし。でも、藤野の家に京本が入り浸っていても許しているし(藤野家と京本家で話し合いがあったんじゃないか)お母さんと通帳つくって来たとか、なんだかんだで二人のことを見守っているよなあと。
好きなものは好きと、真っ直ぐ伝えられる京本がすごいなあとも感じる。
小学校の卒業式の日。卒業証書を届けに来た藤野に気づいて、緊張しながらもサインをもらう姿。好きな作品を熱っぽく語るところ。
自分は結構斜に構えてしまうところがあるので、そういう姿勢は本当に見習いたいと思う。推しは推せる時に推せ。
映画を観てから原作を読み直して、このシーンをこういう風に表現するんだあと再度楽しめたし、また映画を観たくなった。上映館と上映回数増えないかな……。
ハッピーなだけのお話ではないし、嗚咽をもらすのをこらえるのが大変な映画だったけれど、観て良かったと思える映画だった。