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病室からの夜景

病室は最上階、窓際のベッドにいたので眺めはよかった。そうは言っても街のネオンが見えるだけなんだけど。


朝は体重測定、検温から始まって、血糖値測定、インスリン注射、食事、ウォーキング、洗面。

昼は検温、血糖値測定、インスリン注射、昼食、ウォーキング、風呂、売店買い出し。栄養学や糖尿病についての講義を受けたりも。

夕方も検温、血糖値測定、インスリン注射、夕食、ウォーキング、洗面。

夜9時に血糖値測定、そして就寝。

同じことを繰り返すだけの毎日。窓は厚くて防音で外の音はほとんど聞こえない。雨が降っているのも、窓が濡れているのを見つけて初めて知る。今日が何月何日かよくわからなくなってくる。次の日が来たのは看護師さんが交代したことで認識する。

そして、とにかく夜は長かった。

9時に就寝は早すぎてまだ眠くならないし、眠くなる頃にはお腹が空いてくる。それでも一眠りして起きると夜中の2時から3時、もう空腹でなかなか眠れない。

そんな時ぼんやりと夜景を見ていた。

外から見たら病室は消灯しているから真っ暗だろう。でも外の世界は何時でも灯りが付いている。誰かが働いている。食べている。笑ったり、テレビを見たり、ケンカしたりと生活している。

窓の灯りの数だけ人が生きている。

わたしは空腹を抱えて、ただ朝が来るのをひたすら待っている。いずれあっち側に帰っていくんだろうけど、いつなのかわからない。戻ったらどんな生活が待っているのか、まだ見当もつかない。この病気は今後どうなっていくんだろう。

ベッドに横たわってぼんやりと考えていると、静かな闇に飲まれてしまいそうで、起き上がって夜景を見た。

病院という静かで安全な世間から隔絶された場所で、騒音をカットされた絵はがきみたいな夜景は、わたしに現実の美しいところだけを懐かしく思い出させた。





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