ぼくの火迅風魔刀+99

前回の投稿からだいぶ期間を空けてしまった。

以上の書き出しで文章を作り始め、途中でうまくまとまらないことを理由に削除するという無駄な作業をこの期間に何度も繰り返した。

期間を空けてしまったことで自分の中で勝手にハードルを上げてしまい、心理的に追い込まれてしまった。文章にできるような出来事もたくさんあったし、文章を作る時間もたくさんあった。ただ、たくさんあったことが災いして「題材も時間も十分あるのに、自分にはこんな駄文しか書けないのか」と落胆してパソコンを閉じてしまっていた。なにやってるんだろう。病気かしら?

そんなことはさておき、人生の話をしたい。

夏季休暇中、あまりにすることがなかったのでゲームを買った。風来のシレンという、ダンジョンゲームだ。ドラクエとかだと主人公のレベルは戦いをこなすごとに強くなっていくが、このゲームは違う。一つのダンジョンをクリアして最初の村に帰還するごとにレベルがリセットされる。つまり、どんなに難しいダンジョンもレベル1でから挑み、ダンジョンの中で成長していかなければいけない。

そのかわり、ダンジョンの中で手に入れたアイテムは持ち帰ることができる。そして最初の村に保管しておくことも、武器を強化していくこともできる。ただし、ダンジョンのなかでモンスターにやられてしまうとその時に持っていたアイテムは全て失ってしまう。

つまり、何度もダンジョンに挑戦し武器を強化したりアイテムを集めたりすることで主人公のスペックを上げていき、どんどん難しいダンジョンに進んでいくことでゲームを進めることができるのだ。

素晴らしいシステムだと思う。主人公になんの才能も特別な力もない。ただ地道な努力によって優秀なアイテムを回収したり、地道に武器を強化したりすることで強くなっていく。

日本人男性の平均身長は170cm、平均体重は62kgらしい。自分の身長は170cm(検査員の腕がいいとき)、体重は62kg(朝ごはん食べる前) だ。ほぼ平均通り。顔面も、自慢じゃないけど、まるで普通。「なんでこんな顔に産んだんだ」って親を恨んだこともないし、「この顔に産んでくれてありがとう」と特別感謝を覚えるわけでもない。要するに、日本人のサンプルとして選出されてもおかしくないような極めて平凡な人間が自分だ。

そんな自分なので、このゲームの主人公には愛着が湧く。平凡ながら地道な努力で強くなっていき、そして難しいダンジョンをクリアする。その様は平凡な自分に勇気を与えてくれる。同じようなことの繰り返しの中で少しずつ武器を磨いていき、そしてささやかながら成功をする。一気に成長することはできないし、一気に大きな成功を得ることはできない。少しづつ、一歩ずつ前に進むしかないのだ。

ロトの血のような特別な才能も持ち合わせていないし、ビアンカのような幼馴染もいない。フローラのような娘を持つ富豪に気に入られることもない。そんな自分はシレンのように生きていくしかない。

3日ほどやりこんだある日、些細な操作ミスをした。アイテムリストにある手塩にかけて強化してきた装備品に対し「装備」というコマンドを実行しようとして「投げる」というコマンドを押してしまった。装備品は谷底に消えていった。前述した通り、基本的には同じことの繰り返しなので漫然と操作していてのことだった。はじめは何がおこったか理解できずに何度もアイテムリストを見直したが、装備は消えていた。

3日間の努力の結晶があっさりと消失してしまったショックでゲームを閉じ、しばらく眠った。起きたら夕方で、母親と犬の散歩に出かけながら考えた。現実でも、些細な慢心でそれまでの努力を水泡と帰してしまう。居眠り運転で重大な事故を起こしたり、火の不始末で火事を起こしたり。得るは難し失うは易し。ゲーム代と3日間という代償を支払い、人生の過酷さを感じることができた。26歳、夏。


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