アナンという木
タイトルは忘れてしまったが、幼い頃好きな絵本にきこりが出てくる話があった。
このキコリは家を建てるために適当な木を探しに森に行くのだが気に入った木を切り倒そうとするとりすや鳥、熊などが出てきて自分たちの家を壊さないでくれと言ってくる。動物たちが出てくるたびにそれぞれの家も一緒に立ててあげると約束するのだが、あまりにも多くの動物たちが一つの木から出てくるのでついにキコリは途方に暮れてしまう。キコリはしばらく悩んだのち自分の寝具などを取りに帰り、最後は木の上に自分の家を建てるという話である。
「アナン株式会社というものは「木」である」と仕事を始めたころからよく教えられた。木というものは手入れをすれば果実をつけてくれる。その果実を少しずついただくのである。木の手入れの手法は様々である。経験を重ねていくことによって培われていく手法、コツコツと地道に毎日こなしていく手法、新しい栄養を与えるという手法。とさまざまある。
私はこの話を聞くたびに幼い頃に読んだ森のキコリの絵が思い浮かぶのである。
アナンという木は樹齢は約70年である。ゴツゴツとした幹から四方八方に枝が伸びている。何本かの枝は折れてしまってる。毎年できる果実もその年によってはたくさん採れたり、あまり採れなかったり。台風がきたあとなんかは木が違う方向に傾いたりしている。雪がたくさん降った後の果実はとても甘かったりするものである。さまざまな人たちが「アナンの木」には住んでいるのである。ずっといるもの。たまにくるもの。鳥のようにさっときて果実を遠くに運んで新しい芽を広げてくれるものもいる。いろいろな人が「アナンの木」の果実を食べて暮らしている。そして来年もその次の年もまたずっと先の年も果実ができるであろうとみんな思っている。そしてそうなって欲しいと思っているので、コツコツと「アナンの木」を育てるのである。
木というものは拠り所でもある。最近では鎌倉のアナン邸がそんな感じになってきているような気もする。築100年とも言われているアナン邸。そもそもは住居として使っていたが地域で開催されている「アートフェスティバル」に参加したり、定期的に音楽会などを開いていたらいろいろな人が来てくれるようになっていった。いつしかアナンのスパイスミックスなども玄関先で売るようになった。
木というものは自然の中にあり、その時、その間をしなやかに生きているのである。誰のものでもないけれど、誰のものでもあるような。
その木に暮らしたり、雨宿りしたり、羽を休めたり、
自然の中でしなやかに育っていく。根を張りたくさんの人の拠り所になれるように。
アナンという木がそのような存在になっていければ良いなぁと思う。
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