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赤の時代

 柘榴(ザクロ)。真っ赤な果実が食卓を彩ると鮮やかなプレートが出来上がる。トルコ、イランもしくは北インドのヒマラヤ近辺が原産地とも言われている。ティグリス川の東方にザクロス山脈と呼ばれている山々があり日本語の「ザクロ」はそこから伝わったものなのではないかとも言われている。ペルシャから伝わった料理が多い北インドでは頻繁にザクロが登場する。乾燥させたザクロのパウダーを肉料理などに使うと風味が増して美味しい。

 日本には平安時代に伝わったとされているが、一昔前はそこいら中の民家の庭に植わっていたような気がするが最近ではあまり見かけない。ザクロの先端を切り落とし、十字のように切れ込みを入れ実のない部分を手でちぎるように割るとぱかっとザクロが割れ実を簡単にほぐすことができる。栄養価も高く抗酸化、抗糖化活性、糖尿病、心血管、高血圧の予防や抗菌効果、更年期障害の改善、美肌や記憶力の向上などが有名である。

 イベリア半島はスペインの南部に位置するアルハンブラ宮殿で有名なグラナダでは至る所にザクロを見かけることができる。町の至る所にザクロを模したポールがあったり、車止めや石畳、街頭にもザクロが描かれている。イベリア半島は8世紀ごろまでキリスト教徒が多く住んでいたが、アフリカから来たイスラム教徒によって領土が奪われてしまう。その象徴とも言われている存在がアルハンブラ宮殿である。そして11世頃から「レコンキスタ(国土回復運動)」の名の下にキリスト教徒とイスラム教徒の戦いが始まる。徐々に領土を増やしていったキリスト教徒が最後に奪還した土地がグラナダであった。なかなか陥落しなかったグラナダを硬い皮があるザクロに例えたのがグランダにザクロがたくさん描かれている一つの由来でもある。グラナダを奪還した当時のカスティーリャ王国のイサベル女王は1492年コロンブスに新たな航海を命ずる。彼が目指したのはインドであったが発見したのは新大陸アメリカであった。そしてヨーロッパ諸国が船を世界中に出していく大航海時代が始まる。グラナダの中心にはイサベル・ラ・カトリカ広場があり、大航海時代の幕開けの決断をたたえた女王とコロンブスの像が建てられている。

 キリスト教徒が硬く閉ざされたザクロのようなアルハンブラ宮殿を十字でわり、中から真っ赤な果実が出てくる様はこの後に続く血で血を争う「赤の時代」の象徴とも呼べるような気がする。
 夕陽に染まるアルハンブラ宮殿は淡い紫色をしている。

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