見出し画像

今の新日本プロレスはどちらを向いているか。

新日本プロレスの社長が棚橋弘至になってからしばらく経った。
アントニオ猪木、藤波辰爾に続く現役レスラー社長である。

現在新日本プロレスは『BEST OF THE SUPER Jr.31』(以下『BOSJ』)の真っ最中で、連日連夜ジュニア戦士たちが熱い激闘を繰り広げている。
が。
そのBOSJ以外が面白くない。
BOSJ以外にノれない。
原因は明らか。
BULLET CLUB、いやさHOUSE OF TORTURE(以下『H.O.T』)の重用にある。
毎シリーズを通して約8~9割はH.O.Tがやりたい放題やれている印象だ。
もはや彼らこそが今の新日本プロレスの顔だと言ってしまっても過言ではないのかもしれない。

「面白くない」を言い換えよう。
飽きた。
H.O.Tに飽きた。

実際面白くないことはない。
プロレスマニア的視点で見れば。
リング外からの介入の仕方、レフェリーの巻き込み方、各種凶器の使い方、などなど工夫はある。
「今度はそんな手で来たか!」と感心させられることも少なくはない。
だがそんなのはあくまでプヲタの見方だ。
他に喜ぶのはH.O.Tファンぐらいのものだろう。
過程はともかく結果は欠伸が出るほどのワンパターン。

初めて会場に足を運んだ人たちが彼らの蛮行を見てどう思うだろうか。
もちろん「面白い!」「いっそ痛快だ」「スカッとする」などと感じる人たちだっているに違いない。
プロレスにおいてヒール(悪役)レスラーはまさしく必要悪なのだから。
ヒールがいてこそベビーフェース(善玉)が輝く。
勧善懲悪の図式はいつの時代でも鉄板である。
現代プロレスにおいてはそこまで単純な図式ではなくなってはいるがそれでも。
ただ、あまりにもその傾向が偏重だと主張したい。
BULLET CLUBにあそこまでの人数が必要とはとても思えない。
現地プロレス体験は一期一会。
例えば現地観戦した少年が「将来プロレスラーになりたい!」と思える試合がいくつあるだろうか。
八百長問題について半信半疑なままの人間が観てそれを否定するに足るか。

私が愚考するに、棚橋のディープなレスラー社長としての目線が裏目に出てしまっているのではないか。
レスラーから見ればH.O.Tのファイトスタイルは腹が立つにしても、「悔しいけどあれは上手いなあ」と唸らされるような悪のテクニックで溢れているに違いない。
なにしろあのユニットには『レスリングマスター』ディック東郷と『ヒールマスター』金丸義信の2人が揃っているのだ。
プロが金を払ってでも「プロレスとはなんぞや」を教わりたくなるほどの素晴らしい職場環境だ。
もっと観たくなる心境も分からないでもない。
しかしそれはどこまで行ってもレスラー目線でしかない。
経営的に良手であるのと決してイコールではない。
プロレスラーとて人間。
飯を食えなくなれば死んでしまう。
団体も同じ。
収入がなくなれば存続は不可能だ。

事実、現状気を吐く所属レスラーの奮闘虚しく「ガラガラ」の報が目立つ。
どこへ行っても埋まらない。
AEWのトップレスラーをズラリと並べても惨憺たる有り様だった。
これでは世界最大の団体になることはおろか、東京ドーム札止め満員だって叶わぬ夢だろう。
なにも新日本プロレスだけが振るわないのではない。
日本プロレスリング連盟発足後、鳴り物入りで開催された『ALL TOGETHER ~日本プロレスリング連盟発足記念・能登半島復興支援チャリティ大会~』も全日本プロレスが今回不参加だったことを差し引いても目を覆わんばかりの集客に終わった。
なにがオールスターか。
公然と選手たちが「こんなのならやる意味がなかった」「もうやらない方がいい」とまで言い放つ始末。
プロレス業界自体が衰退してしまっていることを否定する余地がない。

大事なのは将来であり未来。
新日本プロレスの未来。
プロレス界の未来。
プロレスファンの将来。
そこれからプロレスファンになってくれるかもしれない人たちの未来。
プロレスラーになってくれるかもしれない少年少女たちの未来。
(日本の)業界最大手である新日本プロレスは今のこのままの方針で本当にいいのか。

ヒールレスラーに転向することにはメリットもある。
前述したディック東郷や金丸義信を観ていればよく分かるのだが、インサイドワークを磨く他にも会場全体を視野に入れて広く使うことができるようになる。
観客やテレビカメラに対する煽り方を憶えることでアピールやインタビュー対応などの技術も身に付く。
されど諸刃の剣。
若い内から楽して勝つことを憶えてしまう。
シングル戦なのに仲間たちが乱入してピンチを救ってくれてラストはレフェリーの死角を突いて急所攻撃か凶器攻撃から丸め込んでハイ終了。
楽をして勝てるのでストイックに鍛えることも段々しなくなる。
EVILのあの太ももなどは未だにしっかり鍛えていることが一目瞭然だが、あまりにもTシャツを着たまま試合をする選手が増え過ぎた
そこはBULLET CLUBのみならずロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン辺りにも言えることだが。

DRAGON GATEやDDTのようにユニットがどんどん新陳代謝してヒールターンやベビーターンがコロコロ行なわれるのであればその経験を活かしてその先につながることも早いが、新日本プロレスはそうではない。
成田蓮などは本当にもったいなく、身の振り方が心底かっこ悪かった。
H.O.Tに虐められて大先輩たちにストロングスタイルに迎え入れてもらったものの結局自分を虐めた連中の中のひとりに収まるとは。
ああ情けない。
時々思い出したように「昔取った杵柄」テクニックが観られることで錆び付いていないことが分かったとしても、そんな滅多に観られないものを期待して普段から観続けるほどの熱を持った層がどれだけいるか。
それこそマニア以外に。

木谷オーナー曰く棚橋社長体制になってオフィスの空気が非常に良くなったという。
いいことだ。
……本当に?
逆に上に意見しにくい空気になってはいないだろうか。
ただでさえトップが現役プロレスラーであるというのに。
「和」を重んじ過ぎてはいないか。
新日本プロレスオフィス内はギラついているか。
運営側もハングリーか。

バランスが非常に難しいのは想像に難くない。
試合内容の充実、各種PR活動、今のファンを大事にすることと新規ファンの獲得。
それらが全て揃っていないとV字回復などありえない。
内と外
そのバランス感覚が「新日本プロレス復活の立役者」とそのブレーンたちにどれほど備わっているのか。
難しくても避けては通れない。
救世主は二度団体を救えるか。
大ナタ(スリングブレイド)を振るって経営黒字をハイフライさせることはできるのか。
今がそのエプロンサイド(崖っぷち)ギリギリに私には思えるのだがさて。
経営にカウント2.999はない。

それでも期待してしまう。
棚橋弘至にならそれができるのではないか、と。
レスラー視点を備えつつ経営のイロハを学び、プロレス少年時代から培ったファン目線も失わない。
「プロレスラー」「会社」「ファン」を1つに繋げられる存在。
それこそ「100年に1人の逸材」棚橋弘至しかいないのではないか、と。
期待したい。
プロレス界の太陽のブロー(手腕)に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?