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激情劇場『G1CLIMAX34』

『G1CLIMAX34』が8月18日日曜日に終了した。
そこで、いくつか目に付いた印象深い大きなトピックをピックアップしながら総括などをしてみたい。

その前にまず結果に触れておかなければなるまい。
優勝はザック・セイバーJr.が2016年のケニー・オメガ以来となる史上2人目の外国人優勝、そしてイギリス人として初制覇を成し遂げた。
私は以前『G1出場者決定トーナメント参加者は「2軍」なのか。』という記事において「Aブロック代表のザック・セイバーJr.VS.Bブロック代表の辻陽太の決勝戦が観たいです!」と希望を述べたが、なんとそれが叶った形だ。
あとはザックがIWGPヘビー級チャンピオンとなってくれれば最高にして完璧なのだが、いざとなった時の内藤哲也のしぶとさを見事攻略できるか。

ザックは優勝コメントと同時に師匠であるプロレスリング・ノアの小川良成への感謝の気持ちを語った。
決勝戦でも小川良成がGHCヘビー級王座を戴冠した時のフィニッシュホールドである4の字ジャックナイフ固めを繰り出している。
残念ながらそれで決まりはしなかったが、大一番で再び繰り出したことで想いは強く伝わってきた。
勢いが付き過ぎて不完全な形となり、ザックをして「難しい」と吐露する難技。
あの技で決めるにはザックは身体が大きくなり過ぎてしまったのかもしれない。
そういった意味でもあの技は小川良成が自身の体格までをも考慮した上で編み出したような気がしてきた。

私の決勝戦の注目ポイントとしては、辻のジャベがザックにどこまで通用するかだったのだが、AEWなどにおいてもメキシカンとの対戦もあるザック、その上をすんなり行っての進化系クラーキー・キャットでギブアップを奪い「世界一のテクニカルレスラー」の面目躍如。
準決勝戦での鷹木信悟戦でも膝十字固めでタップアウト勝利したが、あの勝ち方はいいところまで持ち込みながらも鷹木信悟に5連敗したばかりのグレート-O-カーンにまるで「鷹木信悟にはこうやって勝つんだぜ?」と見せ付けるかのようだった。
決勝戦ではなんとも珍しいラリアットで辻を吹っ飛ばす場面もあり、今回に賭ける尋常ではない意気込みが随所から迸っていた。
そんなザックに代表するように、このG1にはこれまで以上に実に様々な感情が入り混じっていたように感じた。

それでは5つのトピックをピックアップしていこう。

1.<グレート-O-カーンの覚醒>


まずどうしても真っ先に語りたいのがグレート-O-カーンの覚醒だ。
やっと。
ついに。
ようやく。
待望の!
彼は自分のスタイルを確立したのだ。
そしてそのスタイルのヒントは、G1開幕前のザックのインタビューにあった。

そこでザックはオーカーンについて「オーカーンがもう一つブレイクできない理由は、彼があまりにも万能であるということだと思うんだ」と語っている。
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と同時に「格闘技をバックボーンに持ちつつ、プロレスのさまざまな側面を受け入れることができている」と評価している。

オーカーンが選択したのはこの「バックボーン」の部分だった。
これまではバックボーンの上に「支配者(ドミネーター)」としてのキャラクターを乗せて「グレート-O-カーン」というレスラーを築こうとしていた。
だがどうにもあと少しで上手く行かずグラついてしまっていた。
が、バックボーンを土台にするのではなく、それと融合することでキャラクター先行ではない、「強いグレート-O-カーン」が誕生した。

これまで通り奇声を発してのモンゴリアンチョップも使うが、相手が反撃できないタイミングで放つので的確にヒットする。
王統流二段蹴り王統流正拳突きも最小のモーションで放ち、当てた後の余計の見えも切らない。
大空スバル式羊殺しも魅せ技ではない確実に相手のスタミナを奪う拷問技へと昇華した。
それらの彼の代表的なオリジナリティあふれる技がアクセントとなるのは、かつてオカダ戦でも見せた無類のグラウンドテクニックだ。
格闘技色が濃いファイトスタイルになり、コスチュームもスパッツタイプにもなってオールド新日ファンとしては4連敗中は佐々木健介が迷走していた頃の姿がフラッシュバックして頭を抱えたものだが、あれよあれよと巻き返し準決勝進出。
鷹木信悟に対する苦手意識を思い出して敗れたと言うよりは、鷹木信悟に4連勝していることを思い出させてしまったがゆえの敗戦に見えたので、次こそは殻を突き破れるのではないか。

2.<G1出場者決定トーナメント勝者の飛躍>


G1本戦前に今年から行なわれたトーナメントの勝ち上がり2名、ボルチン・オレッグカラム・ニューマンがそれだ。
ボルチンはトーナメントで矢野通棚橋弘至という6人タッグ王座でのチームメイトを倒しての進出で、カミカゼ一本でどこまでやれるかという不安視もなんのその、ファンタズモ成田蓮TAKESHITAを撃破した。
各試合でボルチンシェイクを披露する余裕も見せたが、今後勝ちにこだわるのであればシングルマッチでは早々に封印した方がいいかもしれない。
カザフスタン出身者唯一のプロレスラーとしての気概は十分以上に伝わってきた。

ニューマンは相変わらず「オスプレイのコピー」評に悩まされ続けてはいるが、本人の実力がどんどん付いてきているので独り立ちできないというマイナスイメージを払拭する日は海野翔太などよりよっぽど早いと思われる。
得点こそ2勝の4点止まりに終わったが、鷹木信悟から奪った勝利は実に見事で、あれで鷹木の本G1における歯車が狂ってしまった感もある。
彼が「UNITED EMPIREのひとり」ではないカラム・ニューマン個人として上へ上へ行こうともがく姿は胸にグッと来るものがあった。

大手団体としては強豪外国人レスラーの充実は必須条件であり、彼らの台頭は大いに歓迎すべきムードだ。

3.<外敵の肩透かし感>


『G1CLIMAX34』には2人の大物外敵レスラーが参戦し、大きな話題となっていた。
Aブロックのジェイク・リー、BブロックのKONOSUKE TAKESHITAである。
ジェイクはBULLET CLUB WAR DOGS入りしているのでもはや外敵感は薄くなってしまってはいるが。
今や使い手が絶滅寸前のネックハンギングツリーを使うなどアジア人レスラー離れしたスケールの大きさを観せてはくれるものの、内藤哲也の敗戦からシングルプレイヤーとしてパッとせず、早くもそちらの路線では賞味期限切れ感が漂う。
幸いゲイブ・キッドと意気投合してタッグ戦線での今後の活躍が見込めそうなので、アレックス・コグリンの代用枠として機能してくれればありがたい。

TAKESHITAは「さすがAEWのトップ戦線で存在感を示しているだけはある」、と思わせるだけのインパクトを残したが、怪我がなんとももったいなかった。
その原因を作ったのは例の如くHOUSE OF TORTUREであり、相変わらず良くも悪くも新日本プロレスの話題の中心となっている。
あの怪我さえなければ準決勝で辻に勝利していた可能性は五分五分だったかもしれず、次回参戦が今から楽しみではあるが竜頭蛇尾感が惜しかった。

両選手とも前評判は高かったがかつての丸藤正道秋山準のような危機感を覚えるほどの印象は残せなかったように思う。

4.<揺らぐBULLET CLUB>


良かれ悪しかれ安定感のあったBULLET CLUBだが、本G1ではこれまでになく精彩を欠く結果となった。
「新日本プロレスの真の社長」ことEVILは万全の滑り出しをするも最終的には優勝決定トーナメントにすら進めず。
バックステージでの話題提供には定評があるが、今回は肝心のリング上が疎かになるという本末転倒ぶり。
これでは結果を残していたからこそ許されていた部分に軒並み説得力が失われることとなり、次シリーズでの巻き返しが必須。

そしてBULLET CLUB全体のリーダーであるデビッド・フィンレーはなんとか優勝決定トーナメントにコマを進めるもシードになっておいて辻にあっさりと敗退。
果てはG1本戦にすら出場できていないYOSHI-HASHIにタッグ戦といえどピンフォールを取られてIWGP GLOBALヘビー級王座挑戦を迫られる始末。
チーム優先の行動を取った挙げ句自分自身のキャリアに傷を付けてしまっては元も子もない。
根強いファンが一定数いるものの、徐々に「新日本プロレス低迷の癌」としての認識が広まりつつBULLET CLUBはさすがにそろそろ正念場か。

「BULLET CLUB憎し」が会場内の空気のみに留まっていればいいのだが、それがあまりにも肥大化してしまっては新日本プロレスというブランドイメージ低下にもつながるのが頭の痛い所だ。

5.<エル・ファンタズモ界隈の茶番>


ある意味この記事において最も触れておきたかった件。
一体何だというのか。
腹に据えかねるのを通り越して呆れ返ってしまった。

ファンタズモはこのシリーズ、リング上からバックステージ、さらにはSNS上においても連日連夜泣き言ばかり。
最初の内は哀れを誘って共感を得ていた流れも段々と「もうええわ」的空気に。
ファンは強くてかっこいいプロレスラーが観たいのに、精神的な弱さがダダ漏れ。
なんと女々しく情けない。
これなら一切可能性などないのに「俺は諦めないから」botを頑なに貫く本間朋晃の方がよほど魅力的に映る。

それ、どうしても今やることか!?
一番そうツッコミたかった。
ヒクレオ離脱からの傷心からの孤独からの人間不信で大恩ある邪道との間にまで亀裂が……って、もうウンザリ。
大事な大事なG1 CLIMAXで何やってんの!?
ここに全身全霊を注いでるザックに顔向けできる?
自分も新日本プロレス離脱が近いのかどうかは知る由もないが、我々は一体何を観せられ続けていたのだろうか。

物議を醸したG1出場者決定トーナメントも結果的に粒揃いに終わったことでやった意義があったと認められたのに、今回明らかにファンタズモひとりがハズレだった。
私もこれまで好きなレスラーであり、Xアカウントもフォローしているぐらいなのだが、彼にはすっかり興醒め、そして失望させられた。
もうどこへなりとも行ってもらって結構。
こんなことなら本戦で石井智宏タイチを観たかった。

<総括>


こうして、参加したレスラーや関係者のありとあらゆる感情が渦巻いた『G1CLIMAX34』は幕を閉じた。
私の感情も毎日のようにぐわんぐわんシェイクされた。
オーカーンの覚醒に鳥肌が立ち、ボルチンとニューマンの成長に目を細め、BULLET CLUBにはヤレヤレ、そしてファンタズモには心底ガッカリ。
色んな意味で印象深いG1になりましたね。

でも!
だが!
しかし!
何と言ってもザック、優勝おめでとう!!
辻!来年こそ頂上に登りつめろ!

プロレスは感情の闇鍋。
やっぱ他にはない楽しみだなあ。

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