ハケンアニメ!感想

ハケンアニメ!では王子監督と斎藤監督が対決をするわけですけど、サバクとリデルも対比構造になってるなって思いながら見てました。
赤と青。大きいのと小さいの。何かを失って何かを得るサバク。何も失わないリデルライト。
王子監督がかつてさせてもらえなかったことを、斎藤監督はやることができた。サバクにすべてをぶつけた。やりたいことをやりきった。だからこそ、斎藤監督は足を止めずに歩み続けられる。王子監督みたいに抜け殻になったりしないのかなって思ったり。

作中で王子監督が何度も「ヒロインを殺したい」「殺しちゃ駄目?」と有科さんに訴えていたのは、お涙頂戴物の威力の強さをわかっていたからだと思います。死という要素を使って視聴者の感情を揺さぶる物語はそれだけで強い。
王道のハッピーエンドを描きつつ、いつまでも語られるようなすごいアニメを作るのは難しい。だからこそ王子監督はプレッシャーに負けそうになっていた。
でも有科さんは、有科さんだけは「ヒロインが死ぬにしても王子なら絶対に面白いものを作る」「誰もが納得する出来のアニメを作れる」「局と戦うだけの武器をくれる」と言った。王子監督に振り回されるのを良しとした。あ、これも対比構造だ。あとで語ります。
とにかく、絶対にこの人は自分を見捨てないって王子監督はあそこで確信した。だからこそ、最高のハッピーエンドを見せつけてやろうって初めて思えたんじゃないかなあ。
成長したんですよ。彼の内包する自我というか、世界というか、そういうものが。きっとね。
ファフナーのビヨンドは無印の時代からは考えられないほどの大団円で終わった。プロメアもグレンラガンやキルラキルからは考えられないほどの大団円で終わった。誰もいなくならなかった。
エヴァのシンジ君はアスカではなく、マリを選んだ。作り手が成長すると、とがった表現がまるくなっていく。ありきたりの普通の話を最高に面白く仕上げて届けてくれるようになる。
そういうことなんだなあと思いながら見ていました。

それで王子監督に対する有科さんと斎藤監督に対する行城さんも対比構造になってる。王子監督に振り回されて、王子監督の所業を許容して寄り添う有科さん。行城さんに振り回されても、行城さんを全面的に信頼している斎藤監督。ここもね、対極ですね。面白い。

もう斎藤監督からの太陽くんへの言葉「この世は繊細さの足りないところだよ。でも、自分をわかってくれる人に出会える。わかってくれているようなものに出会える気がする」で涙腺が崩壊した。
嘘です。わりと冒頭の斎藤監督の過去回想から辛かった。
斎藤監督が一度は公務員になったのって、安定した収入を得られる仕事に就きたかったからなの明らかじゃないですか。自分が子供時代に苦労したから、絶対にそうなりたくなかったって思いがとても感じられる。
だからお洒落も恋愛もエンタメを楽しむことも何もかもを捨てて勉学に打ち込んでいたのだろうと思う。でも王子監督の「光のヨスガ」を見て、もっと内面を充実させるために時間を使えば良かったって思ったんでしょうね。だから転職した。安定志向を捨ててでも、やり遂げたいものを見つけた。
すごく強い人だなあと思います。

「光のヨスガ」に込めた思いが斎藤監督に届いていたとわかったときの、王子監督のあの嬉しそうな顏めちゃくちゃ良かったなあ……。本当に嬉しかったし、自信につながったんだろうなあ……。だから葵ちゃんとの付き合い方についてアドバイスしてあげたんだろうなあ……。王子監督結構いい男ではないかと思うのですけど、どうでしょうか有科さん。

ハケンアニメ!は良質な物作り映画であると同時に男女バディ物でもある。胸熱。そして辻村深月文脈がすごい。やっぱりすごい。機能不全家族で育った子供の話をぶち込んでくる。いつもそう。ドラえもんの月面探査記もそうでしたもんね!!! 親と死に別れた子供たちが自分たちだけで生きていく話なんだよ……。辻村深月の小説はいつもそう……。

行城さんが最後に何かの映画のオマージュでジャンプしたのよかった。なんだっけ。雨に唄えばじゃないし、チャップリンでもないし、わからない……。もやもやします。

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