レジェンド&バタフライ 感想

あんなにも秀逸な両片思いすれ違いマリッジロマンスを拝めると誰が予想していただろうか? いや、ない。

いきなり終盤のネタバレをしますが、信長が「ずっと好いておった」と告白するの、そうだよね……あなたは最初からあからさまに濃姫に惚れて挙動不審になっていたよね……と涙腺が崩壊しました。

初めて顏を合わせたときからずっと濃姫をガン見していたのは一目惚れ以外にあるまいて……。好きな女をどうやって褥に誘っていいかわからず、マッサージを命じる若き信長の不器用さが愛しくてたまりませんでした。

それに恰好つけたくてあれこれ衣装替えをするのもとても可愛かった……。

以下印象深かった箇所を列挙していきます。

・お酒の描写
 うつけ者と呼ばれていた若き信長は酒が飲めず、すぐに噴き出してしまう。ところが魔王と化したあとはフラスコからワインを飲み、髑髏盃から酒を飲む。信長が変節したことを酒によって暗喩しつつ、濃姫が介抱するシーンは上手いなあと思いました。
人が変わってしまったと思われた信長だが、酒に弱いのは相変わらずで、昔の面影を残している……。だからこそ濃姫も踏ん切りがつかず、なかなか離縁を言い出せなかったのでしょうね。
 そして「お前が国を取れと言ったんだろうが!」と信長が濃姫を糾弾するところで、濃姫の顏がアップになり、影と光で二分される絵面がめちゃくちゃ良かったですね……。

・雉狩りのシーン。
弓矢を上手く扱えず雉を狩るのにも四苦八苦していた信長が、本能寺では見事な腕前を披露し、後方支援をして味方の命を救う構図が上手いな~~~!!!! と脱帽しました。上手いな~~~!!!! 濃姫と過ごした時間が信長に影響を与えたのだと如実にわかるシーンですよね。

・我人に在らず! 第六天の魔王なり!
 と信長が宣言したときに赤い光が当たっているのは、地獄の炎を意味しているのかなあと思います。

・川原に転がる大量の死体
 を見下ろしながら信長の軍勢が川を渡っていくシーン。死者の耳に止まっていた蝶がふわりと舞い上がり、信長の肩に乗り移る。
蝶は死者の魂の姿とも言われているので、信長が奪った命の重みが彼の肩には重く圧し掛かっているのだと教えてくれる。素晴らしい演出ですね。

・赤ん坊の死と悪夢
 信長は罪なき人々の命を山ほど奪ってしまったわけで、そんな自分がさ、愛する人との赤ん坊を失ったからといって悲しめるわけがないじゃないか……。そんな資格は自分にはない。でも本当は悲しくてたまらない。だから心を殺すしかない。その心の機微に濃姫は気付かない。それがめちゃくちゃ辛かったですね……いやもうお互い素直になれよ早くと思ってました。

・なんのためじゃ!事件
 濃姫が願ったから国盗り合戦を開始したのに、修羅の道を突き進む信長の姿を見ているのが苦しくて離れていくってお前最低な女だなおい!!! 自分の言動が招いた事態だろ!!! 責任取れよ!!! 信長泣いてるだろうが!!! お前のために戦を始めたのにお前がいなかったらただただ苦しいだけじゃろがい!!! と暴れ散らかしてしまいました。いやー……元鞘に収まってよかったよかった。

・安土城
 濃姫が海を見て嬉しそうにしていたから、天守閣から海を見下ろせるようにしたのに「わっぱ」呼ばわりされる信長に笑ってしまいました。でも濃姫のツンデレ語を正しく理解できるようになった信長はそのわっぱ呼びに愛情がこもっていることをしっかり理解して、ふっと微笑み合うわけですよ。マージーでたまらん!!! ありがとう! 両片思いすれ違いマリッジロマンスからの恋愛成就ありがとう!!! と胸中で叫ばずにはいられなかった。

・愚かな夢物語
 をキーワードにしながら夢オチ展開持ってくるのやめろよ!!!!!!! ララランドみたいなことしやがって!!!!!! あんまりにも幸せすぎるからどうせ夢オチなんだろ!?!? と最後まで油断せずに見ていたらやっぱり夢オチでめちゃくちゃ泣いたけどめちゃくちゃよかった……本当によかった……。燃え盛る業火の音と共にエンドロールが始まるの最高の演出だった。すっごいよかった。演出が神。
 信長も濃姫も最後まで愚かな夢を見ていたのです、という暗喩が本当にいい~~~~!!! さすが古沢良太脚本ですよ。最高でした。

まとめ
今まで私はキムタクが演じた役ってみんなキムタクで、物語の中の登場人物として認識できたことがなかったんですよ。でも「レジェンド&バタフライ」は違いました。物語の中で息づく織田信長がそこにいた。
うつけ者から魔王へと変節していく表情の変わり具合が恐ろしかった。初めてキムタクの演技ウマ……っ! と度肝を抜かれました。
こんなに表情の変化に見惚れたのは、ホビット2でビルボが闇の森で力の指輪を落とし、蜘蛛を切り捨てたあと「僕の指輪だ……」と呟いたあとに恐れおののくシーン以来かもしれない。それくらい迫力が凄まじかった……。
あと綾瀬はるかもそう。
綾瀬はるかが精霊の守り人のバルサを演じるってなったときは、「はー!?!?なんで綾瀬はるかがバルサ!?!?イメージ違いすぎるでしょ!!!もっと別の人いるでしょ!?!?」と暴れていたけれども。
短槍使いのバルサを演じ、アクション映画に出演し、着々とキャリアを重ねてきた綾瀬はるかが今回の美しく勇ましい濃姫を演じたのは大正解だと思いました。
精霊の守り人のドラマ見てみるかあ……って気持ちにさせられたのめちゃくちゃすごいと思います。

2023月2月1日追記
冒頭で信長が普通の帯はつまらんって言って、赤い縄で腰を締めるけれど、あれって赤縄繋足を意味するものだと見てから一日経って気付きました。
語源は中国故事でしたよね。
いや~~~~マジで演出が上手いんだよな………。ハイコンテクストが好きな変態考察班たちに見に行ってほしい映画だよ本当に。TGMとかワートリとかファフナーとか好きな人向けだよあれ。



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