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「経営者保証に関するガイドライン」2014年2月の運用開始から1年経過して

「経営者保証に関するガイドライン」(以下、経営者保証GL)が2014年2月より運用開始され1年が経過しました。経営者保証GLの中核課題は、①経営者保証に依存しない融資 ②保証債務の整理に係る基準とその運用 でした。これにより、地域金融機関によるバンキング機能が発揮され、事業再生や事業承継、新規事業の創設などの進展が期待されました。

経営者保証GLは、わが国の中小企業向け金融行政の方針転換ともいえるものです。1年が経過し、運用の実態や、この間の金融機関や経営者の取り組み姿勢などを検証してみます。

1.「経営者保証に関するガイドライン」とは

以下は、ある信用金庫のホームページに掲載された、経営者保証GLに対してのコメントの抜粋です。

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「経営者保証に関するガイドライン」について

当金庫は従前より、ご融資の際にご提供いただく個人保証については、ご契約時に、保証に関するご意思を慎重に確認させていただく対応に努めてまいりました。

この度、「経営者保証に関するガイドライン」が策定されましたことを踏まえ、平成26年2月1日以降、当金庫と中小企業の経営者の皆さまとの間で、新たに保証契約を締結する場合、既存の保証契約の見直しや保証債務の整理をする場合等にこのガイドラインが適用されることとなります。(2014年01月31日)

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解りやすく要約すると、「2014年2月1日以降に ①新規の借入する場合 ②借入の条件変更する場合 は、このガイドラインを適用する」というものです。概ね他の金融機関も同様の取り組み姿勢を公開しています。このGLは、法律ではありませんが経済産業省や財務省の支援の下に進められ、全国銀行協会はじめ全国信用金庫協会、全国信用組合中央協会、JAバンク、日本貸金業協会、全国サービサー協会などの金融機関団体の同意を以て策定され運用されています。中小企業の金融機関からの借金やその弁済に関して指針が出され、その指針に金融機関が原則として遵守するという「経営者保証GL」構想の進展状況を調べます。

2.聞き取り調査では「まばらな対応」

(1)当行は従来からガイドラインに則している

これは、事業再生実務家協会の2014年1月のシンポジウムにおいての大手地銀の役員の発言です。「経営者保証ガイドラインの課題と展望」と出したパネルディスカッションにおいて「当行は地銀として、破たん企業の経営者に一定の資産を残すなど、状況に応じて経営者保証GL同様の運用をしてきた。これからも変わらない」と発言しています。

(2)個人補償に依らない融資の基準を明確にしているが、利用者は少ない

これは、あるセミナーで日本政策金融公庫の国民生活事業と中小企業事業それぞれの担当者が「金利上乗せ(0.3%程度)があり、利用者は少ない」と発言しています。なおこの際に保証債務の整理(一定の現預金を残せる等)については、「ガイドラインに誠実に対応する」とし言及しませんでした。

(3)金利上乗せなしで経営者保証に依らない融資をしています

個別事例になりますが、筆者が利用する都内の信用金庫の融資窓口担当者に「経営者保証GL」の対応を尋ねたところ、この様な返答がありました。なおこの聞き取りは、2014年11月でした。

(4)経営者保証に依らない融資の事例はほとんど無いでしょう

メガバンクの融資担当を経て現在、融資や財務の経営コンサルを行う知人に訊ねたところ、この様な返答でした。前項のある信金の話しをしても「資金ニーズのある経営者は、個人補償をしてでも少しでも多く融資を受けたいのが常で、経営者保証GLが話題になることも少ない」といいます。

3.「経営者保証に関するガイドライン」の活用に係る参考事例集の公表(金融庁、2014年12月25日)

経営者保証GLが広く運用され、中小企業金融が円滑になることを促進するため、昨年2度にわたって事例を公表しました。以下はその際の金融庁コメントです。(抜粋)

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金融庁では、「経営者・・ガイドライン」を融資慣行として浸透・定着させていくことが重要であると考えており、金融機関等によるガイドラインの積極的な活用に向けた取組みを促しているところです。その一環として、今般、ガイドラインの活用に関して、金融機関等により広く実践されることが望ましい取組みを事例集として取りまとめ、公表することといたしました。

これにより、ガイドラインが融資慣行として浸透・定着していくとともに、中小企業等の経営者の方々にとっても、思い切った事業展開や早期の事業再生等の取組みの参考としていただくこと、さらには、その他の経営支援の担い手の方々が行う経営支援の一助にしていただくことを期待しています。

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当該Webサイトを開くと、41ページの事例集をダウンロードできます。その内容は、①経営者保証に依存しない融資の一層の促進(19事例) ②適切な保証金額の設定(4事例) ③既存の保証契約の適切な見直し(7事例) ④保証債務の整理(5事例) の98事例が掲載されています。これを読むことによって抱えている事案が経営者保証GLにどの程度マッチするのか判断材料になります。

4.中小企業再生支援協議会のガイドラインに基づく保証債務の整理

2014年5月に中小企業庁より「中小企業再生支援協議会等の支援による経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務の整理手順」が公表されました。経営者保証GLのテーマに「保証債務の整理」があります。資金調達時の約束をできなかったり、事業破たんを回避し再生を図ったりする場合に経営者が約束した保証債務を整理する必要があります。経営者保証GLでは、これに関し大まかな方針や基本手順が記されています。これに対し、この支援協に係る保証債務の整理手順は、マニュアルでもありチェックリストでもありまた保証債務整理に係る様式集でもあります。この手順書は、支援協を利用するときは当然のことながら、私的再生に係る金融機関との交渉の際にも一定の基準になるものと思います。

◆執筆者紹介◆杉田利雄(すぎたとしお)

株式会社エム・エム・プラン、株式会社経営財務支援協会 代表取締役

MJS税経システム研究所客員研究員

情報センター長に従事した後、1989年にマネジメントとマーケティングのコンサルティングを手掛ける株式会社エム・エム・プランを創業。2006年には各地の税理士・弁護士と協力し、株式会社経営財務支援協会(BFCA)を創業し、代表取締役に就任。JSK事業再生研究会を補佐する。

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