見出し画像

「エヴァートン 21-22選手名鑑/完全版:前編」シーズン・レビュー 月刊NSNO Vol.12 / エヴァートンFC ブログ

2022年6月 
月刊NSNO Vol.12

「エヴァートン 21-22選手名鑑/完全版:前編」
シーズンレビュー


はじめに

NSNO-Vol.12はイングリッシュ・プレミアリーグ、21-22シーズンのエヴァートンFCシーズン・レビューをお送りする選手名鑑/完全版。前号シーズン総括とは区別し、選手個人にスポットを当てていく。

昨季はポジションごとに分けて3編でお送りしたが、今季はより一人一人を端的にまとめられるよう、Vol.12の前後編で完結させることを目標に臨んだ。

各選手300字以内での紹介、21-22シーズンの所属選手において1分・1秒でも今季プレミアリーグで出場を記録した選手を対象とし、トップスカッドの登録メンバーは出場歴なしでも取り扱う。GK→DF→MF→FWの順に展開する(シーズンローンで移籍したヴィルジニア、エンクンク、モイズ・キーンなどは除外)。

GK

1.ジョーダン・ピックフォード

驚異的な"ピックセーブ"に助けられ、記憶に刻まれたのはスペシャルなゴールばかりではない。彼のシュートストップ無しに残留はあり得なかった。その功績がリーグ選出のシーズン・ベストセーブに現れている。一方で、ピックフォードを据えることによるポゼッション・スタイルの停滞は免れない懸念事項。ロングキックで執拗に1点のエリアを突き続けたマージーサイド・ダービー(A)は狙いと特徴が活きたが、ボール保持時のパフォーマンスをどう反映させるかはランパード・フットボールにおける1つの命題だ。もしボールを持ちたいなら、最終ラインでパスワークに長けたCBは必要不可欠になる。彼をエデルソンやアリソンにするには手遅れだ。


15.アスミル・ベゴビッチ

経験と実力を備えた第2GKに相応しい選手。奇々怪々なニューカッスル戦(H)でも安定したプレーを披露。エヴァートンのスピリットを理解し、メディアへの真摯な発言も好印象。この点においては、ステケレンブルクやオルセンなど近年でも恵まれているポジションだ。ベゴビッチ自身が手がけるゴールキーパー・アクセサリーブランド「AB」を始め、慈善活動、奥様のSNSでの存在感などピッチ外でのパフォーマンスも充実しており、オプション行使後のキャリアもしっかりと計算されている印象。来季W杯開催に伴い、ピックフォードのコンディション維持は不透明だ。再び頼りにする時期は必ずある。

31.アンディ・ロナーガン

ポジティブに捉えてみる。ヴィルジニアをローンに出し、万が一に備えロナーガン自身も第3ゴールキーパーの立ち位置を受け入れる、という点で夏の選択は間違いではなかったはず(と思いたい)。コスト面でそこまで負担にならなかったし、練習参加する若手にとっては貴重な経験を伝授するベテランとして振る舞ってくれた筈だ。更新される練習動画では姿を確認できるが、彼の人間性を知ることができるインタビューやコメントはほぼ見られなかった。38歳、15クラブを渡り歩いた苦労人は、表舞台にこそ現れなかったが、彼のような存在こそ残留という成果に何かしらの影響を与えてくれたかもしれない。甘さは知らずとも、酸いとは何かを知っているから。


DF

2.ジョンジョ・ケニー

彼の今季ハイライトは「J.J-Cruijff」と称されたリーズ戦(H)だろう。オプションとして可能性を見せたボレアム・ウッド戦(FA杯)もポジティブだった。ベニテス配下で自信を失ったこと、ランパード指揮下になって前向きになれたことを発言し、古巣シャルケ時代を懐かしむ。セルティックへ移籍した頃、無観客の時期を過ごしたことで自分には訪れなかった歓喜の21-22シーズン&オールドファームダービーを観戦して鳥肌が立ったという。U-17では欧州でNo.1、U-20W杯では主将として優勝を果たした。あの頃から時は流れ同世代のRBはどんどんステップアップを果たしている。彼にはピッチ上での時間が必要だ。

3.ネイサン・パターソン

1度だけでなく2度断られたエヴァートンは、3度目でようやく希望のフルバックを獲得した。言わばブランズ他、リクルートチームの遺産である。レンジャーズでは唯一無二のタヴァーニアの壁が厚かったがスコットランド代表では既に主力。スケールの大きさ、敏捷性、U-23で見せた鋭いクロス…ポテンシャルはかつてのコールマンを凌ぐだろう。残念ながらチャンスを掴みかけて今季負傷のアクシデントに見舞われたが、長年未解決のライトバックのポジションで未来を託し得るプレイヤーである。来季はブルースの、そしてプレミアリーグのトレンドとなる選手としてブレイクして欲しい。

4.メイソン・ホルゲイト

プレシーズン、上半身裸でマッスルさをカメラに見せつけ、そのあと登場したグバミンの屈強さに完敗していたのが個人的にツボだったホルゲイト。
ミナのプロレス劇場に比べるとまだまだレベルが足りないお粗末さも伸びしろだ。アンチェロッティ期に評価され5年契約を結んだ頃に比べるとトーンダウンが否めないが、そんな彼がクリスタルパレス戦(H)で頭に血が上るゴードンを宥めているのを見ると、おぬしもアニキになったんだなあ…と感慨深くなってしまった。持ち前のタッチダウンパス、EFLでのタフな経験をもう少し活かして欲しかったのが本音。リシャーリソンやDCLの去就を心配するあたり、憎めないやつである。

5.マイケル・キーン

彼に落胆したエヴァトニアンは少なくないだろう。メンタルに問題を抱え苦しんでいたことを公表した昨季から、今季は心機一転、確固たるポジションを築きたかったが序盤からパフォーマンスが安定しなかった。ディフェンスラインからパスを量産したアンチェロッティ時代に比べ、ビルドアップの構築すら継続なく放棄したベニテス・マネジメントの被害者だと思っている。相棒のミナがいなければあっという間に萎縮してしまう真面目すぎるCBはキャリアの岐路に立っている。序列は下降気味、もっと背中で語る気概を見せてもいい。その堅実で優しいハートはエヴァートンに向いている証左だ。

13.イェリー・ミナ

ムードメイカーであり、プライベートではリシャーリソンやアラン、南米トリオで和気藹々と過ごすというミナ。想像できる陽気な雰囲気とは一変、ピッチに立てば誰よりもダーティーかつ愚直に相手FWを苛立たせて主導権を握る。ここ数年で確実に成長し、低いラインでは壁となり、高いラインではビルドアップの要となる。理想的な頼れるCB…だがご周知の通り、常に怪我と隣り合わせ、屈強な肉体とは相反するガラスの足。彼の契約延長が滞るのはここが争点で、チームトップの高給取り。相方DFのパフォーマンスが上がり、出場すれば勝率が上がるというデータも頷ける。しかし将来を見据えるならミナがいないチーム作りを進めるのが吉となりそうだ。

19.ヴィタリー・ミコレンコ

「フィットするには最大で6ヶ月必要だ」そう語るのはウクライナサッカーとディナモ・キエフを追ってきた記者、アンドリュー・トドス氏。予想は的中した。むしろ、より早く順応できたのがミコレンコの努力を示す。SB、WB、そして10代の頃やウクライナ代表ではCBも経験。2019年ポルトガル代表と対戦しC・ロナウドを完封して脚光を浴びた。その再現をマン・ユナイテッド戦(H)で果たし、試合終了後ピッチで喜びを爆発させ芝生を叩くシーンは印象的だった。レスター戦(A)で決めたスーパー・ボレー、サラーを防いだダービー(A)、同胞ジンチェンコと抱き合ったマン・シティ戦(H)、深く堕ちたディニュの影を払拭できる人材。

22.ベン・ゴドフリー

昨季の飛躍的な活躍からすると不完全燃焼だった。COVIDの影響で呼吸器系の症状が悪化した序盤戦、ランパード加入後には怪我で戦線を離脱した。爆発的な突貫キャリーは影を潜め、チームの不安定さも相まって出場試合の成績も奮わなかった。アーセナル戦(H)では冨安の顔を踏んでしまったりと、一部からは悪印象までついてしまう。プレーの幅を広げたレフトバックでは本人曰くやりがいを感じており、未達の初ゴールも常に意識しているそう。脆弱だった守備時のライン間を埋めるインターセプトや、脚力を取り戻せばチームでは確実にレギュラークラス。フィットネスさえ戻れば、「OnTheBall」で彼のプレー集が出来上がるだろう。

23.シーマス・コールマン

彼を頼るしかなかった。年々衰えが出てくるのは当たり前の話。出場試合数は昨季より増え30試合。一方、得点につながるミスを2度計上した。これは過去5年を遡って最多の数字だ。他にも下落したスタッツがあったが切ないので調べるのを辞めた。されど、いかなる組織においても支柱は必要で、我々の見えない部分で誰よりも選手を気にかけ、サポートし、滾るような姿勢でチームを鼓舞しただろう。ミコレンコは祖国の厳しい状況下でその支えが非常に大きかったことを語った。率先して審判に抗議し、ゴールゲッターに向かって一目散に駆け寄っていく。次のキャリアプランに備え、コーチ資格取得を目指しているが、その役目をすでに担っている。彼が戦う限り、見放すようなことはあり得ない。

32.ジャラッド・ブランスウェイト

チェルシー戦(A)でのゴールで彼に対する期待感が高まったが、続くニューカッスル戦(A)、ミナの負傷で急遽出番がやってきた。あの試合はポゼッション・スタイルがハマったブレントフォード戦(FA杯)を繋ぐ意味で重要だったが結果・内容ともに完敗。そりゃ、U-23でやってないことをやれ、と言われても無理な話…とブランスウェイトを見て感じた次第である。キック&ラッシュで戦えばよかったスタイルは、彼に限らず若者たちに苦戦を強いるだろう。リーグ終盤の退場シーンでは課題のポジショニングが露呈されたが秘められたポテンシャルは紛うことなき才能。ローンで価値を高め資金源とするか、将来の主軸として育てるか、DoFの判断に注目している。


MF

6.アラン

枯渇したピボーテの中で気を吐いた闘犬は、ドゥクレと共にリーグ屈指のプレッシャーをかけ続けた。大外レーンまで追尾するプレスは諸刃の剣。開幕前から彼がいるといないではボール奪取回数が変わり持ち味を発揮したが、ローラインで迎撃するベニテスのフットボールには適合せず。私が印象的だったのは少なくとも3度繋がったフライパス。1つはアシストを記録。ダイアゴナルにペネトレイトするリシャーリソンへ、気の利いたボールを送る光景は彼の再現性ある攻撃術に見えた。残念ながら来季で契約満了を迎え、残された時間は少ない。放出候補の1人として恩師のサッリから熱視線を受けるが、ランパードが残すなら貴重な戦力のひとり。

8.ファビアン・デルフ

私は彼が好きだ。ヴィラ時代は勿論、マン・シティの「All or Nothing」で更に惹かれた。そのプロたる姿勢をエヴァートンで期待したが諦めることになった。800万ポンドの価値?尋ねられたらNOと言うだろう。フリンジ・プレイヤーの扱い。それでも、今季最終盤で君臨したいつかの姿を見た時、ようやく彼の魅力を思い出した。そしてまた怪我をした。昨季1人だけソックスの色を間違えたと思ったら、今季はピッチ入場の際に1人だけトラックジャケットを着ていなかった。クセ。練習では''白鳥の湖''ばりのバレエポーズでボールをカットしようとする。クセ。ドゥクレと同等に走らせたランパードの気持ちも分かるかもしれない。

10.ギルフィ・シグルズソン

書くか迷った。執筆現在、未だ公式のスカッド名簿に名を連ねている。王様気質の彼が、ハメス加入で立場が危うくなった後、2人が共存した昨季スパーズ戦を今でも覚えている。あの喜びをどうしてくれるか。私は彼に懐疑的な視線を持ち続けてきた。これまでの選手らの中で最も批判してきた人物かもしれない。アイスランドのファンに文句を付けられたこともあった。特に後期は彼のプレーに満足しなかったし、怪我をしないくらいしか良さを認めていなかった。でも10番が似合っていた。労を惜しまない10番が姿を消し、僕も時間を費やして批判できなくなった。フットボールにはこういう結末もあると知り、送る言葉はもう見つからない。

14.アンドロス・タウンゼント

グレイと共に今季前半戦を牽引したタウンジー。劇的なゴールを決められるのは、そのプレー選択と技術に自信があるからだろう。そんな彼に自信を持たせるのはタウンジーの母親が作った息子のゴール集、コンピレーションDVDである。それを試合へ向かうバッグに忍ばせ、どのクラブでも強烈なシュートを放ってきた。惨敗したゲーム、クリスタルパレス戦(FA杯)の負傷で今季絶望の怪我に負ったが、もう一度エヴァートンに活力を与えてほしい。リーグを見渡しても左利きのライト・ウィングは希少であり、ショットやクロスのインパクトを始め、プレー精度を見てもまだまだ陰りは見られない。

16.アブドゥライェ・ドゥクレ

どこでもドゥクレ2.0。彼に限りはない!というのは間違いで、2季連続で怪我を負わせてしまったことを教訓にしなければいけない。プレススイッチの起点となり、広範囲をサポートできる高性能エンジンも怪我と疲労でパフォーマンスが落ちたことは否めない。開幕節のゴール、バーンリー戦(H)のアシストなど、ベニテスのダイレクトなスタイルで攻撃力を解放したが、ランパードのポゼッション型では些か不安が残る。5バック移行後、怒涛のボールリカバリーが光ったようにトランジション・バトルでは唯一無二。彼のコンディションをマネジメントする裁量は今後の課題だ。アランと同じく残り1年で契約満了。来季は勝負の年に。

17.アレクサンダー・イウォビ

リーズ戦(H)で、イウォビへの風向きが変わった。アフコンでは悔しい退場&敗戦の末チームに戻ってきたがそのままフェードアウトするのではないか、そんな風にすら感じていた。ランパードが「ここまでやるのは予想外だった」と驚かせたI H起用は、彼が待ち望んだポジションだろう。残留争いの最終局面に入ってWBを務めたものの、彼の存在が苦境に立つエヴァートンのギアを入れ替えたことは間違いない。ニューカッスル戦(H)値千金のゴールを始め、守備でも大きな成長を遂げる。しかし、スルーパス、ドリブル、守備貢献、これらはアーセナル時代からストロングポイントとして認識されていたことだ。このパフォーマンスを継続できるか。


_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


前編はここまで。
次回、後編も近日公開予定です。
是非みなさんのご感想もお待ちしております。


2022年6月 
月刊NSNO Vol.12

「エヴァートン 21-22選手名鑑/完全版:前編」
シーズンレビュー

後編へつづく…












気に入ってくださり、サポートしてくださる方、ありがとうございます。 今後の執筆活動や、エヴァートンをより理解するための知識習得につなげていきたいと思います。