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『文脈』でDJをするということ 〜セトリ解説を添えて〜【ボカロリスナー presents Advent Calender 2022】

はじめに

 初めましての方は初めまして、そうではない方は1年振り。B,F(@BigBigfriend333)と申します。普段はボカロリスナーとして全曲チェックをしたり、曲紹介配信をしたり、ボカクラでDJをしたり、曲レビュー記事を執筆したりと、ありがたいことに色々と活動をさせて頂いている者です。
 昨年は色々とあり上記の活動をほぼ停止していましたが、今年からは無事再開することができ、忙しくも楽しい日々を過ごしています。それはそれとして休みが欲しい、ゲームしたいし遊びに行きたい。

 そんな中でボカロリスナーとして欠かせないイベントが、今年もやって来ました。

そう、ボカロリスナーアドベントカレンダーです。

 主催のobscure.(@voca6458)さん、今年も本当にありがとうございます。
4年目ですよ、4年目大学生なら卒業する程の年月が経ってしまったということですもんね。

 毎年本当に様々なvocanoteが投稿される企画ですが、今年も論文並みの分厚さがある解説記事から、お気持ち表明怪文書とラインナップが豊富で楽しいですね。是非このnoteを読まれている皆さんも、他の方々の記事をお読みくださると嬉しいです。
 因みに前日20日担当はりすな(@mioni_listener)さんです、記事はこちら。

 全曲チェッカーとして、本当に身につまされる記事でした。果たして私はそう遠くない未来でも、曲を漁り続けるんだろうか。そしてAI産の音楽にどう向き合って行くんだろうか……。

 また今年もゆるめ枠である第2会場が用意されています。まだまだ枠があるので、「色々読んでいる内に何か書きたくなっちゃったな〜〜〜!」という方は、こちらに登録して参加しましょう!
※第2会場は投稿予定日関係なく、上から順番に詰めて登録してね!
 登録済みのお前らに言っているんだぞ!!!

第1会場

第2会場

 さて、ボカロリスナーアドベントカレンダー皆勤賞の私ですが、今年のテーマはズバリ……。

『文脈DJ』です。


『DJ』って何するの?

 大前提として、そもそも『DJ』って何をしているの?とお思いの方もいるでしょう。恐らく多くの人がDJという言葉を聞いて、この画像のように「なんか音楽流しながら、丸いところを擦ってデュクデュクとかキュッキュッとかやってるんでしょ?」という風にイメージすると思います。

いらすとや 「レコードを回している、ディスクジョッキー(DJ)の男性のイラストです。」 より引用

 凡そ皆さんのイメージ通り、ここで述べているDJ(Disc Jockey)とは、クラブDJを指します。クラブDJとは上記の画像のように、ナイトクラブラウンジディスコなどで、専用の機材を用いて曲と曲とをミックスさせ、途切れることなく繋いでいくパフォーマーのことです。
 またよくイメージされるデュクデュクやキュッキュッという音は、『スクラッチ』という技法で、文字通りレコードやDJ機器のターンテーブルを擦ることで鳴っています。その様子から『皿回し』と呼ばれることもありますね。
 スクラッチはあくまでも表現方法のひとつなので、必ずしも全DJがデュクデュクキュッキュッと音を鳴らしている訳ではありません。意外と難しいんですよアレ。

 そして私が主に活動しているのが、VOCALOIDを中心とする合成音声音楽がメインで流れるクラブイベント、いわゆるボカクラです。
クラブミュージックは勿論のこと、ロックエレクトロニカジャズなんかも流れるので、合成音声音楽が好きな人に1度は遊びに来てほしいイベント形式ですね。ダイジョウブコワクナイヨ、ホントダヨ。

 ここまでのことを纏めると、こんな感じ。

・DJとは、クラブで様々な曲を途切れさせることなく繋ぐパフォーマー
・特に合成音声音楽にフォーカスしたものを、ボカクラと呼ぶ
・ボカクラは怖くない、本当に怖くない
・全員が全員デュクデュクキュッキュッしている訳ではない

 これで我々DJが一体何をしているのか、ということがざっくりとですが伝わったかなと思います。


『繋ぐ』とは?

 ところで、ここまで読み進めてある疑問が浮かんできた方がいるかもしれません。
曲と曲を繋ぐって、実際どうやっているんだ?」と。
 お答えします、それは……

良い感じのタイミングでボタンを押して曲を再生し、
良い感じのタイミングでボタンを押して曲を止めるだけです。

 やめてください、石を投げないでください。

 勿論これは極論なので、実際には曲と曲を繋げる際に自然に聴こえるよう、もうちょっと色々やっています。
 例えば曲同士の拍子キー、速さ(BPM)を合わせたり、音楽ジャンルを揃えたりなどがメジャーですね。

 あとはミキサーの中央にある、縦に3つ並んでいるツマミ(イコライザー)を左右に捻ると、高・中・低音がそれぞれ強調されたりこもったりするので、その性質を利用してミックスすることが多いです。

Pioneer DJ 「DDJ-400」より引用

 DJは基本的に、上記の画像に入れた注釈部分をアレコレ触りながら、ミックスを行っています。この他にもエフェクトを入れることもできるので、興味がある方は調べてみてください。

 あくまでこれは、曲と曲を繋ぎやすくするためのテクニックです。最悪BPMさえ揃っていれば繋がりますし、何ならBPMが揃っていなくともミックス中に変に聴こえなければOKです

 「繋ぐってどうやるんだろう、難しそうだなぁ……」と思っていた方も、少しは心のハードルが下がったのではないでしょうか?
 因みに私がDJを始めた際、どうやって繋ぐのか教えを乞うた結果、

「内なるクラバーがその繋ぎの良さにキレたら正解」
「えいっ!ってボタン押して、えいっ!ってボタン押せばOK!」
「1番下のツマミをとりあえず切っといて、同時にグリグリ回すとなんか繋がる」

 など、先達より大変ありがたいお言葉を頂きました。
 なのでこの解説に言いたいことのあるDJ諸兄は、その先達に文句を言ってください。DMでこっそり名前を教えます。


『文脈』で繋ぐ

 さて、ここまでは一般的なDJが行っているであろう基本的な繋ぎ方を解説しました。
簡単に言えば『音繋ぎ』というやり方ですね。
 ここからはいよいよ、私がメインで行っている『文脈繋ぎ』のお話です。

 文脈と一言で言っても、その意味合いは多岐に渡ります。『歌詞』や『ボカロP』、『使用された合成音声』に『年代』などなど……。言ってしまえば『音楽ジャンル』だって文脈のひとつです。
 つまり、文脈DJを行う上で様々な側面から曲を咀嚼し、要素を整理して捉え直す工程が自ずと必要になってきます。正直めんどくさい 楽しい作業ですね。

 また、文脈繋ぎだからと言って音繋ぎを蔑ろにはできません。寧ろ音繋ぎは前提のものとも言えます。
 いくらメッセージ性が強くとも、繋ぎごとに曲のテンションが乱高下したり、全てブツ切りだったり、ミックスが不協和音過ぎたりではフロアも冷めてしまいます。自分の主義主張を押し付けることよりも、お客さんを楽しませることの方がDJにとっては大切ですからね。
 私も時折このことを自省しています。独り善がりはダメ、絶対。

 その上で、伝えたい文脈を、もしくは使いたい曲達から浮かび上がった文脈を、数十分のセットリストに込めてプレイする。
 この楽しさを皆さんと共有したく、筆を執っているのです。


文脈繋ぎを実践しよう!

 ここからは、私が実際にどのように文脈繋ぎを行っているのか、現場でプレイしたセットリスト(以下、セトリ)を基に解説していきます。

①使いたい曲を決める

 私がセトリを組む際に起点となるものは、主に2つあります。
 ひとつ目は『使いたい曲』がある場合です。この時のセトリの出発点は、tamaGOさんの『アイスクリーム』を流したい!という思いでした。

 理由は幾つかあって、イベントクルーかつ友人でもある灯辻(@s1eeping_sheep)さんがこの作品の大ファンであること、当日の会場名が『Velvet i scream』であったことが挙げられます(歌詞の中でも「アイスクリーム i scream aisiteru」と表記されています)。

 さて、出発点が決まったならば曲の文脈を拾っていきましょう。
 この曲のメインテーマと言えば『老い』ですよね、しかも多感な10代の少年少女にとっての。溶けていくアイスクリームのように、あっという間に過ぎていく青春時代。目指したも現実の前に、どんどんと色褪せていく。そして残るのは死んだ身体だけ、そんなもんだ人生とため息を吐く作品です。

 これは一部リスナー内で、スラングとして使用している言葉なのですが、こういった抑うつ傾向の強い思想自罰感情を持った人を『陰のメンヘラ』と表しています。薄々お気づきの方もいらっしゃると思いますが、私も例に漏れずこの陰のメンヘラです。そしてこういった、陰のメンヘラ全開の作品が大好物なんですよね……。

 という訳で陰のメンヘラ要素の強い曲を集め、『アイスクリーム』が収録されているtamaGOさんの、最初で最後となるアルバム名『走馬灯』をメインテーマに据えて、セトリを組み上げました。

 『走馬灯』とは『回り灯籠』とも呼ばれるもので、外枠に薄紙や布を張り、内側には様々な形を切り抜いた円筒を立て、中心の蝋燭に火を灯すと円筒が回り、外枠に影絵が映り回転して見えるものです。
 そこから転じ、過去のことが次々と思い出されるさまを表す慣用句として、「走馬灯のよう」という風に使われる言葉でもあります。これは主に死の間際に見るものとして使われていますね。実際にそういった脳波を観測した研究もあるみたいです。

 今回はそう言った意味合いでの『走馬灯』に焦点を当て、死とその先に向かって身を投げるその瞬間から、駆け巡る走馬灯、そして最後に辿り着いたやさしい世界までの道筋を描きました。くら~~~い……。

 またtamaGOさんはこのフルアルバム頒布終了を境に、活動を終了されてしまいます。今まで本当にありがとうございました。あなたの作品に心を揺さぶられ、救われてきました。
 今回のセトリは、tamaGOさんファンとしての文脈が含まれてもいます。まだ買ってない人は通販出たら即買おうね。今までの作品は全て削除予定だそうなので。

②テーマを決める

 続いて起点のふたつ目は、『テーマ』がある場合です。下記画像をご覧ください。

VOCALIFE EX祭 セットリスト

 はい、こちらは10月にもなか最中(@minaaa1267)さんと共同主催をさせて頂いた『VOCALIFE EX祭』のセトリです。
 そもそも『VOCALIFE』というイベントは『20××年のVOCALOID』をテーマに開催されており、特にEX回は追加で別テーマが用意されています。今回は『2022年のVOCALOID×祭り』がイベントテーマでした。

 実は『VOCALIFE』って、私のDJデビューイベントでもあるんですよね。そんなイベントで共同主催をさせて頂けたので、本当に嬉しかったです。その時のセトリ解説記事も書いているので、良かったら読んでね。

 この時のテーマは『関係性』、私の大好きな言葉ですね。人間は様々な関係性の中で、影響し合って生きていくので。
 ということで今回のセトリでは、そのリバイバルを行いました。つまり『2022年のVOCALOID』×『祭り』×『関係性』をテーマにDJを行ったということです、詰め込みすぎだろ。ぎゅうぎゅうにテーマを詰め込んでいる関係上、縛りが多すぎて矛盾なくセトリを組み上げるのが本当に大変でした。皆さんが行う場合、テーマはなるべくひとつに絞るのが賢明です。

 兎も角、テーマを決めたら後はそれに沿う作品を選別していきます。今回は特に、2021~2022年に開催された曲投稿祭と、『君/あなた』と『僕/私』という二者関係に焦点を当てました。

 例えば『Dis-Play』→『底はまだ遠く』→『超次元おとなりさん』→『最先端な関係』はどれもThe VOCALOID Collection(ボカコレ)にて投稿された作品(及びそのリマスター版)です。

ディスプレイの向こうにいる、過去になってしまったあなたの眩い笑顔。別れてしまったことへの後悔と現状とのギャップで苦しむ、何もできない僕。できるのは画面越しにあなたを見つめて、失くした愛を過去に求めることだけ。
 触れられないからこそ、失ってしまったからこそ、過去を美化しそれに縋って生きていく。そんな一方的で身勝手な関係性も味わい深いものです。

 そして画面の向こうから、VOCALOIDである自分で人形遊びをするご主人様(マスター)を、視線を外して微笑みながら見つめる『鏡音リン』。自分に従順な鏡音リンがいっそ恨めしいとさえ思っており、『ファムファタル(運命の女/破滅へ導く魔性の女)』と呼びかける『』。

 かつては彼女に「エディタ越しの瞳に 映りこむブルーライト 目は合わない」とも歌わせてもいましたね、そんな歪な関係性が愛おしい。

 一方で、次元を隔てたおとなりさんとして寄り添う『音街ウナ』と『ジヲ』さん。お互いの次元や身体にちょっと思うことはあるものの、触れられない距離にいる、個性を尊重し合うことのできる最先端な関係が心地良い。そんな健やかで温かい関係性に目頭が熱くなる。

 と、このように展開していきました。考え方としてはしりとりに近いかもしれません。全ての要素を完全にリンクさせるのではなく、モザイクアートのように似ているけれど違うものを組み合わせて、ひとつの作品へと昇華させているのです。


『文脈』でDJをするということ

 正直な話、文脈DJってすっっっっっっっっっっっっっごい大変です。

 前述しましたが、まず事前準備が多すぎる。DJをするに向けて曲のDig購入聴き込みは勿論、その上歌詞やMVから、曲のテーマや世界観を読み取り、自分の中で咀嚼することが必要となってきますから。

 そしてシンプルに縛りが多いということもあります。音と音を繋ぐだけでも労力がいるのに、テーマにも沿わせなければいけない。そしてイベントでの自分の番手、ゲストかホストかにもよってやるべき事が変わってきます。

 また折角苦労してセトリを組み上げても文脈が伝わることはほぼありません。何故なら大半のリスナー/クラバーは、全然歌詞を聴いていないのですから。少なくとも私の周りで歌詞をしっかり聴いている人は、本当に一握りです。

 つまり文脈DJとは、他のDJ以上にエゴイスティックな世界で生きていかなくてはなりません。ほとんど自分との対話のようなものですが、その上で最優先すべきは聴き手というジレンマを抱えています。
 けれど、それでも私は文脈DJを続けていきたいのです。何故なら音で繋ぐだけでは得られないグルーヴが、私だけの物語が、そこにはあるからです。

 「人様の作品を借りておいて、何が『私だけの物語』だ!」と思われるかもしれません。
 私は、DJのことを2次創作であり曲紹介だと思っています。2次創作も曲紹介も、どちらも原作に感じた心の震えを、作品へのリスペクトを、自分が作品から受け取ったものを、誰かに伝えるためのものです。
 私は昔から、自分が好きだと感じたものを誰かに伝えたかった。そして一緒に感動してほしかった。時にその手段はレビュー記事であったり、ツイートであったり、配信活動でした。そしてDJもその手段のひとつです。

 本当に苦労はしますが、セトリが組み上がった際の達成感は、フロアが沸き上がった瞬間や、一握りの誰に伝わった時の喜びは、他では得難いものがあります。そしてその瞬間を迎えることこそが、文脈DJの醍醐味だと考えながら活動をしています。

 これを読んでいる皆さんの中にも、その喜びを味わいたい方はいらっしゃるんじゃないでしょうか。そんな皆さん、

おわりに

 ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
 今年は苔餅ラジオを中心に、色々と精力的に活動できた年でしたが、実はDJを特に頑張ろうと思っていた一年だったので、ここで一区切りをつけることができて本当に良かった。
 今後もDJ活動、並びに他リスナー活動も頑張っていくので、応援して頂けると嬉しいです。

 また、明日22日の担当はNaMoNaKi(@NaMoNaKi428)さん。アドベントカレンダーもいよいよラストスパートですが、是非最後まで一緒に走り切りましょう。
 それでは……。

良きVOCALOIDライフを!!!


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