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立秋

 立秋の侯、夏雲の上にさらりと並ぶ薄い雲が、暦の上では秋だと知らせる。涼風至、残暑見舞い、何処からか涼しい風が夏の終わりの便りを寄越す。蜻蛉は秋の初めの涼しい風を知る。そうして高い秋空へ、その透明の羽を、すらりすらりと青の中に泳がせる。秋の始まりを讃え、喜びに舞う。
 秋桜の肩よく並べて涼風にゆらりゆらりと揺れ動くさまは、仲睦まじく踊る様也。稲穂は育ちて暫くもすれば、頭を垂れて黄金の原が姿を現す。夕暮れの刻、蜩の哀しき声に空は一層高さを増す。
 蜻蛉の姿、そこらにあり。風そよぐ空に、踊る秋桜に、稲穂の頭に、蜩の鳴く声の中に。その大きな二つの目は何を見るのか。その硝子のような羽は何を写して飛ぶものか。その身は赤かそれとも青か。蜻蛉よ、私の指に止まれ!
 空に突き刺した人差し指。
 その上をたくさんの蜻蛉が秋に浸り漂っている。

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