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母のブログ

「お金を稼ぎたい…」
来月92歳になる母がある日ボソッと言った。
ええっ?今さらお金?なんで?
年金って貰ってるんじゃなかった?
まあ、年々なぜか減ってきてはいるけど…
すずめの涙とはいえ、父が遺してくれたお金だってあったよね?
よくよく話を聞いてみると、どうやら純粋に「現ナマがほしい!」
…というわけではなさそうだ。
自分がやった何がしかに対して、周囲の反応や評価、手応えみたいなものがほしいということらしい。
つまり承認欲求ということ?
あるいは爪あとを残すって感じかな?
う~ん、たしかに年を取ると、この種の欲求が満たされる機会は悲しいくらい乏しくなっていく。
まず若い頃に比べて社会と繋がる機会がかなり限られてくるし、望む望まずとに関わらず、人様のお世話になることばかりが年と共に増えていく。
誰かの役に立ったり、感謝されたりする幸運なんて滅多に巡ってこない。
おまけに母はこの4月にやっと退院したばかり。
入院前に比べてヨロヨロ、ヨボヨボにひときわ磨きがかかっている。どう考えても雇ってくれるところなんてあるとは思えないしね~
家族や友人に相談してみたが、同情はしてくれるものの、いい案はなかなか出てこない。そんな中、ブログはどう?と勧めてくれる友人がいた。
そっか、そうじゃない、それがあったか!
母は本を読んだり、文を書いたりするのが好きだからピッタリかもしれない。
「はてなブログがいいんじゃない?」
と娘がいうので、早速母のアカウントを作ってみる。
アイコンは母の花嫁姿。
65年以上前のモノクロ角隠しの写真。
「これって見ようによってはホラーだよ」
と娘は難色を示したが、母は一向頓着しないのでよしとする。
「最初の投稿、何って書こうか?」
と水を向けると、母はしばし黙り込んでからひと言。
「何も思いつかない」
あらら、そうなの?
「何かあるでしょ?何でもいいから」
としつこく食い下がると
「人がいる前じゃ考えられない」
まあ、ヒトって私のこと?
挙句の果てには
「任せる!適当に何か書いて」
と、まさかの丸投げ。
いやいや、それじゃあんまりでしょう。
かたくなに母が何もないと言い張るので、しぶしぶ初回は簡単な挨拶文を代理で書いてみる。母に読んでもらい、投稿。
すかさず娘と私が読者になる。
「お母さん、見て。もう2人も読んでくれる人がついたよ!星もついてるし!」
ブログのことを母がいったいどこまで理解できているのかは定かでないけれど、私と娘がはしゃいでいるのを見て、喜ぶべき事態が起こっていると認識はできたようで、まんざらでもない様子。
それからは実家へ行くたびブログを更新。
これが地味に大変。
「今日は何を書く?」
と尋ねても、かえってくる返事は
「何もない」
  ↓
「人がいると思いつかない」
  ↓
「任せる」
大体初回からずっとこのパターンの繰り返し。
そこで聞き取り調査となる。
「今日やったことは?」
「思い出に残ってることは?」
一旦テーマが決まると、そこから湯水のように言葉が溢れ出すことも。
そこはかとなく盛ってる匂いがする時もあるし、記憶の混乱もかなりあるので、適当に割愛しながら、短くまとめていく。
写真も入れて投稿。
あれ、いつの間にか家族というサクラに交じって全然知らない人も読者になってくれている?
ありがたや~(´;ω;`)
母に見せると
「あらすごい。じゃあがんばって書かなきゃね!」
ニコニコしながらの前向き発言だけど、いまだナマ原稿を頂いたことはない。
口述筆記ですら、お尻をバンバン叩かないと何も出てこない世話の焼ける先生だけど、昔を思い出したり、文章を考えたりすることはきっと刺激にはなるだろうから、もうちょっと頑張って続けてみようかな。
 
先日は落語会に出かけた話を投稿した。
何の変哲もない短い投稿だけれど、実はその裏ではとんでもないことが起こっていた。
ブログでは全く触れなかったのだけれど、あろうことか母は日にちを間違えて、前日に1人タクシーに乗って会場まで出かけてしまったのだ!
おまけに一緒に行くはずの私が来ないので(なんで電話して確認しないのよ~)、チケットがムダになると思い込んだ母は、気前よくタクシーの運転手さんに1枚あげてしまったのだ!
「それ明日ですよ」
ホールの受付でこう言われ、ガーン!
ようやく自分が重大なミスを犯したことに気づいた母だったが、時すでに遅し。
1枚になったチケットを握りしめ、意気消沈のまま、母はすごすごと帰宅…

翌日今度こそ、ふたり揃ってタクシーに乗り、会場へ。
チケットが1枚になってしまった事の顛末を係の人に説明、なんとか1枚でふたり入れないかと、どう考えても強引過ぎる交渉をする。
ヨボヨボの老婆とくたびれた初老の娘の姿が係のお兄さんの同情を引き寄せたのか、驚いたことに
「開演5分前になっても空席だったら案内しますよ」
という優しすぎるお言葉!
結局タクシーの運転手さんは現れなかったので、めでたくふたり並んで落語を鑑賞できる運びとなった。
それでも開演後、遅れて入場してきた人が脇を通り過ぎるたび、もしや運転手さん?とヒヤヒヤした~
 
ホントに全然大したこと書いてないブログですが、もしも時間の無駄遣いをしてもいいかな~という時があったら、ぜひ覗いてやって下さい。
 
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『とんちゃんのとことこ日記』
というタイトルです。
 

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