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第6回毎月短歌 北原有選評

2024年の自選

【特選】

家系図の最後をかざるわたくしは進化の大樹の美しい枝/水の眠り

家系図と大樹の枝を重ねる喩えが面白い。
苦しさが美しさになるのが、文芸の良いところ。歌がのびのびとしていて、読者を昂揚させる。「進化の」という語の選択がポイントになっているのかな、と評を書いていて思う。

眠る城茨で囲う魔法めくフィルタリングを子の端末へ/和泉瑠璃

フィルタリング、懐かしいなーと勝手にノスタルジーに浸ってしまった。西洋風ファンタジーのような比喩が効いているし、読んだ時の口の気持ちよさに惹かれ、特選。

二人なら全てがデートだったこと 上下水道料金センター/おさむ

下の句への期待を自然に煽る上の句が良い。しかもちゃんと期待を超えてくる。語の飛躍の面白さなんだけど、本質はきっとそこではない。上下水道料金センターって良い言葉だ。すごく生活だ。生活すらデートであった、そしておそらくその相手と現在は離れてしまったのだろうと感じさせる。

テーマ詠「肌」

【秀作】

海もまたかつては少女頬濡らす誰も知らない川のはじまり/新妻ネトラ

少女頬濡らす、の接続がよかった。短歌ってかなり接続が大事だなと最近思っていて、同じ題材だとしても接続のきまっている歌は心地よくて面白い。見せ方は魅せ方だと思う。魅せ方が良い歌でした。

まっとうになりきれなさのプリキュアの部分で戦う(だから怖いの)/虚光

プリキュアの部分で戦う、は読み手に解釈をかなり任せているポイントだと思う。
読み方をひとつに限定しないというのは選択として結構強気にいかないとできないことですが、個人的に読んでいて面白い歌は読者に向けたあそびがある、余白がある歌なのですごく響きました。
少女性が強い歌だけど、性別関係なく伝わるし、共感してしまう歌だと思う。

ドーナツはもうないきみももういない それでも行くかい?きっときみなら/鯛

気持ちいいなーと感じながら読んでいました。リズム感が良く、音楽を聴いているみたいです。aiの押韻とk子音の連打が心地いい。
鯛さんの歌をもっと読みたくなりました。

【佳作】

「泣きたい」と書けば赤字で直されて歌の中でも素直に泣けぬ/くらたか湖春

泣きながら運転するし料理するきっと私は100まで生きる/遠藤ミサキ

ほんのりとただ、熱源のあるものと認知されてるだけでいいです/夭夭雷

楽しんで食事ができて歩くのがきれいな人に惹かれるのです/夭夭雷

クリームをたつぷり掬ふ ひだりてをあなたととりかへる夢をみた/高田月光

生きるのがへたくそなのでこんなにもブラウザのタブがひらかれたまま/伊津見トシヤ

【特選】

「鍋肌に回し入れる」ということをきみの彼女にしてあげてくれ/小石岡なつ海

肌というテーマ詠で、鍋肌!!と度肝を抜かれたら最後、一首全体で完成されているところにどハマりしました。
抽象的なところを具体性で包んでくれている。この歌はもっと広く知られてほしい、知られる必要があると思い特選に選びました。
読み方を固定している感じは無いのですけど、しっかり補助線は引いてくださってる感じを受けました。自然なコントロール感が気持ち良く読むことに繋がっています。

【秀作】

遺伝子が私の肌を白くしたほくろは前世愛された痕/睡密堂

遺伝という確かなシステムと、ほくろの迷信が心地よく交差しています。白と黒の対比にもなっていて確かな技術を感じます。

デパコスの運命的なパレットの4人が負つているランドセル/山崎なお

カタカナ語や略語が多く使われていますが、歌の中で暴れたり、はみ出たりする感じになっていないのが、まず良かったです。
デパコス パレット ランドセル が響き合っていて、歌の印象を形づくっています。
具体的に色を挙げるのではなく、それなのに色彩の感じが伝わってくるのが面白い一首でした。

肌色の絵の具は全て銀であるロボット兵士に支配された国/深山睦美

肌色という色が銀になってしまう、という私たちの常識が変わってしまう瞬間の激烈さにぐっときました。架空の世界を想像し、それを伝える力を感じさせます。前衛っぽい作品でした。
下の句が若干重い感じが抜けていたら特選に選んでいたと思います!

【佳作】

砂漠には怠惰な父が「いい男」目指す冬の日、オールインワン/夭夭雷

ざらついた手のひらだけが母だった差し入ればかりの無機質な部屋/風吹く

輪郭が溶け合うほどに抱き合えばスフマートなるダ・ヴィンチの夜/T・G・ヤンデルセン

黄疸出れば誰しもイエベ 火葬場でプロテーゼ抱いて泣けばいい/烏山千歳

ダビデ像のくすむことなき肌に降りそそぐ氷雨のようなまなざし/アカマツヒトコト

今回選評していて思ったことは

●接続は歌の見せ方に大きくかかわる
●説明しすぎない難しさ

でした。

●接続は歌の見せ方に大きくかかわる
接続がうまくいってる歌は音数以上の内容を伝えることができ、細かいニュアンスも読者へ届けることができると思います。
テーマ詠などは特に、似た内容の作品があることも多く、接続の良さは強みになるだろうな印象を受けました。
色んなところに投稿してるけど、あまり掲載に至らないという場合は、接続を見直すだけでぐっと良い歌に磨き上げることができるんじゃないかと考えました。

●説明しすぎない難しさ
選をしていると、一首を通して、原因→結果 になっている歌をよく見かけます。それが上手く噛み合ってる歌(前述の接続や表現の面白さ、飛躍などの要素でカバーすることもできると思います)は突き抜けていて、選ぶことも多いですが、原因結果の歌は単調になりやすい部分がやはりあります。一首としての動きがどうしても限定されてしまうからだと私は考えています。
これがもったいないなと思う瞬間が、歌を読む時、選ぶ時、自分で作る時によくあります。自分もできていないことは多々ありますが、重要なポイントだなと強く思っています。

選評が大変遅くなり、投稿者の皆様、主催の深水様にご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。

北原有

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