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「戦術以前の問題」

こんにちは。
これからnoteでトレーニングメニューを発信していきたいと思います。
念のためですが、twitterを含めた自分の発信はすべて「個人の見解」であること、あらかじめご了承ください。

初回。まずは過去の自分への戒めも込めて、「戦術以前の問題」「どんなサッカーをするか以前の問題」という言葉についてお話ししたいと思います。
指導者になって、自分自身が最初に感じた課題です。

戦術以前の問題

結論からいうと、こういった言葉や考え方をしていた自分を、とても恥じています。誰でも最初は初心者なので当たり前ですが、当時の自分は何も分かっていませんでした。
しかし、サッカーというゲームが好きであればあるほど、多かれ少なかれ誰しもこの道は通るんじゃないかとも思います。特に戦術が好きな方は。他でもない自分自身がそうでした。自分もサッカーが好きでしたし、当然今でも大好きです。サッカーの戦術やゲームプランの多様さ、ピッチ上でのミクロ、マクロでの駆け引きなどに魅了されました。そして目の前に転がってきたチャンスに飛び乗り、指導の道に入りました。
そして最初に感じたのが「戦術とか以前の問題だ」ということでした。自分がメインで指導している東大ア式蹴球部女子、文京LBスプラウツは、約半数がいわゆる「サッカー初心者」です。中にはスポーツ未経験者もいます。自分自身にとってのサッカーの当たり前が、彼女たちにとっての当たり前ではなかった。満足にインサイドキックもできないし、ポジショニングの優先順位もないし、最初は「なんでそうなるの」「なんでできないの」、、、と思っていました。今振り返れば、そんなの、いきなりはできないのが当たり前なんですけどね。笑
自分は完全に間違った考え方をしていました。
今思えば、自分は「戦術家ごっこ」がしたかっただけでした。
しかし実際の「指導」とは、もっと複雑で、感情的で、泥臭く笑、地道なものでした。それがわかっていなかった。
サッカーの面白さを伝えたいと思ってはいましたが、その方法論が何もなかった。単純に勉強不足でした。
もちろん戦術的な知識やアイデアは大切です。あるに越したことはないし、なければいけません。しかし、それだけでは圧倒的に不十分でした。指導者に求められる素養として、全体の10%にも満たないと思います。
本当に必要なのは、まあこう書くと当たり前なのですが笑、「チームに向かうべき方向を示し、そこまで根気よく導く」ことでした。テクニック、戦術、フィジカル、メンタル、コミュニケーション、リーダーシップ、、、「サッカーを楽しむために必要なものは全部必要」でした。「必要なことは、可能な限り全部やる」ことが求められていました。選手の体調が万全でないならそれを察知しないといけないし、フラストレーションを抱えているなら取り除く必要があります。サッカー以外の話をすることが必要なのであれば、そうしなければならないでしょう。そして「わからなければ、わかるように勉強する。できるように勉強する」以外に道がないんです。
自分自身が「指導以前の問題」でした。

「サッカーの魅力にカテゴリーは関係ない」

そんな自分に大きな気づきを与えてくれたのが、(巷で話題の笑)山口遼くん(@ryo14afd)でした。
彼の言葉には良くも悪くも印象的なものが多いのですが笑、当時の自分に突き刺さったのは、「サッカーっていうゲームの面白さに、レベルとかカテゴリーは関係ない」という言葉でした。「もちろん技術レベルとかフィジカルレベルによってプレーの精度とか成功率、プレースピードとかが変わるのは当たり前だけど、もっと大枠の、サッカーっていうゲームにおいて『どういうプレーが有効か』とか『どういう判断が適切か』とか『そのためにどういうトレーニングが必要か』とか、そこから得られる面白さとか喜びは、絶対カテゴリー関係ないでしょ」
「だから俺ら指導者はさ、別にその子が下手だろうが何だろうが、『サッカーのゲームとしての面白さ』はちゃんと伝えなきゃいけない、伝わるようなトレーニングをしなきゃいけないと思うんだよね」

ここで気づくことができました。「戦術以前の問題」という自分の考えは間違っていると。
戦術「以前も以後もない」んだと。
「サッカーというゲームの面白さを享受するためには、常に戦術以外の要素にも向き合い、向上する必要がある」ということを理解することができました。

レベル5のシャビ

これは「●●は○○ができてから」という考え方とも少し違います。
(もちろん5mのパスができない子に40mのパスを通せとは言いません笑)
例えば「自陣ゴール前からクリアできない」という現象を、より細かく分析してみます。
「そもそもいるべきポジションを取れていないからボールに追いつけない」のと、「ポジションは取れているのにボールを蹴ることができない」のは、似て非なる状態です。
クリアの技術が完璧ではなくても、適切なポジションを取ることはできます。そして適切なポジションを取れるだけでも、最初に比べればある程度失点は減るでしょう。なぜなら「適切なポジションを取ることができる」というのは、サッカーというゲームの構造上有利な一手のひとつだからです。これが、技術的に差があっても、ゲームの構造は変わらない、ということです。
ここに10本中9本クリアできるA選手と10本中6本クリアできるB選手がいるとしましょう。
A選手の方が、単純な技術的には優れています。しかしポジション取りに課題があり、10本中4本にしか追いつくことができないとします。A選手のクリア期待値は3.6本。
対してB選手は6本しかクリア出来ませんが、適切なポジショニングができるので、10本中9本に追いつくことができるとしましょう。するとB選手のクリア期待値は5.4本です。
こう見れば、クリアに関して言えば、より良いプレーヤーはB選手でしょう。
(もちろんこれだけではないですが)正しいポジショニングができれば、技術的に劣る(こういう言い方は好きではないですが、便宜上です)選手にも活躍のチャンス、つまり「サッカーを楽しむチャンス」を提供することができます。また、技術的に優れたA選手にも、新たな発見、新たな楽しみ方を与えることができます(こういう時は伝え方が大事ですけどね笑)。
今の自分が目指しているのはこういうことです。「俺たち下手だから、バルセロナみたいなサッカーができないよね」ではなく、「俺たち下手だけど、下手なりにバルセロナみたいなサッカーをやろうよ」という感じでしょうか。
バルセロナのサッカーの構造を理解すれば、精度は低くても彼らと同じような喜びを得られるはず、という考え方です。
「シャビみたいにインサイドパスが10本中9本通るようになってから戦術的な練習をします」ではなく、「シャビがやってる『ポジショニング』とか『判断』のトレーニングは別に今すぐにでもできるでしょ、じゃ、パスの練習も、戦術的な練習も、両方やろうか」ということですね。シャビが「シャビLv100」だとしたら、「まずシャビLv100と同じパス能力をつける」ではなく「シャビLv5」「シャビLv30」「シャビLv60」を目指す、チームも「バルサLv5」「バルサLv50」を目指す……という感じです笑

もちろん、サッカーとサッカーチームはピッチ内の技術と戦術以外にも様々な要素が絡まって存在している「複雑系」なので、そのコアとなるダイナミズムを理解して、うまく進めていかなければいけません。
必要だったらジョークも言えないといけない、とか笑

そしてうまくいかないのは――それが戦術的なことでも、技術的なことでも、メンタル的なことでも――究極的には指導者である自分の責任である、ということを理解することができました。そのために自分に何ができるのか、ということでした。
サッカーというゲームの主役は選手で、本来自由なものです。
指導者が彼ら彼女らにとっての「雑音」「妨害」になってはいけない。逆に、それを取り除ける存在でなければ。
サッカーは複雑でいろいろな変数がありますが、その中でも重要な変数に集中できるか。
ピッチ外に問題があるなら、それを解決してあげられるか、せめてその手助けができるか。
選手達にサッカーの面白さを伝える、そのために必要なことは何か。特に初心者もいる自分のクラブにおいて、これは死活問題でした。
「サッカー歴に関係なく、それぞれがサッカーの面白さを感じられるか」ということです。
だからこそ、「サッカーっていうゲームの面白さに、レベルとかカテゴリーは関係ない」という言葉は刺さりましたね。
※そのためのみんなのアイデアの一つが形になったのが、2020年に関東学連内に生まれた「CiEリーグ」です。footballistaに取り上げていただきました。
https://www.footballista.jp/special/104189



自分の好奇心に素直になる

その後、試行錯誤を繰り返し、トレーニングのデザインに自分の中である程度の再現性と自信を持てるレベルには達することができました。
今では、むしろこのカテゴリーだからこそ、サッカーというゲームの構造とはどういうものなのか、サッカーというゲームの面白さとはなんなのか、ということを深く考えることができています。
このチームで指導を始めることができて本当に良かったと思います。

「うまくなる義務」なんてものはどこにもないと思っています。ゲームの面白さにのめり込めば、「もっとうまくなりたい」にいずれ直面します。そして自分の好奇心ほど強い誘因はないと思っています。
そうなるための引き出しと、そうなった時の引き出しを準備しておくのが自分の仕事だと、今は理解しています。
そして自分の好奇心に素直になること。
これは東大女子サッカー部の部員や、文京LBSのママさんプレーヤーのみなさんから学びました。大学生やママさんになって、それでも「サッカーやってみたいから」ボールを蹴り始めた人たちです。
「やったことがないから……」「上手くできるかわからないし……」というやらない理由を並べるのではなく、「やってみたいからやる!」と、ピッチに飛び込んで来てくれた人たちです。何かを始めるのに、年齢も職業も、バックグラウンドも関係ないということを、自分はこの人達に教えてもらいました。

(そんな人たちに対して「戦術以前の問題」とか言ってるの、振り返れば自分マジでやばいやつですね……)

ちなみに、なぜインサイドパスがうまくできないのか、どうやったらできるようになるのかを真剣に考えるのは、めちゃくちゃ面白いです。
※こういった「キックの分析」に関しては東大サッカー部の田所くん(@_take_tomar)が命を削る勢いで行っています。

ミスを許容する

最初は「キックの練習なんてしてる場合じゃないのに」「こういうのがやりたいわけじゃないのに」と思ってしまっていました。自分のやりたいことができなくて、どうすれば良いのかもわからなくて、とにかく焦っていたと言って差し支えないと思います。
今では「どうやったらできるようになるだろうか?」というのは自分自身の好奇心になりました。「できないこと」「わからないこと」に対する焦りがなくなりました。むしろ「え、これはわからない!……つまり、まだまだ勉強が必要ってことやん!」と、好奇心が刺激されます笑

選手も同じだと思います。
ミスはたくさんしていい。むしろ「たくさんミスをしよう」と伝えています。ミスは貴重なサンプルです。ミスはスルーするか、笑い話にするか、修正するかです。そのミスがなぜ起きて、どういうものなのかを伝えて、ポイントを分かってもらうことが大切です。
ミスをした選手が、焦るのではなく、「これ、どうやったら上手くいくんだろう?」という純粋な好奇心に繋げてくれれば最高です。
そういう指導を目指しています。
自分は指導者ですが、自分がいなくて遊びの方が楽しくやれるなら、遊びの方がいいです。だから「サッカー楽しい!」という言葉が、最高の褒め言葉です。

自分自身も、最初は「戦術以前の問題だ」と、指導者として大きなミスを犯していました。
footballistaさんの記事にもありますが、10数試合で150失点とかしてます。得点も2点とかです。いくらレベル差があったリーグとはいえ、我ながらひどい指導者です。お話になりません。結果がボロボロです。選手たちの「サッカーやりたい」気持ちを人質にして、自分のエゴをを押し付けていただけです。考え方を改められたのは、こういう流石にどうにも言い訳のしようがないような失敗の後でした。
しかしそんな自分の言葉にも耳を傾けて、勉強するチャンス、時間を与えてくれたチームの関係者の皆さんと当時の選手たちには、感謝してもしきれません。そしてタイミング的に自分のダメな指導しかしてあげられなかった選手達には、今でも本当に申し訳ないと思っています。
しかし、時は後ろ向きには進まない。自分にできるのは、少しでも早く、少しずつでも良い指導ができるようになって、昨日より少しでもマシになることだけでした。そうやってミスを許容し、「よくなる」ことに集中できたからこそ、今の自分があると言えます。
その時間をくれた選手たちのミスを許容して、好奇心に繋げてくれるように工夫するのは、ある意味当たり前のこと、ですね。

「ミスをたくさんしよう」とは要するに「チャレンジをしよう」ということですが、これは選手だけでなく、指導者も同じだと思います。
どれだけ勉強しても、いきなりは上手くいきません。上手くいくまでやってみて、少しずつ自信をつけていきましょ。
ルイス・エンリケも言ってます。


いつだって今が一番若い


なんか多かれ少なかれ「自分はそこそこサッカー知ってる」と思っていたので(東大で試合に出られないレベルでおこがましいですが)、最初のうまくいかない絶望感、焦燥感、羞恥心は半端なかったです。うまくいかないことを認めるのも辛い。学ぶのも辛い。

しかし「あ、これ指導者として良くなってんじゃね?」という実感を得られた瞬間、わりと真剣に世界が変わりました。
人生で初めて、自発的に学ぶ楽しさを実感しました。
家で昆虫図鑑を読み倒してた幼少期を思い出しました。笑
自分をアップデートすることが快感に変わります。その過程で「このアプリは削除」する必要もあって、最初は名残惜しいですが、少しずつできるようになります。

こういう実感を得られる人が少しでも増えればいいなと思います。
山口くんに「サッカーの魅力にカテゴリーは関係ないよね」という言葉をもらってから、その意味を実感するまでに約1年かかってます。そんな簡単な話ではないんです、とマウンティング気味に言いたいところですが笑、実際には、こんな時間は短い方が良いに決まってて、少しでも早くこうなる人が増えれば、日本サッカー界が少しでも幸せな世界なるんじゃないかなあと思います。

今までやったことなかったことに挑戦する、ようするに変化するのはハードル高いんですが、やってみるうちに少しずつそれが自然になります。
「新しい行動」に慣れてくるんですよね。

話が戻りますが、チャレンジするのに年齢とかバックグラウンドは関係ないですね。関係ないと思える瞬間が多い人は幸せだと思います。

「いつだって今が一番若い」という、上司の言葉が大好きです。


最後に

やはり学びはアウトプットを意識してこそ洗練されると思いますので、今後はここでトレーニングメニューを発信していければと思います。

誰かの、特にこれから指導を始める方、練習メニューを考えなければならないがノウハウがなく困っている方、などの役に立つことができれば幸いです。

自分のトレーニングの狙い、背景、そして何より失敗談とか上手くいかなかったことまで書ければいいなと思います。
一丁前にnoteなんて書いてみましたが、当然今でも「やっちゃった……」という日はあるし、陰では「アイツのトレーニング、ぶっちゃけクソつまんないよ笑」と言われてる可能性もあります。笑

しかし、「誰かが引っかかったところ」「みんなが引っかかるところ」に引っかからないだけで、相対的に優秀です。
「ここ危ないですよ」って書いとくので、上手く回避してください笑
もちろん他のところで躓くこともあるとは思いますが、あまり気にしないでください。チャレンジしたらミスして当たり前です。

そして、ここまで読んで頂ければわかると思うのですが、「勝つこと」については全く言及しておりません。笑
というのも、自分の中では、「勝ちを目指す」のはサッカーというゲームの「大前提」なので、あえて言及する必要はないと思っています。勝敗の話を抜きにしたら、もうそれはサッカーではないです。
「負けよう」と思ってマリオカートや大富豪をやる人はいません。それと同じです。
どんな練習であろうが、勝つためにやっています。

そして「勝ちたい」にもレベルは関係ありません。「たくさん練習しなきゃ勝ちたいと思っちゃいけない」みたいな空気感があるように思いますが、自分は否定します。
ただ、「ゲームが下手なままだと勝ちづらい」というだけです。
たくさん練習したかどうか、時間をかけたかどうかも関係ありません。「そのゲームが上手ければ勝ちやすい」、極論「そのゲーム中の決定的な場面で上手いプレーができるかどうか」だけです。練習しない方が上手くなるなら、練習しません。

ただ、ゲームへの適応には時間がかかるので、おそらく練習はした方がいいんだと思います。笑

じゃあ、その日々の練習が楽しくなったらもっといいし、それで実際にゲームが上手くなるなら言うことないよね、という発想です。

では、引き続き頑張ります。

※ちなみにトレーニングの作り方のだいたい半分は、山口くんの戦ピリの本に書いてます。僕には一銭も入らないので、別に買わなくていいです。

※あと本当に深夜にコツコツ1ヶ月以上かけて書いてるので、業務中は全く書いてません。

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