ボロット第二話「箱と箱」

物体の性質理論。

この平面的で無機質な病室は、箱だ。
いや、この世界全てが箱でできているんじゃないかとさえ思えてしまう。
世界は箱。なんの違和感があるだろう?
古代の人々が地球平面説を唱えていたように、僕は地球箱説を唱えるのだ。
ただ「箱の世界」で生きる。
それが僕の役割なのだろうか?

……そういえば最近、あの窓から声が聞こえる。
いや、声ではないのかもしれない。
ただ僕の耳に繋がりをもった音が聞こえてくる。
僕にはわからない。
   伝わらない。
だが学習はできる。
相手の発している音のつながりを暗記し、その法則を解読の末に導き出せば
僕にも理解できるようになるだろう。
それがどのくらいの年月を要するのかは予測できないが、大丈夫だろう。
時間は有限といえどまだこの先長いのだから。

僕は学習を始めることにした。
一体なんの役に立つのかは理解できていないが、損をすることはないはずだ。

…..一体、この音を発しているのは誰なのだろう?
人間?動物?いや、地球上の生物ではないかもしれない。
その得体の知れない生物は僕に興味をもっているのだろうか。
だが、どうやって箱の中にいる僕の存在を見つけたのだろう?
僕は初めて目覚めたと思われる時以来誰とも会っていないのに。
それが何を意味しているのかはわからないが、意図されたものである以上、
はやく解読できるようになれなければならない。

生まれてはじめて、僕は「興味」というものを持った。
「興味」とは深いものだ。
まるで沼にはまるような気分になる。
だが、これで僕の箱人生も退屈ではなくなるだろう。
僕にも興味を持つ対象、目的ができたのだ。

これは偶然ではない。
自然の摂理でも、強者はお腹が空いた時だけ、自分の空腹を満たすに必要な食料としての弱者を獲るだけであり、
それ以上の殺戮はしない。
植物も、互いに助け合いながら生命を維持している。
これはなにものにも変えられない法則なのだ。
この法則に従えば、この言語を会得するのは相対ではなく絶対的な僕の義務なのである。

窓から僕に呼びかけている相手といつか理解しあえる日がやってくることを願うばかりだ。

つづく

ボロット第三話「なにもなくもないのに」
https://note.com/bettergin/n/n44535d06ec80

ボロット物語 もくじ
https://note.com/bettergin/n/n7e1f02347fba

このお話の朗読動画もご覧ください!
https://www.youtube.com/watch?v=37KCMGmyb6g



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