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Landscape/Fragment  mixtape

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とりあえず現時点での詩集みたいなものです。
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#ポエム

ほっつき歩く、Tame Impala の"The Less I Know The Better"を聴きながら

あなたの眼のなかの海に独り溺れたい あなたの手のひらから離陸する爆撃機に焼き払われたい あなたの唾液で酩酊し ついでに重低音の効いたTrap Beatで踊りたい そういう願望に取り憑かれては 精液と残尿でシミだらけの、ペラペラの布団に酒を持ち込み、あおり、そして突っ伏す(実に私小説的だ) そして夜中に目が醒める 吐き気を抱えて外を歩く 煙草を吸いながら 高台の公園の展望台からしょぼくれた夜景を見下ろすと 電照菊の電球の群れが干潟の砂州のように地表の闇から浮き出ている カナブン

天球/霹靂

あるとき 海は涸れて 稲妻とまぶたが元どおりにひっつく ごみ捨て場の水溜まりから 滑りおちる空の事象 そして残された玉座を ほとばしる雲の流れがくつがえし 裏返しの世界では さかさまの地平線が胸まで浸してゆく 神様のなかの空洞で 砂ぼこりが舞い 花の子供たちの白いからだが 水晶でできた手のひらを渡って 星が突き刺さる風葬の洞窟に横たわるとき ふたたび 海は地球儀に拡がるだろうか 玉座は不在のまま 渡り鳥の羽根を積もらせているか

架空域

理解できない!! ピジン英語を話す鳥の群れがビルをすり抜ける 太陽を謹んで視聴し 逃げるという事実から何も学ばない レーザープリンターの電源を隠す 大量の死から隔てられたシンナーの海が押し寄せ 奇妙な石材から月が染みだした 連邦を愛し連邦に埋葬される 手帳に記された空の繊維の象徴 喜望峰は全く虚偽であった おそらく紐育の摩天楼も凍らない魚の半身である 沈んだ輸送船の掲げる国旗は翻り 渇望し足りないものは時間の流れだった 市場に並べられた確率から選び取り 広い野原に花束を添えて

Street

割れた酒瓶のかけら、一つ一つに 引きずられた哀しみが映っている。 ドブの蓋にぶちまけられた吐瀉物が 喧噪の街に滲んでいる。 銭湯帰りの少女の、黒髪の滴に 海のまえに拡がる夜景が映っている。 古物商のショー・ウィンドーは 今夜も妖しくひしめき合っている。 ああ、遊歩道の上で俺は不具、 それゆえ銀色のダイスに嘲笑されている。 五月の雨が疲れた暗渠を潤すまで、 俺は黄金の大八車を曳きつづけるのだ。 ああ、駐車場の傍で俺は不能、 あるいは落下するベッドルームの花。 肉欲は路上で

湾の見える丘

風の終わるところの、地面いちめんに 海を塗りたくった。 いろいろなものを浮かべた。 緑色の島々だとか、鈍色の貨物船だとか。 やがて赤錆の雨がそれらを台無しにした。 あくる朝、陽光のなかにヒルガオの花が揺れていた そこから風景がこぼれ、半島の向こう側まで広がっていった。 すべてが元通りになった。 村人たちは鐘を鳴らし、のろしを上げた。 船が一年ぶりに帰ってきたのだ。 私は、よれよれの軍服を着た祖父と一緒に、 丘の中腹のサトウキビ畑からそれを眺めていた。 ふと横を向くと、祖父の姿

砂漠/雨季篇

熱風が雨を呼び 稲妻が煙草に火をつける 砂に光をうつし 都市をつくり、 (空に)ひらかれた眼を、ラクダの隊商が横切る。 揺れるナツメヤシの葉、 素焼きの甕の欠片、 模様のある壁、 白い砂丘、白い太陽。 今も砂漠の声は 風をすりぬけて 遠い海岸に、苛烈な愛しさを伝えてくれる。

暴力的な姉妹

ゆたかな筋肉の手と足で 俺を殴る蹴るする姉妹。それ(その概念)が 怒れる手品師の渇きを癒します。 姉妹の圧倒的な暴力が俺の思い出を拭い去ります。 俺を殴り続け、蹴り続ける姉妹の上空を 銀色のジェット機が飛んでいます。 俺にはそれがとびきり偉大に思えます。 姉は美少女です。 彼女の飛び蹴りのフォームは美しく、俺の顔面をアザだらけにします。 妹は風邪を引いています。 彼女がアラサーの太った事務員になったのはたぶん俺のせいです、たぶん。 姉が馬乗りになって、すべすべの白い拳で俺を殴

Image

イメージの欠片を重ねて。 足音を集めて。 時がひとまわり、陽の光の曲がり角、 大通りを吹き抜ける風を浴びる。 追憶の自転車を漕いで。 The Smithsの曲をかけて。 肌寒い空気を吸って、懐かしい名前を呼んで、 せき止めた夜が都会の向こうから滲みだしてくる。

フィード・バック

みんな熱を持ってる みんな動くしくみを内蔵している 電動ハンドスピナーやスーフィー教徒 死にかけのヤスデでさえも 回転体は回転体を内蔵している 回路のなかの回路では行き止まりがない だから「永遠」があるように勘違いする でも区別したり認識するということは切り分けることだから きっちりと句読点がつけられてみんな混みあってるというわけ 意味は微熱をおびて ときたま 鏡写しになった無限の壁に向かって並んだりするけど だれしもが各々の世界のそとがわにさわれるわけではない そこで 高校

マテリアル・ボーイズ

もしも金銭を授受されるのであれば咎のない一般市民でも殴っていただろう つまり医学-科学の限界がそこまで来ている 広告に動かされる心がある すべり台から転落したまま(その状態のまま) 雑貨屋「カム・オン」で働いているジョージに病気をうつす 空きテナントに首なしマネキン それだけじゃ凡庸であるのに 安っぽい香水に漬けられた手と足を飾ろうとする 一緒に軍隊に入ろう 断面に阿波踊り・ヒップホップ 実にマテリアルである 熟女にメールを送るだけの仕事に費やした時間 採算が合わないし心は疲

スーパーマーケット・アンダーグラウンド

商業地帯をレモン汁で満たす ベッドを積み上げて月を掴むのだ この世界は俺のもの フレンチレストランの予約をキャンセルし 女学生に罵倒されよう 公安と内閣情報調査室が一日中俺を尾行している 肉屋の旦那が牛刀で俺を追い回してくる という妄想、いやそれは現実 有刺鉄線をくぐり、中央分離帯を綱渡り ハイウェイの電気ナマズ ライダーが点滅している 市立総合病院の屋上で大漁旗を振る俺 俺の横顔はナタリー・ポートマン並みに美しい スーパーマーケットの予定調和を 俺の血便と血尿で破壊してやっ

フェイド・アウト

この高度産業社会から いそいそとフェイド・アウト、したく それからずっとルンペン暮らしを、したい 私たち(ayy) 飼い犬(野良犬?)が殺され 「ワシらの悲劇」と銘打った戯曲の映画化はまだですか 私たち賤民とドロップ・アウト してみない? うふふ(vroom) オンライン上で 興味も無い女について知りたがる行為 支給されたタブレットは役に立たない 遵法精神あふれる私たち賤民とフェイド・アウト してみたいかね? ギャハハハ 話術が無いから偽造パスポートで身銭を稼ぐしかない 市の

風土記シンボリック

王水の国の拓かれた土地で 斜面が人々のほうを向いて喋った 押し黙る木々はきまぐれな季節に縛られ 嘘つきの猟師が硝石を舐めた 明日は小人族の閲兵式 そして来週には台風が来る 希望があさましく濡れている梅雨、 道祖神の傍らで 下級官吏のあばら骨がむき出しになっているのだ。

区画

記憶の通路から 水銀でかたちづくられた馬が飛びだし 漁港近くのバイパス道路を走る 立体駐車場を吹き抜けるぬるい風 遠くのサイレンがカーブミラーに映る地面をすべり 陽光が路地に隠された廃屋と茂みを浮きだたせる ブロック塀のひびは古くからの系譜のように上下にひろがり 無人のスケートボードが街角を曲がる 出会い頭の空に浮かぶのは夕日だったか それとも豪雨の青い光だったか