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べてるアーカイブ35th(9) 「浦河の精神保健の歩みから」

2019年の東京などでの講演会の内容から抜粋した部分のまとめです。浦河の精神保健の歩みを中心にお話されています。

向谷地生良(浦河べてるの家理事・北海道医療大学教授)
精神科で仕事をするようになったときに私が確信したのは、もし自分が病気になってここ(精神科病棟)に入院したら、自分が一番やっかいな患者さんになる自信があった。こういう構造のなかでは、自分は決して回復しないであろうっていうか、してやるものかみたいなね、そういう感覚になったわけですね。

だからちょっと極端かもしれませんけど、ある種のこういう心の病というかは様々な苦労や苦悩が煮詰まって、行き場を失って、みんな気分体調を悪くして病気になっている。手間隙かかっているわけですね。であるならば、何かその人達だけが回復するとなると、どうも理に合わないと。むしろその人達をこう煮詰まらせた、そういう現実を生み出した社会そのものがなにかこう変わっていく、そういうひとつの大事な情報を持った人として、この人達がただ病院の中で勝手に治るのというのがもったいないじゃないかと。むしろこの人達がこの病気になるまで煮詰められた苦悩、苦労が、むしろ大事な情報として社会にむしろ還元されないと、戻っていかないと社会そのものがまた同じような人たちを生み出していくっていう、そういう状態になるんじゃないかっていうことですね。

じゃあそのシュミレーションっていうか、会社や学校だとか地域で家庭で苦労が煮詰まった人達が自分たちでひとつの会社を作って、そしてその場を再現してみて、そこでどんな事が起きるのかっていうことをやってみたいなと思ってまず私はこのメンバーさんたちと一緒に暮らすっていう実験と、そしてみんなと会社を立ち上げよう、起業という実験をしたわけですね。ですから、なんとか療法とかいう、そういうなかで回復するというよりも、むしろ自分たちが傷ついてきた場そのもののなかで回復という現実を目指していけるかどうかという、一種の実験だったような気がするんですね。

そして、まず会社を作るかどうかっていうミーティングをした。浦河はどんどん人口が減っていっている過疎の町なんですけど、この町で普通の人たちがやってもうまくいかない商売が、うちらみたいなものがやってうまくいくと思うかとか、朝起きて誰が出勤してくるのみたいな。そんなことも言われるなかでぐずぐずしてたら、ひとりの統合失調症のおばちゃんが「そうだよね、あんたたちみたいな頭おかしい人たちが会社やってうまくいったら世の中そんな苦労しないよねって」。今でいえば相当な発言ですよね。そしたら早坂潔さんたちが火がついてですね、みんなでやろうってことになっちゃった。そのおばちゃんのおかげで会社ができちゃったみたいなところがあるんですね。

また実際、地域のいろいろな仕事を請け負ってやっていくと、あいつとは一緒にやれないとか、あいつと一緒の給料なんてのはどうも納得いかないとかですね、順調に灰皿が飛んだりとかっていうことが出てくるわけですね。どんどんもめるわけです。それで「向谷地さんどうしますか?」って言われたときに、あー素晴らしい普通の会社になってきたなと。

結局、自分たちもかつては会社なり社会のなかで排除されてきたけれど、自分たちがまたそういう会社を作ればまた同じことを自分たちがしてしまうっていう、この現実から自分たちの回復というものを捉えていく。先生のとこに行って治してもらってというんじゃなくて、そういうなかで回復というものを自分事として考える経験を積み重ねてきたっていうのがぺてるなのかなと。

だから当時から「今日も明日もあさってもずっと問題だらけ」と言ってきた。ずっと問題だらけいうところの現実を克服しようとするんじゃなくて、そのなかにこう立ち続けるっていうしぶとさ。それを支える手立てとして、いつも「研究」しているっていう、その発想に助けられてきたなっていう感じがします。

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1984年に設立された北海道浦河町にある精神障害を経験した当事者を中心とするコミュニティです。 社会福祉法人、会社、NPOなどがあり、主に日高昆布製品の加工・販売や出版などの情報発信、「当事者研究」などの活動を行なっています。最近は浦河産の苺🍓の加工も盛んになっています。

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