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「ホップステップだうん!」 Vol.184

今号の内容
・巻頭写真 「たばこの応援」 江連麻紀
・続「技法以前」158 向谷地生良 「花巻の原則-その1.“非”評価的/“非”援助的態度 続き」
・ UENOYES「津野青嵐とべてるのゲル」
・医学書院「シリーズケアをひらく」毎日出版文化賞受賞(企画部門)
・ヨーロッパの「ソーシャルファーム(Social firm)」
・福祉職のための<経営学> 046 向谷地宣明 「ただ居てもいいというのが文化(マジョリティの無意識)になったらいいよねというお話」
・ぱぴぷぺぽ通信 すずきゆうこ 「すごいですね べてるって‥‥」


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たばこの応援。

べてるでは1日のスケジュールや生活の応援の中で、たばこの応援もあります。
写真はスタッフのぱくさんが石村さんのたばこに吸う日付と名前を書いているところです。

お金の苦労から1日1箱をぱくさんから受け取る石村さん。
みんなに「僕たばこ吸えるの?」と聞いて、たばこがきちんと吸えるのか不安になる坂さんは1日11本。
たばこを箱で持つと吸いすぎてしまうため1時間1本に決めてスタッフから受け取っている佐藤さん。
他にも本人とスタッフやメンバーとたばこの応援の仕方を決めています。

決めた本数以外に吸いたくなるときはたばこの貸し借りが行われ、そこにはいろんなドラマが繰り広げられています。
タバコを1本貸しておくと困ったときに頼み事がしやすいという知恵や、借りて返せないときにどう謝るのかの工夫もされています。

私も「たばこ吸わないのか?」と聞かれたことがありますが、一緒にたばこ吸おうと誘われたのではなくて、1本ちょうだいの意味でした。

(写真/文 江連麻紀)

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続「技法以前」158 向谷地生良

「花巻の原則-その1.“非”評価的/“非”援助的態度 続き」

今回から「花巻の原則」について詳しく紹介していきます。前回も紹介しましたが、これは国立花巻病院の医療観察病棟における実践を踏まえて、「何が大切か」をスタッフが検討する中で生まれた原則です。そして、この原則は依存症や統合失調症などを経験した当事者の研究から生まれた「実践知」を、精神医療の現場に活かそうとする試みから生まれたものです。

その第一の原則は「”非”評価的/”非”援助的態度」の大切さです。これは、スタッフは「本人の語りに対して内容が妄想的かどうか、何が問題か、などの評価を伝えたり、否定したりしない」ことと「治療的・支援的態度を少なくする」という具体的な二つの臨床的態度を私たちに求めています。もちろん「本人の語りに対して内容が妄想的かどうか、何が問題か、などの評価を伝えたり、否定しない」という考え方は、目新しい考え方ではありませんが、実際には難しく、多くの場合「否定も肯定もしない」という立ち位置を重視してきました。一番わかりやすい例が次の言葉です。

「家族は幻覚や妄想について、患者さんが自分から話さない限り、聞き出そうとしないことが原則です。詳しく聞き出そうとすると、不安、緊張、困惑などがさらに強まります。罠をかけるような質問で、幻覚や妄想を暴こうとするなどということは行ってはならないことです。(自分から話した時には)聞くことが中心で、否定も肯定もせず、はぐらかしもしないという態度が基本です。・・・幻覚や妄想に迎合的な態度をとり、安易に相槌を打つことは、不誠実であり、妄想を補強することにつながります。」福西勇夫編「統合失調症がわかる本」法研 (2002)

当事者研究は、何が問題かではなく、「何が起きているのか」に向けた興味関心から立ち上がる研究実践です。一見、問題として考えざるを得ない事態に対しても「何が起きているのか」という眼差しを大切にします。その意味でも、単純な良い悪いの判断は、その事態や出来事の持っている見えざる可能性を見失うことにもつながります。特に「問題は、いつも解決に向けたプロセスの中で起きている」という”自分の助け方”の側面を見失うことにつながり、これは、哲学用語でいう「エポケー(〈ギリシャ〉epochē:判断をいっさい差し控える態度)」にも通じるものです。特に、専門家の立場から、一方的に物事を判断(アセスメント)するという立場も取らないという事の表明であります。

もう一つは、「”非”援助的態度」です。これは、2002年に出版された「べてるの家の”非”援助論」(医学書院)ではじめて紹介されたものです。”非”援助の世界では、さまざまな視点、立ち位置、考え方が反転していきます。それは、助けるはずの人に助けられたり、一番情けない人のお陰で、場が上手く回っていく可能性を意味し、”助けない”ことによって、もっとも必要な助け方が現実化するプロセスでもあります。それは、時には問題解決以上に、問題が問題として顕在化するプロセスを受け入れる態度も含みます。それは、「この人さえいなかったら」という人のおかげで新しい事業が生まれ「もっとも能率の悪い人」のおかげで職場に工夫と創造力が培われ、「病気」のお陰で、一番大切なものを見失うことなく、「山積みの苦労」によって場に助け合いが生まれ、職場の雰囲気がよくなり、それが人と場の成長をうながすことを経験的に育んできたべてるの歩みそのものでもあります。

それは、次の反転にもつながります。「病気をした私たちでさえ、この病気になったらもうおしまいだなどという誤解をして、慣れるまでけっこう時間がかかりました。ですから、みなさん大丈夫です。あまり無理して誤解や偏見をもたないように努力したり、自分を責めたりもしないほうがいいんです。体をこわしますから」(べてるの家の”非”援助論)

当事者研究が、さまざまな領域に広がる中で、さまざまな”非”援助論的なエピソードが誕生することを期待しています。

向谷地生良(むかいやち・いくよし)
1978年から北海道・浦河でソーシャルワーカーとして活動。1984年に佐々木実さんや早坂潔さん等と共にべてるの家の設立に関わった。浦河赤十字病院勤務を経て、現在は北海道医療大学で教鞭もとっている。著書に『技法以前』(医学書院)、ほか多数。新刊『べてるの家から吹く風 増補改訂版』(いのちのことば社)、『増補版 安心して絶望できる人生』(一麦社)が発売中。

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UENOYES「津野青嵐とべてるのゲル」

11月9日~10日、上野公園で行われた「UENOYES」というイベントがあり、べてるから早坂潔さん、木林さん、伊藤さんらメンバーが参加しました。

今回は、「津野青嵐とべてるのゲル」と企画で、最近べてるに就職した看護師でアーティストの津野青嵐さんを中心に「ゲル」のなかで当事者研究などのワークショップを行うということをしました。

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会場となった上野公園の噴水広場にはたくさんのゲルが並び、中心にはダンボールを使って自由に創作できるスペースがありました。

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1日目は東京の作業所ハーモニーと一緒に「幻聴妄想かるた」などをやったり、それぞれの活動を紹介したりしました。
2日目は東京のBaseCampのメンバーたちと一緒に自己病名を考えるワークをしたり当事者研究を行いました。

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「UENOYES」というイベントのコンセプトは、「一つ一つの色々な色がしっかりとその色のままで見ることができるのがUENOYES。隣の色と混ざってしまって自分の色がわからなくなるのではなく。同じような色だから、みんなだいたい同じ色でいいよねと言われて、自分の色がみんなと同じになってしまうのではなく。一人一人の人がその人のままでいることを自然に受け入れてくれるのがUENOYES。」とHPに書かれています。

参加してくださった100名以上の人たちも、べてるや当事者研究の活動にとても興味を持ってくれて、「一人一人の人がその人のままでいること」というのがとても体現された時間だったと思います。

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9日夜に行われた「writtenafterwards」のファッションショーでは、早坂さんが涙が出るくらい感動したと言っていました。

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また、有名なライブストリーミングサイト「DOMMUNE」に出演して木林さんが「べてるのズンドコ節」を披露したりして、この2日間でべてるのツイッターのフォロワー数も200人くらい増えてました。

そういえば浦河ってモンゴルと姉妹都市なんですよね。いつか浦河の草原にゲルを建ててゲストが泊ったりできるようになると楽しそうですね。

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医学書院「シリーズケアをひらく」毎日出版文化賞受賞(企画部門)

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「非援助論」「当事者研究」「技法以前」などなど、多くのべてる関連本が出ている医学書院の「シリーズケアをひらく」が、今回、毎日出版文化賞(企画部門)を受賞しました。今月、東京の椿山荘で行われる授賞式にはべてるからも駆けつけて、スピーチをする予定です。その模様はまたみなさんにご報告したいと思います。お楽しみに!

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べてるのゲルには「シリーズケアをひらく」を20年以上に渡って編集してきた医学書院の白石さんも来てくれました。

「シリーズケアをひらく」で最も多いのがべてるの本。白石さん曰く、「ケアをひらくの核心はべてるの『わからなさ(謎)』」。

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