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「自分の背中は見えない」ことから

先月、オンラインハラスメントについての経験を綴ったnoteを書いた。今回は、同ブログ以降の反響をふまえ、具体的なアクションについて考えてみている。(※なお言うまでもなく、この記事は誰しも利用できるガイドラインを目指しているわけではない。わたしとわたしの周りの人達が、オンラインハラスメントの現状に対し取りうるのではないかという行動の方向性をまとめているが、もしかすると参考になるかもしれないし、ならないかもしれない。もはや、私の取扱説明書になるのかもしれない。)

前回のnoteへの反応

個人的に執筆に体力を要した文章だったので、しばらくツイートをミュートにしたこともありもしかしたら拾えていない反応もあるかもしれないが、実はみんな同じように悲しくなったり、悩んだりしていたとわかった。とりわけ女性からの反応が多かったのは印象的で、自身の過去の経験をシェアしてくれた人や、読んで感じた疑問からディスカッションに誘ってくれた人もいた。こうして一緒に進もうとしてくれる人がいるのはとてもありがたいことだ。

社内では、弁護士の方を招いて、誹謗中傷に対する訴訟や意図せぬ炎上が起こった際の対応・初動等に関する勉強会を実施することも決まった。顔と名前を出して働くひとが多い業界でもあり、このようにサポーティブな姿勢を示してもらえるのは本当に心強い。

また、お世話になっている弁護士の佐藤暁子さんに連絡すると即座に、まずできる対応は何かと併せて、オンラインヘイト・ハラスメント問題を専門にしている弁護士の方を紹介いただいた。実際に誹謗中傷を受けたときに、どんな選択肢がありそれぞれのメリデメは何なのかについては、自分でも調べたことがあったがやはりネット上の、かつテキストのみの情報では点と点がつながらない部分が多かった(誹謗中傷に遭った際取りうる選択肢は何があるのか、なぜプロセスに時間がかかるのか、なぜ開示は難しいのか等)のに対し、丁寧に相談にのっていただいたことでかなり理解が進んだ。

知識が整理できることはもちろん、この領域に強い関心を持って取り組んでいる方の存在を知り、そういった方々に相談に乗ってもらうことで得られる安心感は大きい。何を言われても「諦めるしかない」と、つらい思いを一緒くたに心に押し込んでいたのが、困ったらそれを相談できる専門家がいるのは大きな支えになると感じている。

さらに、衝撃的だったのは、この領域は木村花さんの件がありようやく(!)動きが出てきたという点だ。この悲しい事件を発端に、オンラインでの誹謗中傷等に対し被害者の泣き寝入りが最も現実的な解となってしまっている現状を受け、プロバイダー責任制限法(参考リンク)の見直しが行われ、改正法が成立している(施行はまだ先)。何が変わったのか、また具体的になぜ開示や賠償請求が大変なのかについては先の記事に詳しい。

また今回弁護士さんへの相談を経て、理解が進み安心を得られたのは事実である一方でなお感じるのは、①今回の改正法はプロセスを一部簡略化するものの、未だ様々な点で(コスト、労力等)一般人にはハードルが高い、②当事者は極めて嫌な思いをするが開示等には持っていけないものに対するケアはどうすればいいのか、③相談したりアクションを起こしたりするのに、誹謗中傷をスクショする際再度それを目にするのは結構しんどい、といった点だ。開示の難しさはプラットフォーム側の姿勢にも依存するが、個人的にここは変えていくためにアクションをしていきたいと思っている。

当事者としてできるかもしれないこと

前回のnoteで提示した問題や、先述の未だ残る課題について解は出ていないものの、暫定私が取り組んでいるアイデアを紹介したい。もしこれを見て、こうやってるよ、とかこういう方法があるよ、とか、一緒にこれをやりませんか、とかあったらぜひ会社のHP宛に連絡してほしい。

まず手始めに、誹謗中傷にあたりそうだなと思ったものについてはは、弁護士の方にアドバイスいただいたとおり、スクリーンショットを撮りURLを保存している。(それまでは、もう目にしたくないという思いからすぐに消してしまう/見えないようにすることが私自身多かったのだが、周りでもそういう人は多いようだった。)そしてそれを一つのフォルダにまとめて、何かあればいつでも弁護士に渡せるようにしている。

また、このフォルダは会社のメンバーにも共有している。共有の目的はまず第一に可視化だ。可視化されることで、この問題への関心が高まったり理解が進んだりすることで、いつか別の誰かが同じような目に遭ったときのアクションに繋がるかもしれない。また、誹謗中傷の被害者に対してかける言葉や彼ら・彼女らへの目線も変わるのではないかという願いもある。わたし自身、自分がターゲットになるまで、実際にオンラインであれこれ言われるのがどんな感じなのか、よく分かっていなかったように思う。身近にそんな人があまりいなかった(もしくは見えていなかった)ため、リアリティを持ってこの問題を考えたことがなかったからだ。でも、身近な人のこととなれば多少なりとも眼差しが変わるのではないかと思っている。

一方で、自分が傷ついた体験をシェアすることは、身を削り魂をすり減らすことだとも感じる。経験を開示して、さらに傷つく言葉がかけられるようなことがあれば、言わないほうがマシに思えるからだ。身の回りでは極めて心理的安全性の高い環境に身を置いている私自身でさえ、周りに伝えるときにはいつも、ひどい言葉を投げつけられた自分が情けなく恥ずかしくなるし、(ありえないと分かっていても)「こんなのを気にしているの?」と思われはしないだろうかという恐怖がつきまとう。

が、まずは身近なところからこの問題への関心を上げる必要があると勝手に義務感のようななにかを持っているので、しばらく続けてみようと思う。

オンラインハラスメントに遭遇した・相談されたときに何ができるか

悲しいかなTwitterをはじめインターネットの大海にはヘイトや差別的な言説が溢れている。性別や国籍にかかわる差別から、ただ鬱憤を晴らしたいだけのいわゆる「捨てアカ」の暴言など挙げればキリがないが、本当に酷いのは確かだ。

そういった言説を見かけた時、まず私はかならずPF側に報告(Twitterであれば「ツイートを報告」をクリック)するようにしている。これは、些細でとるに足らないアクションのように思えるかもしれない。実際、毎回その報告が何がしかの結果をもたらしているとは言えないが、Twitterポリシーの違反が確認されたらアカウントは一時/永久凍結する。(また、最近少し話題になった「他の人を攻撃する目的で複数のTwitterアカウントを管理することを禁止するルール」の存在は、差別を吐き散らすためだけに作られた捨てアカを許さない姿勢の発露であり、ユーザーにとってはそれらをきちんと報告するモチベーションになると感じている。)

そしてここからは個人的に大事にしているスタンスになってしまうが、嫌がらせを受けた人がどんな気持ちになっているかはわからないという前提に立つことが意外と価値があるんじゃないかと思う。わたしだけかもしれないけど、オンラインで嫌なことを言われた時に、「無視しろ」と言われるのも嫌だが、本当に心を許している2〜3人以外の人から「あ〜嫌だよね、わかるよ〜」と言われるのはちょっとだけモヤッとする。そこからさらに、「でも気にしても仕方ないし、気にするだけ無駄だよ!」なんて言われた日には、弱り目に祟り目というか、とにかく気が滅入る。もちろん、相手も悪意を持って言っているわけではないことは分かっていても、「いや、同じ経験なんてなければ、似ている経験をしているのかすらわからないし....」「私のこの苦しい気持ちは無駄.....無駄に時間を割く非生産的な人と思われるのだろうか... (※考えすぎ)」と、かなりズーンとした気持ちになりがちだ。それなら一言「辛かったね、嫌だね」と言ってほしいし、自分の話に持っていかずに一緒に怒ってほしいとすら思うこともある。(そんなふうに願ってしまう自分との折り合いは、まだついていない。)

そして前回のnoteにも書いたが、大事だと思っているので繰り返すと「無視しなよ」は優しさを通り越して禁句とも言えるのかもしれない。こっちだって、無視できるなら無視したいのだ!無視できないから相談しているのである。「無視する」というのは、一般に思われているように単に「スルーして忘れようとする」だけではなく、こちらが一方的に心をすり減らし続けなければいけないという"被害を温存する構図"なのである。

おわりに

何らかの方向性を示したいと思いながら書き始めたものの、即効性があり効果的なアクションプランにまでは落とし込めなかった。が、例えば中傷を含むツイートは報告するとか、「無視しなよ」とは言わないとかは今日からでもできるから、これを読んでそういうちっちゃな行動の変化が起こるとうれしいなと思う。そもそも誹謗中傷の被害者になること自体が、今は対岸の火事のようでも、明日は我が身かもしれないし。

そして長期的には、たとえば現行のプロセスを変えようとするとか、そういう声が上がったときに賛同するとか、そういうアクションにつながるのを目にする日がくれば、身を削ってこんな記事を書いた甲斐があったなと思うのだろう。

参考記事

https://help.twitter.com/ja/rules-and-policies/abusive-behavior



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江原ニーナ
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