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[コラボ曲ライナーノーツ] psy xl feat.beta - radioactive decay

psy xl(@psyxl1)さんとのコラボ曲『radioactive decay』の制作過程や、
僕らがこの一曲にかけた想いなどを綴っていこうと思います。

psy xl feat.beta - radioactive decay

制作へのいきさつ

psyさんは主にエレクトロニカ、僕はインストメタル専門、これだけ書くと全然接点がないように思われますが、お互い80~90年代のゲームミュージックが大好きで、特にセガ、コナミ、タイトーといったアクション&シューティング系に強いメーカー作や、アーケードゲームに触れて育ってきたという大きな共通点があります。

psyさんの作風は、まさに「現代に蘇り、進化したゲームミュージック」であり、最初の1曲のイントロを聴いた瞬間にクリーンヒットでした。
psyさんもまた僕の曲を大いに気に入って下さり、ジャンルは違えど、
やはり追いかけてきたものが同じというのは大きいのだと思います。
そういったいきさつから自然と意気投合し、「1曲やってみますか」と
いう流れになったことがコラボのスタートでした。

制作手法

psyさんにベースとなるトラックを作ってもらい、僕がギターリフ&フレーズを入れて少しずつアイディアを固めていくという方式を取りました。
どちらが主導権を持つかすら決めずに、アイディア出しの相互作用で
少しずつ曲のディテールを定めていこうという考え方です。

制作過程 ー デモトラック~おおまかな構成決定

最初にpsyさんからいただいたトラックは悪魔城伝説の地下ステージのような硬質かつややミニマルなイメージでした。
ダークさ、硬質さを補強するようにパワーコード&add9を基本としたシンプルなヘヴィリフを入れ、ゲームっぽさもありつつ、全体的にはリフ主導のエレクトロ寄りインストメタルといった雰囲気で一旦まとまりました。

それから少し経ち、psyさんから新しいトラックが。
できつつあったトラックから新たな着想を得、ギターが入る前提で隙間を作りながら全体の構成を大幅に作り直したようでした。

デモトラックのややミニマルなイメージから、ダークなSF世界観はそのままに、シリアスで勇ましいメロディ、なおかつアグレッシヴな一面と躍動感も感じられるような、まさに黄金期のゲームミュージックスピリットにあふれた素晴らしいトラックに仕上がっていました。

トラックを聴きながらリフメイクに徹する。
僕にとって作曲の中で一番楽しい段階に入りました。

ギターリフ&フレーズメイク

コード進行が割とシンプルな繰り返しだったため、まず必要性を感じたのは、最後まで飽きさせない展開に聴こえるよう、ギターでダイナミクスを支えることでした。
各リフ&フレーズで工夫したことをまとめると、

・クリーン 単音フレーズ&コードストローク
 リピート感をなくすための細かなフレーズ&コードアレンジ。
・ディストーション 単音フレーズ
 中盤はピッチシフターを利用し、コードチェンジ感を演出。
・各ヘヴィリフ
 曲頭から順番に、オクターブ、パワーコード&add9、ブリッジミュート、
 最終コーラスでは4音のadd9omit3とその他コード等を行き来しています。
 場面場面でリフの系統を大きく使い分けました。
・最終コーラス リード
 オクターバーを使った高音域と厚みの補強、
 リバーブ後掛け&ウェット割合を高めにし、空間の広がりを演出。

大体こんなところでしょうか。
繰り返しになりますが、ギターが展開の多様性を確保する鍵だと感じていたので、曲全体がほぼパワーコードというようなオルタナの典型的なアプローチは避け、シンセパートの邪魔をせず、なおかつ隠れすぎずというラインを狙っていきました。

構成確定~ミックス

ギタートラックの提出、psyさん側のリズムトラック追加、
シンセリード音色の見直しなどを経て構成が確定。
ここまではおおむねスムーズだったように思います。

問題にぶち当たったのはミックスです。

僕は普段からギター主体の作曲で、なおかつシンセは基本的に後ろに下げる作りであるため、「ギターが目立ちすぎて困る」という問題はほぼ起きません。シンセが邪魔ならそっちを削ろうくらいの感覚です。
しかし今回の曲は、ギターとシンセがバランス感を持って並立することこそ最大のポイントであり、これが相当難儀だったようです。

必然的にpsyさんの負担が大きくなってしまい、リフ単位でオーディオファイルを提出して組み込んでもらう形はとりやめ、いわゆるステムミックスを利用した作業工程に切り替えました。
ギター以外のトラックをステム化してもらい、僕自身がギタートラックをミックスしていく形ですね。
このやり方はうまくハマり、僕にとっては普段の曲作りより少し難しい程度の作業工程なので、イコライジングやコンプの調整、パンニング、音像の調整などをおおむねスムーズに行えました。

ギターは合計で3トラックにまとまり、基本的な調整が終わった素材を使ってもらうことで、psyさんの最終的なミックス&マスタリングもはるかにスムーズに進んだようです。(とはいえ、特に中盤コーラスのシンセリードとヘヴィリフの両立などはやはり相当大変だったと思います)

完成形へ

マスタリングデータを聴かせてもらったときの感動。

どうしてもギターを前に出し過ぎてしまいがちな僕のクセは完全に払拭され、まさにオルタナティヴメタルとゲームミュージックが1:1の割合で美しく融合した素晴らしいトラックに仕上がっていました。
決して奇抜ではなく、むしろ王道感すらあるのに新しい。間違いなくこれはゲームミュージックであり、同時にオルタナティヴメタルである、と。

イントロの張り詰めた空気、
描き出されるダークで退廃的なSF世界、
強大な何かに立ち向かうがごとく動き出す情景。
決して届かない何かに向かって必死に手を伸ばすかのように、
悲痛な叫びを上げるシンセリード。
意気消沈しながらも、再び力を取り戻そうと葛藤するかのような間奏、
そして鮮やかさを取り戻す世界。
優しい雨に打たれながら物語の幕は閉じる。

僕にとって『radioactive decay』はこんなイメージの一曲です。
皆さんはどんなイメージが浮かんだでしょうか。

結びに ー ゲームミュージック、
     そしてオルタナティヴメタルへの想い

僕の音楽遍歴はおそらくかなり変わっていて、中3くらいまではほとんどゲームミュージック以外の音楽は受け付けないほどに傾倒していました。

体を突き動かす激しいグルーヴ、電子音楽でありながら、
一般のエレクトロニカとは明らかに異なった構成や展開。そして何よりも、シリアスで勇ましく、強烈なキャッチーさを放つメロディ。

そんな頃に映画『ブレイド』でニューメタル (*オルタナティヴメタルの近似ジャンル。ほぼ同義で使われることも多い。) に出会い、ヘヴィで硬質なギターサウンド、ヒップホップ&エレクトロとロック&メタルの融合といった要素に一撃で虜になりました。
その頃最初に耳にしたLINKIN PARKやdeftonesは今でも僕にとって大きすぎるほどの存在感を持つバンドです。かれこれもう15年以上聴いています。

幼少期はゲームミュージックとともに過ごし、青年期をオルタナ&ニューメタルに支えられてきた自分にとって、この2つのジャンルは育ての親のようなものでしょう。

psyさんと共に、自分が最もリスペクトする音楽ジャンルをクロスオーバーさせ、新たな表現スタイルとして昇華できたことは一生の宝です。

ご視聴いただいた皆さんにも、僕らがゲームミュージックへ注いできた情熱や、オルタナ&ニューメタルのヘヴィなグルーヴの魅力が少しでも伝われば本当に嬉しく思います。

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