月曜日の夜に: ロマンス短編小説集 Kindle版「月曜日の夜に」試し読み
「月曜日の夜に」試し読み(抜粋)
出入り口の木製扉の開く音が聞こえたのは、午後十時を過ぎたころだ。カウンター越しで、マスターと話し込んでいた健太は、反射的に扉へ目を向けた。
扉のところで佇んでいる女は健太と視線を交わすと、口もとに笑みをたたえた。
女の髪はキャメルカラーで胸もとまで伸びていた。髪の長い女は、花柄のパンツに無地のニットシャツのカジュアルな服装だった。
女は黒いパンプスで床を鳴らしながら、カウンターに歩み寄ってきた。
たまご型の顔立ちは鼻筋が通っていて、鼻先が、やや尖っている印象をあたえた。けれど色つきの眼鏡を掛けているせいで、目もとの表情を窺うことはできない。
軽く会釈した女は、背後を通り過ぎて、健太の席からひとつ空けて座った。
香水の匂いが、鼻腔にふんわり漂った。懐かしい匂いがした。どこかで味わったことがあるような気がしたが思い出すことができない。健太は記憶をたどることを止めて、グラスを傾けることにした。……つづく。
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