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『フリーター、オーロラを見にいく。』 #1 俺ノートに書かれていた夢

(1335文字)



フリーター、オーロラを見にいく。


#1



ぼくは最近、フリーター界で''天下''を取った。
何を隠そうぼくは現在、家賃2万8千円風呂なし激狭物件に在住の折紙つきで筋金入りのドフリーターである。
これから話す話は、そんなドフリーターであるぼくが、つい1ヶ月程前に、
''半年間バイトのみで貯めた50万円で、人生初海外であるカナダのイエローナイフに、兼ねてからの念願だったオーロラを見に行った''という「フリーター、家を買う。」以来のシンデレラストーリーの一端である。
話し始める前にもう一度言おう。
ぼくは、フリーター界で''天下''を取ったのだ。


時は遡ること6年前。
ぼくが高校3年生の18歳の時に書いていた通称''俺ノート''には、''死ぬまでにやりたいことリスト''などという、いかにも18歳が過ぎる内容の夢々が、箇条書きで数十個ほど羅列されていた。
その中の一つの、割と上部に乱雑に記入されていたものが、''オーロラを見にいきたい''という、とある一つの夢だった。

オーロラがどこで見えるのか、どんな条件で見えるのか、見に行くのにお金がいくら必要なのか、その頃のぼくは皆目見当が付いていなかった。だがしかし、ただただ見たいという熱い気持ちだけは、他の誰よりも強く持ち合わせていた。
きっとそう思った背景には、幼き頃に親父に雲取山に連れてかれて、夜中に眠いのに起こされて、半ば強引に見させられた''星の美しさ''がぼくの身体の中にまだ残っていたからだと思う。それから夜空に興味を持ち、テレビでオーロラの映像が映し出される度に、その画面を凝視し、何度も何度も''見にいきたい!''と恋焦がれてきた。''オーロラ''は、それぐらいぼくにとって、特別なものであった。

そして、5年後の2023年8月某日。
ぼくは家賃2万8千円の居間無し3畳アパートで、机や本棚の整理をしていた。新しく古本を買って来たから、それらをどこに収納しようかと棚の中をまさぐっていた時、棚の奥にぶち込まれていたピンク色のファイルがぽとりと落ちた。ぼくは吸い込まれるように、6年ぶりにそのファイルを開いた。
すると、中に入っていたのは''俺ノート''だった。冷や汗をかきながら恐る恐る読んでみると、思わず吹き出してしまう内容が沢山あった。例えば、''どうして大学に行かなければいけないのか''というタイトルで見開き分思いついたことを書きまくっているページがあったり(相当行きたくなかったのだろう)、''4人のお笑いで売れたらしたいこと''などの華々しい夢々が、いくつも汚い字で書き込まれていたりした。
その中には、まだ自分が目指している夢も沢山あったが、もうすでに叶わない夢も幾つかあった。それを暫く読み返していると、感傷的な気分になった。が、そこでふと思った。

''もう、あれから6年も経っているんだ。
今すぐに達成できることはないだろうか。''

お笑い活動を休止してる今、ぼくが達成できることは、そのノートの中で以下のたった二つだった。

・CoCo壱でトッピング全乗せカレーを
 注文したい

・オーロラを見にいきたい

ぼくは、後者を選び、そのためにいくらお金が必要なのかといった逆算を始め、前者には太く、斜線を2本引いた。
(つづく)

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