見出し画像

「星在る山」#15 闇の中のトンネル

(1492字)
こんばんは。ベストフレンドというお笑いグループでボケをしているけーしゅーです。
今回もぼくの夏休みの実体験、秩父版スタンドバイミーを書いていきたいと思います。
今回は思い返すだけで怖い回です。
興味がある方は、ぜひ1話からどうぞ。


*15


時刻は2時を超えた。''うしみつどき''と呼ぶらしい。その頃ぼく達は再びしゃべる気力を失せていた。
話すことが無くなったからではない。
終わりの見えない''闇''に身体を向かわせ、いつ現れるか分からない''何か''に五感を稼働させ続けることに、疲れ切っていたのだ。
山頂という圧倒的なゴールを目指していたならばまだ分かりやすいが、そもそもの目的が目的だっただけに、''先''のことに皆目見当が付かないから、精神と身体の統合がまるで取れなくなっていた。
確かに、こんな所で足を止める訳にはいかない。
だが、星ならもうすでに''そこ''に見えているのだ。
にも関わらず、なぜ歩いているのだろうか。
いや、なぜ''足が止まらない''のか。
もしかするとぼく達は、''山を登っている''のではなく、''山に登らされている''のではないか。
そんな気さえしてきた。

「あれ、トンネルじゃね」
「ほんとにGoogleマップここ通れっていって
 る?」
「うん、言ってるよ」
「光消す?」
「消すか!全部の光付けよう。....、おれさすがにここはパスしたいな..」
「パスって通るって意味だけどね」

''心霊スポット''になり得る条件というものがあれば、全てにチェックが付きそうなほど不気味なトンネルが、唐突に目の前に現れた。
今までの''怖い''とはまた話が違う。
物理的に生命を脅かされる恐怖というよりかは、この世界と遮断された''空間そのもの''の恐怖だ。
そこでは何が起きてもおかしくないから、近づいてはいけないと、感覚、意識、身体の全てが拒絶を示してくる。
一歩足を踏み入れると、早速、小気味が悪かった。音は無駄に反響し、闇はさらに濃くなった。
何より怖いのは、''先''が見えないこと。
本当に抜けられるのかと疑うほど、''先''のことがひたすら不安になった。
ここから出るという明確な目的があるから、足を前に進めることに理由は付いた。
だから、足早になる。
後ろだけは、決して振り向かなかった。

「これさー、もー感覚がまひってるから通れたけど、普段だったら絶対通れないよね」
「ね。一生、出口来ないのかと思った」
「なんか、変な声聞こえなかった?」
「えー聞こえたっけ?」
「聞こえたよね!あれ、おれだけかなと思って
 た良かったーー、なんか動物か分かんないけど
 鳴き声みたいなの聞こえたよね」
「逆にさ、あのトンネル通って鳴き声の一つや
 二つで済んだだけ、まだマシだろ。一人で行けって言われたらおれ絶対無理だったわ!」
「一人は無理だね」

''一人で行く''なんて、トンネルどころか山の入り口から不可能な話だった。
一人で山を登っていたならば、感覚はすぐに疲弊し、意識は足を前に進める理由がないから引き返せ、と命令を出し続けてくるだろう。
朝日が登り、光が世界に戻るまで山を歩き続けるくらいなら、死んだ方が楽だと真剣に訴えかけてくるかもしれない。
それぐらいの状況下であったにも関わらず、精神的にも身体的にも、これぐらいのダメージでここに立っていられるのは、言うまでもなく一人ではなかったからだ。
友達がいなかったら、恋バナもできなかったし、鹿も褒められなかった。
ミヤマクワガタも気づかずに素通りしていたかもしれない。
ここまでの道のりの時点で既に、''山は友達と登るものである''ということを、全身をもって享受できた。
(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?