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「星在る山」#8 三峰口到着

(891字)
こんばんは。ベストフレンドというお笑いグループでボケをしているけーしゅーです。
今回も前回に引き続き、秩父版スタンドバイミーをお送りします。気になる方は、ぜひ一話からどうぞ。

*8

タクシーを降りて辺りを見まわすと、そこはほとんど光がなかった。そして4人は、いの一番に空を見上げた。
「え、もう凄くない?」
「ちょっと待ってくれ、これヤバいぞ!」
「うわーこれは綺麗だね」
「早く行かないと、アイツ待ってるから」
空はもうただの黒には見えなかった。
もう少しじっくりとその場から見える星を楽しみたかったが、ギャランドゥー男の存在を思い出して、駅へ駆けて向かった。それにしても、こんなに光のないうっそうとした場所で、1時間以上も一人で待たせていたと思うと、申し訳なさと心配な気持ちが途端に襲ってくる。


「おう!」
「おう」
駅に併設されている怪しげな小屋のような待合室に、ギャランドゥー男はあっさりと座っていた。
「わりぃ。いつ着いてた?」
「1時間前くらい」
「お前、よくここで一人で待ってられるね。
 何かなかった?」
「何もないよ」
「怖くないの?」
「いや、そんなに」
「ごめん電車がもう無くてさ。タクシーで来たん
 だけど、おっちゃんがメーター止めてくれて、
 西武秩父から3300円で来れたわ」
「えーそうなんだ」
「やばくね」
「良い人だね」
「明かりぐらいつけろよ」
「電池もったいないなと思って」


男が無事だったことと、なんだかんだ目的地の
''三峰口駅''までたどり着いたことに、もうすでにちょっとした達成感があった。
''笑いとは、緊張の緩和である'' 落語家・桂枝雀の
言葉の意味が少しだけ理解できた気がする。
「おれちょっと星見てくるわ」
「線路の所行って来るわ」
「水入れたペットボトルに懐中電灯を当てると、
 光が広がんのよ」
男達が自由行動を始めた。
ぼくはそうあせるでないと言わんばかりに、待合室のベンチに腰をかけ、リュックからSEIYUの398弁当を取り出した。時刻は22時半。ここへ来るまで、気を張ってバタバタして来たせいもあってか、死ぬほど腹が減っていた。ペットボトルの中の水に、反射して広がる懐中電灯の光を灯にして、弁当を貪り食う。チキンの一つ一つが、衝撃が走るぐらい美味かった。(つづく)

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