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「星在る山」#9 ギャランドゥー男

(812字)
こんばんは。ベストフレンドというお笑いグループでボケをしているけーしゅーです。
今回も前回に引き続き、星を見に行く話の第9話です。オススメは当然一話からです。ぜひ。


*9


「この後な、もっと星が綺麗な所に行くのよ」
「あ、そうなの?」
ギャランドゥー男に、食いながら今後の流れを
説明した。
「タクシーの運転手さんが教えてれてさ、
 三峯神社って所があるらしくて、そこの星が
 えぐいらしい」
「へーー」
「でも、歩いて5時間ぐらいかかるって。おれら
 ふた山越える」
「え、遠いね」
「えぐいよな。でも行くしかないのよ。
 おれらタクシーの運転手さんに行ってみます!
 とか言っちゃったし、そんでメーターも止めて
 貰って、で、どうせ帰りの電車もないだろ」
「まぁ、そうね」
「だから、おっさんのためにも行くんだよ」
「そうなのか、」


感情が同じ文脈の立場じゃない男に、無理やり
例の''使命''を押し付けた。
だが、この男は否定もしなければ肯定もしない。 いつもこの男は、ただただ自然と成り行きを受け入れた。
第一、1時間以上もたった一人で慣れない地で待たされたら、開口一番怒っても良いはずだ。正式な謝罪を要求してもいい。神社へ行くという急なこの提案だって「遠くね?」「めんどくね?」と冷静に払いのけることだってできたはずだ。
しかし、この男はそうしない。
簡単なようだが、こういう風に振る舞える奴は
なかなかいないように思う。''水は方円の器に従う''というが、まさにこの男の水のような性格は、「普通」の形とはかけ離れた歪な器でも、
いつもあっさりと収まってくれて、ぼく達には常に必要な存在だった。
そもそも受験生の''天王山''である夏休みに、躊躇なく映画の主人公をこの男に頼めたのも、さらにそれをこの男が引き受けたのも、やはりこの男の水のような性格に依る所が大きかったように思う。
そして、実はそれが一番「普通」ではないということに、当の本人は気づいてはいなかった。
(つづく)

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