見出し画像

「星在る山」#12 深山の洗礼

(762字)
こんばんは。ベストフレンドというお笑いグループでボケをしているけーしゅーです。
秩父版スタンドバイミー12話です。
今日は、危険です。R9ぐらいはあるかもしれません。


*12

「おい、後ろから車来た!」
「寄れ寄れ寄れ!」


こんな時間にまさか人なんていないだろうと、
一台の車がとてつもないスピードを出して、
ぼくらに向かって走ってくる。
ぼく達は、すぐさま懐中電灯の明かりを振って、存在を知らせた。
車は、ぼく達に気がつくと慌てたようにスピードを落として、僕たちの真横を走り去っていった。

「危なかった…」
「これさ、もしかしてだけど、懐中電灯の
 電池切れたら、おれ達死なね?」
「熊どころじゃないな、カーブとかから急に車
 来たら、もう終わりだな」
「確かにそれはヤバいね」
「ちょっと懐中電灯、全部付けないで節約して
 行こうぜ。これはシャレにならんわ」

車はその後も2〜3台、前から、後ろから、
ギリギリの所でスピードを緩め、ぼく達の真横を走り過ぎていった。
そんな時も、谷側のガードレールの向こうからは、勢いの良い川の水が流れる音が、山側の闇の向こうからは、得体の知れない何かのうめき声が、ずっと鼓膜に触れてくる。
こうなってくると、恋バナなんて効きはしない。
それどころか、いつ頃からか男達は皆おしゃべりを止め、無言になっていた。
車や音や闇に意識と感覚を全て支配され、神経衰弱に陥っていたのだ。

そしてその矢先、山側の道の方から、ザザザっと木々が揺れる音が聴こえてきたかと思えば、まもなくぼく達の少し前の闇の方で、暗闇に実体は溶かしているが、薄緑色の二つの動く球体が、はっきりと宙に浮いているせいで、よりありありと、''居る''ことを想像させてくれる何かが、確実にぼくらの方へ向かって近づいてきていた。

「終わった…。」
                  (つづく)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?